野球選手の言葉を翻訳してみる

 今朝たまたまテレビをつけたら、『ニュースで英会話』というEテレの番組で「4000本のヒットを打つために8000回以上の悔しい思いをしてきている。」というイチロー選手の会見時の言葉を英訳しなさい、というこの番組の投稿コーナーの課題が目に入りました。何人かの投稿者の英作文の紹介があって、これは面白そうだ、と思いました。
 もし私だったら、どのようにそれを表現するだろうか、とテレビを観ながら思いました。その番組で述べられているとおり、それを外国人の前で通訳することは容易ではなさそうです。まさに、悔しい思いをしそうな翻訳作業だと私も思いました。事実私は通訳をやったことは一度もありませんでした。
 この正解の無い課題に対して、私もいきなり挑戦してみることにしました。どこかで似たような決まり文句を聞いたことがあるかもしれませんが、これが私の考えた言葉です。
For hitting 4,000 times , I was put out more than 8,000 times .
 小学生みたいな英語で申しわけありませんが、まあまあ簡単に意味が伝わるかな、という感じです。かつての日本の某お笑い芸人のギャグじゃありませんが、"for"(フォー)という言葉は便利なもので、「〜の目的で」や「〜の代わりに」や「〜に対して」などなどの多様な用途がある言葉です。
 また、"be put out"には「野球でアウトになる」という意味のほかに、「悩まされる、心を乱される、いらいらする」などの意味があります。つまり、この英訳は若干ダブルミーニング気味になってしまいました。でも、高校野球などでアウトになった選手(すなわち、審判にアウトを宣告された選手)が地面にこぶしを叩きつけて悔しがる場面を見かけると、その二種類の意味には何らかの関連があると言えましょう。
 そう考えてみると、イチロー選手がゴロを打った時に、一塁ベースに向かって全力疾走していた意味も理解できると私は思いました。ピッチャーに内野ゴロに打ちとられたのに全力疾走なんて、往生ぎわが悪いという意見もあることでしょう。何て姑息(こそく)な手段なんだろう。それほど内野安打(an infield hit)が欲しいのか、インフィールド・フライ(an infield fly)だったらアウトじゃないか、などと悪く言う人もいるかもしれません。しかし、そうではなかったのです。私が推測するところでは、イチロー選手は内野ゴロでアウトになって悔しい思いをしたくなかったのではないか、そのための一塁ベースへの全力疾走だったのではないか、ということなのです。きっと、そのようなイチロー選手の思いと努力と根性(guts:ガッツ)に、私たちは感動するのだと思います。