二十年の時を経て

 やっぱしお正月は、寝正月もいいなと思いながら、のんびりしていました。昨日は夕方から夜にかけて、テレビを見ていたのですが、いろんなチャンネルでいろんな番組をやっていて、どれも同時に見たくて困ってしまいました。たとえば、ある番組でAとBのどちらが堤監督の演出した映像かという問題などは、映像のカット割りの仕方でプロか素人かがわかって面白かったです。楽しんごダンサーズの振り付けがプロか素人かの問題も、プロと素人とで違いがあることが面白かったです。高級品かそうでないかの食べ物の目利きは、(毎年見ていますが)本当に難しそうです。また、別の番組で『なんちゃって演歌』の方法などを科学的に考えているのはすごいと思いました。また、何気なく見ているこうしたバラエティ番組で、いろんな映像技術が駆使されていることに、私は今さらながらに驚いてしまいました。私自身は、映像のプロフェッショナルでも何でもありません。ただの素人(しろうと)の一人だと思っていますが、ちょっと注意するだけで「へー」と思うことを最近のテレビの映像を見て発見しています。
 ところで、今回私は自宅に帰省して、昔使っていた部屋の押入れなどから何を入れたか忘れてしまったダンボール箱を引っ張り出してきたりして、何かを探しています。私は、三十代前後の頃に、ビデオ録画デッキを買って、テレビ番組をよく録画していました。その時のビデオテープが山のように積み上がってしまったので、ある時にそれらを幾つかのダンボールにまとめて、押入れの奥にしまい込みました。今回それを押入れから引っ張り出して見てみようと思いつきました。
 すると、『いか天』とか『えび天』とかラベルに書かれたビデオテープがいくつも見つかりました。テレビを録画してから二十年ほどの時を経て、その番組の映像を見ることができました。当時のアナログ放送の録画なので余り期待していませんでしたが、録画後に何回も再生していないせいもあって、思っていたより映像が鮮明に残っていました。
 『いか天』とは「三宅裕司いかすバンド天国」の略で、アマチュアバンドのオーディションのような番組でした。視聴者の側からすれば、アマチュアバンドをテレビで手軽に見ることができて、それがお得な番組でした。『えび天』とは、「三宅裕司のえびぞり巨匠天国」の略で、『いか天』の後継番組でした。今度はアマチュアの映像作家を発掘する番組でした。これも、映像作家さんの卵の作品をテレビで手軽に見ることができて、視聴者にとってもお得な番組でした。1989年から1991年にかけて深夜にTBSテレビで放送されました。
 テレビでこのような番組が放送されるくらい、当時の若い人たちの間にはバンドブームそして映像作家ブームが巻き起こっていました。こうしたテレビ番組からも、才能のある人たちが多く輩出しました。要するに、その時期の前後は、その二大ブームに乗って、そうした素質や才能のある人たちを多数輩出した時期であったと言うことができます。
 したがって、当時のバンドと映像作家のコラボレーションは、才能ある人たちが結集した最強のコラボになっていたはずです。それは、音楽プロモーションビデオという作品の形で世の中にあらわれたと思います。
 今回私は、ビデオテープの山の中から一本のビデオグラムを見つけました。それは、上に述べた時期から数年たってから、テレビを録画したものではなくて、ミュージックビデオをお金を出して買った物でした。それは、Every Little Thingの"The Video Compilation<<8 Clips>>"でした。なぜ、それを買ったのか。私の記憶では、当時『カウントダウンTV』という番組で、ベスト10に入ると、プロモーションビデオ(PV)の一部が数秒間テレビの画面に流れます。初期のELTのPVは、すごくインパクトがある映像でした。変な感じと言ったほうが当たっています。それで、PVの全編を見たくなって、秋葉原に売っていた物を私は買いました。
 たとえば、「タクシーのヘッドライトがまぶしくて瞳を閉じた」と歌っているのに、砂漠の映像が出てきて、そこに謎のサーカス団の人々が現れます。また、「いつも大人たちのエゴに従い、いい子にしてた」と歌っているのに、映像は某工場の廃墟で、その薄暗がりをELTのメンバーの一人がその建物の外の階段を上っているというふうでした。(他にも、この手の類(たぐい)の変な映像がいっぱいありました。ここでは紹介しきれませんので、割愛させていただきます。)
 実は、こうした初期のELTのPVは、当時の前衛的な映像作家さんが作ったものでした。私は詳しく調べていないので、推測が間違っているかもしれませんが、こうしたPVの前衛的な映像は、前述の1990年前後の若者の二大ブームから何らかの影響を受けて、その集大成として結実したものではないかと考えられます。
 初期のELTのPVにかぎらず、1990年の前後に作られた音楽プロモーションビデオの中には、バンドと映像作家の才能と力を結集した最強のコラボレーションによって、それから二十年前後経った現在でも、一つの独立した芸術作品として生き続けているものがあります。それを何処かで偶然見つけた人は、そうした芸術作品を鑑賞できることを幸運だと思うべきだと思います。確かにそれは存在したのですが、私の所持する昔のビデオテープのように、日の目を見ずに消えてしまうものも多いのです。
 私は、あくまでも個人の観賞用としてテレビから録画したビデオを扱っています。ですから、決してネットなどに公開しませんし、一度も公開したことがありません。それどころか、ネットに公開する方法を知りません。昔コンピュータ技術者(プログラマ)であったにもかかわらず、知らないのです。