『そよ風の誘惑』の日本語カバーに挑戦!

 『そよ風の誘惑』は、オリビアニュートンジョンさんの"Have You Never Been Mellow"という曲に付けられた日本語タイトルです。その原曲である英文歌詞を読んでみると、何か変です。そう、以前私がこのブログ記事で紹介した、カーペンターズの『青春の輝き』という日本語タイトルの付け方に似ているのです。余談になってしまいますが、ちょっとその辺の事情を私なりに憶測してみることにしました。
 先に断わっておきますが、私はこの件に関して批判するつもりはありません。むしろ、そのように日本語のタイトルを付けざるをえなかったと考えています。洋楽に対して音楽的なリスペクトがあるからこそ、その曲の音楽的なイメージで、曲の日本語タイトルを決めていたと思われます。もっとも、それは日本に限らず、外国でもあることなのです。例えば、坂本九さんの『上を向いて歩こう』が、『SUKIYAKI』という横文字タイトル名で外国では知られていたことは余りにも有名です。
 "Have You Never Been Mellow"とは、直訳すると『温和な気持ちになることを経験したことはなかったか』となります。つまり、『穏やかな気持ちになることを経験したことがあるはずです』という意味になります。しかし、この「経験したことがある」という表現は、曲のタイトルにするにも、日本語の歌詞にするにも、長すぎます。「それを経験したことがある」とは、「それを知っている」とか「それを知らないわけがない」とか「それを知らないはずがない」ということだと思います。
 私は、この曲の日本語カバー曲である椎名恵さんの『愛は眠らない』の歌詞を、ことのほか気に入ってリスペクトしていました。大映テレビドラマ『花嫁衣装は誰が着る』のオープニング主題歌でしたし、シングル・レコードも買いました。そのドラマのオープニング映像は、白いウェディング・ドレスづくしで、椎名恵さんが日本語詞をつけたこの曲と相まって、かなりエレガントなイメージでした。そのイメージを壊してはいけない、と私は思いました。また、原曲の日本語タイトル『そよ風の誘惑』から生じる、さわやかな音楽的イメージも壊してはならないと思いました。さらに、日本のポップスには『オリビアを聴きながら』という曲もありました。その曲の持つイメージが、私の稚拙な翻訳によって、汚されてはならないと思いました。ですから、この『そよ風の誘惑』という曲を日本語カバーすることなど、私には絶対無理だと思っていました。
 ところが、ひょんなことから、その状況が変わったのです。ある時、YouTube動画サイトで、オリビアニュートンジョンさんの昔のステージを観ていましたら、ふと、あのNHKドラマ『美女と男子』の、元気でかわいい「変な秋田娘」を思い出しました。事実、オリビアニュートンジョンさんの若い頃は、愛らしいルックスでカントリー調(注・「田舎っぽい」と表現すると失礼にあたる思ったので、カントリー・ミュージックからの連想でこう表現しておきました。)の雰囲気が人気を博していたそうです。そこで、そのオリジナル曲の持っていた「元気でかわいい田舎娘」的なイメージを、この原曲に敬意を表しつつ、私なりに表現してみたくなったのです。
 では、さっそく、それを披露いたしましょう。



   『それを知らないわけがない』


急ぎ過ぎていた あなたと同じ
そう同じ
かたくな過ぎてた 私の気持ち
そう同じ
角を立ててほしくない
むしろ気持ちを静めてほしい


(*)
穏やかな心
相手を許せる それを知らないわけがないわ
口ずさむだけで 楽しめることも
勇気を与えることも


駆け回っていたわ あなたのように
闇雲(やみくも)に
機嫌が悪くて イラつくあなた
真似してた
それもそうかもしれない
相手ほしいだけかもしれない


(* くりかえし)



 最後にちょっとだけ、解説を加えておきます。"to find a comfort from inside you? "という英文歌詞フレーズの意味についてです。「安らぎは(他人から与えられるのではなくて)自らの心の内にあると(経験してみたことがあるでしょ?)」と私は英語から訳して、意味をとりました。相手に頼らず、自ら心を穏やかに(be mellow)すれば、ただ自ら歌うのを聞くだけで(just to hear your song)ハッピーになれて、他の誰かをしっかりさせる(let someone else be strong)ことだって経験したことあるでしょ、ということだと思いました。
 従って、私の判断としては「安らぎは自らの心の内にある」というフレーズは、日本語カバーの歌詞には含めないことにしました。日本語の歌詞の上では、『安らぎ』(a comfort)が『(気質が)穏やか』(mellow)と意味的に重複してしまったからです。『穏やかな心』という日本語表現でその二つの言葉を統一して、「自ら穏やかな心になれば、こんなことやあんなことができる。それを経験して知っているはずよ。」みたいな流れに、曲の繰り返し部分を表現してみました。
 すると、この曲の面白さは、次のようにわかると思います。"Have you never ... ?"(〜を経験して知っているはずよ。)と相手に言っています。そのくせに、その相手と本人自身が同じ境遇であった(I was like you)とも言っています。つまり、相手に問いただしていることは、そのまま自分自身に問いただしていることにもなるわけです。相手を一方的に批難(ひなん)しているわけではなくて、必ず本人自身にもその批難(ひなん)が返ってきているところが、この曲の一番の美味しいところと言えましょう。