『アイドル』の意味を前向きに考える

 『アイドル』という言葉を、今回は前向きに考えてみることにします。ネットのウィキペディアによると、日本の芸能界における『アイドル』とは、「成長過程をファンと共有し、存在そのものの魅力で活躍する人物」を指す、と説明されています。つまり、そうしたアイドルになる活動が(例えば、人気者になる活動が)、アイドル活動だというわけです。
 『アイドル』という言葉で、言葉遊びをしてみると、愛(らしい)ドール(doll)あるいは、”I(なぜか英語ですが、『私』という意味。)”ドール(doll)という、すなわち、『アイ・ドール』を縮めて、『アイドル』と読めます。
 この『ドール(doll)』という単語の意味は、『人形』です。これを英和辞典でさらに調べてみます。「美しいが無表情な女、白地美人」という意味もあります。俗語(スラング)として、「娘、女、(特に)美人、べっぴん」あるいは「(女性から見て)いかす男、すてきな人」という意味もあります。さらに、アメリカの俗語として、「気前のいい人、重宝な人」という意味もあります。
 しかし、英語の『idol(アイドル)』という言葉には、その語源が『doll(人形)』と全くつながりがありません。結局、これは単なる言葉遊びにすぎませんでした。
 さて、英語のスペルでは『idol』と綴(つづ)るこの言葉は、「(信仰の対象とされる)偶像、神像」という意味です。そこから派生して、「崇拝(または、尊敬)される人や物」を意味しました。"He is an idol to millions of young people."という英文は、「彼は何百万人もの若者たちのアイドルです。」という意味で使います。
 その『偶像』という言葉を、さらに国語辞典で調べてみると、「木・石・土・金属などで作った像」「神仏にかたどり信仰の対象とする像」あるいは「崇拝・信仰の対象」ということでした。ちなみに、『崇拝』とは、「心からうやまい、たっとぶこと」です。
 また、同じ国語辞典でついでに調べてみると、『アイドル』とは、「崇拝物。人気者。」のことを意味します。「彼は全校のアイドルだ。」というふうに使われます。
 さらに、そこから派生して、「恋人。」という意味にもなるそうです。もっと国語辞典で調べてみましょう。この意味における『恋人』とは、「恋しく思う異性。」のことです。そして、ここでの『恋しい』とは、「男女の間に愛情を深く感じるようす。」のことです。このように、国語辞典を引いていくと、『アイドル』という言葉の全体像がおぼろげに見えてくると思います。
 これは私の意見ですが、『アイドル』という言葉には、『崇拝されるもの』という本来の意味が含まれていたように思われます。「大事にされなければならない」というニュアンスを、もともと持っていたと思います。そうだとすれば、『アイドル』を、芸能界で活動する側に限定する必要はないと思うのです。
 ところで、今から20数年前に亡くなった私の祖母は、三波春夫さんのファンでした。三波春夫さんのステージがテレビで放送されると知ると、テレビの前に座布団を敷いて、正座して、いつも一人でその画面を観ていました。
 私は、昔のモノクロ写真で、若い頃の祖母の写真を見たことがありました。少し恐い顔でしたが、美人でした。スナップ写真だったので、その写真には、いかなる修正も加えることができなかったようです。
 だから、私は、祖母の気持ちを次のように想像することができました。祖母は、三波春夫さんから「お客様は神様です。」と言われて、きまりが悪そうに「神様なんかじゃないわ。」と思ったはずです。もっと別の言葉をかけて欲しかったはずです。
 そんな時に、もしも、私が三波春夫さんに成り代わって発言できるとしたならば、きっとこう言うと思います。「お客様一人一人が、私の大切なアイドルです。」と言うと思います。
 そんなこと、ありえない、と言われるかもしれません。けれども、私は、あえてそう言ってみたい気がします。それができれば、今の世の中のいろいろなことが、ちょっとずつ微妙に変わってゆくような感じがするからです。