不思議なCDアルバムを買ったいきさつを思い出す

 以前このブログで『不思議なCDアルバム』のタイトルで書いたことの続編を今回書いてみようと思います。一体どんな経緯で、そのCDを買ったのかということが前回の記事では不明確であったからです。結論から申しますと、それは余りに何でもない、よくある偶然の積み重ねでしかなかったかもしれません。すごい話を期待していた人がいたとしたら、がっかりさせてしまうかもしれません。でも、私は真実を話そうと思います。
 実は、私は二十代から三十代にかけて会社の仕事が忙しくて、アーティストのライブを見に行ったことが一度もありませんでした。(ましてや、追っかけなどしたこともありません。)そのかわり、ビデオテープデッキを持っていて、テレビ番組をよく録画していました。画質はどれも余り良くありませんでしたが、ドラマ・映画・ニュース・歌番組・バラエティ・コマーシャル等々、さまざまなジャンルの番組を録画していました。それが私の当時の趣味であったと言えます。
 現在私は、こうしたビデオテープをいっぱい持っています(自宅の私の部屋にしまってあると言うのが正しいです)が、あくまでも個人の観賞用として所持しています。その中の一本のビデオテープが今回のブログのテーマと関わっていました。それは確かに、二十年くらい前に、あるテレビ番組を録画したものでした。
 そのビデオテープに録画されたある番組は、その年のクリスマスのためにポップスやロックのミュージシャンが演奏したものを順番に紹介していく形式で編集されていました。岡村靖幸さんや小比類巻かほるさんや浜田麻里さんやその他の大勢のミュージシャンがその番組に出演していました。先月このブログで書いたPSY・Sはこの番組に参加したグループの一つであり、私はこの番組を見て初めて彼らを知りました。つまり、ハッキリ言うと正確には、当時の私は長年のPSY・Sの熱烈なファンでもなければ、CHAKAさんのファンでもなく、松浦雅也さんのファンでもありませんでした。他の多くのミュージシャンと同じくらいの関心度で当時は見ていたと思います。
 現に、画像が鮮明なところを見ると、テープが擦り切れるほど再生を繰り返した跡もありません。ただ、この番組の一部をダビングした別のカセットテープが見つかりました。この番組で流された沢山の曲の中から3曲くらい選んでいましたが、PSY・Sの『KISSES』がそのうちの一曲に入っていました。それで思い出したのですが、この『KISSES』にかぎらず、当時の私はPSY・Sの曲のいくつかをそうとは知らずに聴き慣れていたようです。いつどこで聞いていたのか憶えていませんが、耳が勝手になじんでいたようなのです。そんなわけで、それがPSY・Sの曲であるかどうかにかかわりなく、誰が歌っているんだろうという疑問も持たず、あたかも当たり前のようにそれらの曲を耳にしていたようでした。
 そういえば、当時こんなことがありました。私は、ある休日に東京の自宅で何かをしながらFMラジオを聴いていました。たまたまFM東京にチャンネルを合わせるとPSY・Sの『花のように』という曲の途中からが、私の耳に入りました。初めてその曲を聴いて、歌詞の意味はわからなかったものの、何か懐かしいような気持ちがしました。その曲の演奏が終わると、二人の女性の会話がそれに引き続きました。驚いたことに、その一人は番組が終わるまでずっと関西弁で話していました。関西弁といっても、京都っぽい物柔らかな優しい感じのする関西弁のようでしたが、いわゆる京ことばではありませんでした。私は、中学または高校で京都に修学旅行に行ったことがありますが、関西に親戚がいるわけでもなく、どこの関西弁かよく知りませんでした。もう一人の女性は、この番組のMCで標準語で話していました。このように、FM東京で標準語と関西弁の女性が交互に話をするのを、私は初めて聞いたので、いまだに記憶に残っているというわけです。そして、番組の最後にMCの女性の言葉を私は聞きました。「今日のゲストはチャカさんでした。」それでやっとわかりました。関西弁で番組中しゃべっていたのは、チャカさんだったのです。(なぜか、松浦雅也さんはこの番組に出演していませんでした。)
 それから、私は『花のように』の曲をもっと聞きたくて、そしてまた、PSY・Sの他の曲も知りたくて、当時最新のCDアルバムを秋葉原で買ったのでした。また当時同年代で社会で活躍している人たちをほとんど私は知りませんでした。社会に出てこのかた、私の周りは年上または年下の人たちばかりのように、私には思えました。私に近い年代の人たちは、自己主張が下手な人が多いように思えて、人前に余り出てこない感じがしました。ですから、私はそのことを寂しく思うたびに、このCDを手にとってジャケットを見たり、一人でCDの曲を聞いていました。そうすることで、この世に私と同年代の仲間がいるのだから、今の仕事を頑張ろう、と本当にこれまで何度も思いました。
 以上が、PSY・Sの『EMOTIONAL ENGINE』というCDアルバムを買った私のいきさつです。これを買った後でも、私はPSY・Sのことやそのメンバーのことをよく知りませんでした。このCDアルバムを買った当時のことしか知りませんでした。でも、当時の私にとってはそれで十分でした。現実の世界でいろんな年代の人間と出会ってきたけれども、このCDをたまに聴くとなぜかほっとしてしまうのは、今でもやっぱり不思議ではありますが…。