"Leaving on a Jet Plane"を日本語カバーしてみる

 ジョン・デンバーさんの原曲が平易な英語の歌詞で、メロディーも演奏も美しいので、あえて日本語でカバーする必要は無いのかもしれません。ここは、あくまでも私的な楽しみの範囲でやってみようと思いました。かなり詳しい翻訳もネット上にあるので、参考にすると勉強になって良いと思います。それを踏まえて、私も私なりに意訳してみました。それでは早速、その成果を披露してみましょう。


『飛びたつ思い』


荷物 詰めて かたして
ただ 別れを するだけ
黙って行(ゆ)くよ きみに


もうすぐ 夜が 明ける
迎えの車 待たせて
一人なのが つらいのさ


*別れたくないと
 笑顔で 答えて
 待ってると 言って欲しい


金ピカの飛行機で
帰るあてもなくて
行(ゆ)きたくない



落ち込ませて ごめん
もてあそんで ごめん
後悔 しているのさ


いつ どこでも 君を
忘れないよ 君を
一緒に なりたいほど


(* くりかえし)


すばやい飛行機で
戻るあてもなくて
去りたくない



さぁ行こう 時間だ
もぅ一度 甘えて
心に 思うだけさ


孤独と 嘆きの
その日が 無いこと
それだけ 夢に見よう


(* くりかえし)


新しい飛行機で
戻るあてもなくて
発(た)ちたくない


過ぎ去る飛行機で
戻るあてもなくて
飛びたくない


 まず、唄のタイトルですが、『悲しみの…』と言うよりも『嘆きの…』の感じが良いのではと思いました。『嘆きのテイクオフ』あたりにしたかったのですが、テイクオフ(離陸)の意味がボヤっとしてよくわかりません。"Leaving"(出発すること)の意味と、相手とのその離別を嫌がる主人公の気持ちを組み合わせて『飛びたつ思い』というタイトルにしてみました。
 次に、この曲を日本語カバーするきっかけは何だったのか、それを述べておきます。"jet plane"(ジェット機)という言葉がこの曲に使われています。この言葉を日本語で表現したらどんな飛行機になるだろう。という私の疑問がそもそもの始まりでした。"jetliner"(ジェット旅客機)でも"airbus"(中短距離用ジェット旅客機)でも"fighter"(戦闘機)でもない、その飛行機をどのように形容したら面白いかを考えていました。"steam boat"(蒸気船)の連想から、"jet"(ジェット)機関で動く"plane"(飛行機)であることがわかりますが、どんな感じの飛行機かはわかりません。そこで私は、自分勝手ながら「金ピカの飛行機」「すばやい飛行機」「新しい飛行機」「すばやく過ぎ去る飛行機」というふうにイメージを膨らませていきました。原曲の「ジェットプレイン」でいいじゃないか、そのままで良いじゃないか、という意見があると思います。でも、「モダンなスピード感のある」飛行機のイメージが言葉であれこれと表現されないのはもったいない気がしました。結果として、「ジェットプレイン」というカタカナ言葉が歌詞から消えましたが、そのかわり「〜飛行機」という言葉を使って具体的なイメージを表現できたと思います。
 確かに、他にも「ドア」や「キス」や「タクシー」などのカタカナ言葉が翻訳後に残るはずでした。しかし、歌詞の中でのそれらの言葉は、表現上は末端の枝葉にすぎず、無くても差し支えないと考えました。私が強情なのかもしれませんが、それらの言葉が無くても歌詞の意味が伝わるような表現をしてみました。例えば、キスと言っても、いろんな意味のキスがあります。日常生活でキスの習慣が無いほとんどの日本人には、そのキスがスキンシップなのか、愛情表現なのか、挨拶なのか、仲直りのしるしなのか、それともそれ以外の意味合いの行為なのか、さっぱりわかりません。日本人は、それが外国の習慣だからと言って、無条件に敬意を払って受け入れるしかないわけです。それでは、日本語の歌詞としてよくわからなくなるので、私はそれにこだわらないことにしました。言わば、枝葉の表現を削って、イメージの太い木の幹(みき)で表現してみたわけです。
 繰り返し唄われるサビの部分もそのようなイメージのまとめ方をしています。「だから、キスして、微笑んでおくれ。僕をずっと待っているって言っておくれ。二度と離さないって抱きしめておくれ。」と一般的に訳されていますが、かなりの未練がましさが表現されています。要するに、この曲の主人公が言いたいのは、自分自身の願望であると考えられます。相手に直接その願望を言って伝えたわけではありません。良く言えば、相手に自分と同じくらいの別れの未練を持ってほしい、と述べているのです。然るに、今すやすやと眠っている相手を起こすわけにはいきません。それを無理やり起こして、怒られたり泣かれたりしたら大変です。だから、笑顔で冷静に向き合ってくれて「別れたくない」などと仕草で答えてもらえたらいいのに…、とこの曲の主人公は妄想するだけなのです。
 相手が別れを知って、激怒したり号泣したり、そんな現実と向き合わずに、かっこよく去りたい、別れたい。ジェット機で疾風(はやて)のごとく、すばやく事を終わらせたい。でも、やっぱり独りになるのは寂しいし、未練が残る。だから、行きたくない、という反対の気持ちが起きてしまう。そんな思いが、この曲の主人公にあったと言えます。
 なお、この曲中のジェット機には未来志向のイメージがあると思います。過去は過ぎ去って、未来へ向かうしかないのですが、この曲の主人公は現在はたと立ち止まって、自らの心の中で反抗を試みます。そして、それは相手に対する未練という形をとるのですが、その気持ちのどこかに空間的にも時間的にも「行きたくない」("I hate to go")という思いがあるというわけです。このように、ジェット機に託された未来志向のイメージは、この曲中で重要な位置を占めています。"kiss"がどんなキスかを知ることよりも、"jet plane"がどんなジェット機かということをイメージすることのほうが、どんなに重要かがわかると思います。従って、ジェット機の離陸する情景を思い浮かべることができるということは、日本人がこの曲を聴いて理解するに際してこの上なくプラスになっていると言えると思います。