マドンナの日本語カバーに挑戦!!

 たまたまNHK教育テレビを見ていたら、『アンジェラ・アキのSONGBOOK』という番組を見かけました。マドンナの『マテリアル・ガール』を二週にわたって取り上げていました。以前、ビリー・ジョエルの『オネスティ("Honesty")』もこの番組で取り上げているのを見たことがあります。
 私はビリー・ジョエルと言えば、若い頃に『アレンタウン』という曲をラジオで聴いて、シングルレコードを買ったことがありました。この曲は、イントロのピアノの力強い演奏と、金属をトンカン叩く音が印象的な曲でした。昔は鉄鋼で栄えた町が今では仕事が無くて活気を失って、失業者があふれているなどというような状況が歌われていました。
 私の実家が準工業地帯の町工場の一つだったこともあって、金属をトンカン叩く音を子供の頃からよく聞きました。しかし、私の実家の町工場も、その実家の周囲にあった多くの町工場も、少しずつ仕事が減って、ついにはほとんど無くなってしまいました。ですから、この『アレンタウン』というビリー・ジョエルの曲は、遠いアメリカ合衆国の一つの小さな町を歌ったにもかかわらず、日本の中小企業の町工場が集まっていた準工業地帯に長らく住んでいた私にも、何となく実感としてわかる曲なのでした。
 ところで、コンピュータ・ソフトウェア会社に勤めていた頃、私は東京都の九段下にあった情報処理保健組合の運営するスポーツジムによく通いました。実際のジムのトレーニングの最初と最後に、テレビのビデオを見ながらストレッチ体操をしました。そのテレビでは、ストレッチ体操の仕方を繰り返しビデオで説明していました。そのビデオを見ながら、体の動きを真似して、準備のストレッチ体操(ウォーミングアップ)と終了のストレッチ整理体操(クールダウン)をする手順になっていました。そのそれぞれのビデオには必ずいつも決まった音楽がついていました。ウォーミングアップはなぜかホイットニー・ヒューストンの"Saving all my love for you"で、クールダウンは必ずビリー・ジョエルの"Honesty"でした。どちらも、ゆったりとした英語の曲で日本人がその歌詞を耳にしても気にせずリラックスできました。そのストレッチ体操を、見せかけだけでいい加減にやらずに、真面目に(もしくは、誠実に)やって欲しかったので、クールダウンの曲がビリー・ジョエルの"Honesty"だったのかもしれません。
 さて、私が見たNHK教育テレビの番組の話に戻りましょう。マドンナの『マテリアル・ガール("Material girl")』の歌詞を日本語に訳して一通りの内容を理解してから、次の週で番組に参加した生徒さんに想像力豊かなオリジナル歌詞を考えて発表してもらうという段取りの番組でした。
 実は、私はマドンナという歌手が大嫌いでした。この曲や"Like a virgin"という曲を耳にしたことはありましたが、若い頃の私は即座に拒絶反応を起こしました。英語の歌詞もよく内容を知りませんでした。でも、何となく嫌でした。私は、カトリックの敬虔なクリスチャンではありませんでしたが、彼らと同じような精神の潔癖さでこのマドンナという歌手とその歌を耳にするのを好まなかったのだと思います。
 ところが、この番組での課題曲として、その『マテリアル・ガール』のMVを視聴して、英語の歌詞を訳したものを学んでみると、その曲も歌詞も面白いなと思いました。しかも、この曲とそれを歌っていたマドンナの背景にあったものを同時に学んでみると、とても興味深く思いました。それでも私がマドンナという歌手を好きになれないのは仕方がありませんが、少なくとも『マテリアル・ガール』という曲とその歌詞には惹かれるものがあると思いました。
 そこで、いきなりではありますが、私もこの曲の日本語カバーに挑戦してみようと思いました。その番組では、講師のアンジェラさんや年齢の若い生徒さん達が、その想像力を駆使していろんな日本語カバーを試していらっしゃいました。私のちょっと頭の固くなったオジサンの想像力でできることは、こんなもんかもしれませんが、恥ずかしながら書いてみることにしました。
 乙女の本音
お金の代わりに キスやハグ
形にできないものばかり
心は ぉ金より 大事だと
あなたは言うけど お門ちがい
私は 見せかけじゃない 本物志向の
(私は)情に流されない リアルな小娘
坊やは たくさんいるけれど
ものにならなけりゃ 意味がないわ
乙女の私に 損はないのよ
経験 財産 残るから
私は いつわりじゃない 両手に花束
(私は)情に絆されない したたかな乙女よ
 とまあ、こんな感じです。タイトルの訳は、"Material girl"という言葉が、若い女性の抱いている本当の気持ちをイメージしていると考えて『乙女(もしくは、小娘)の本音』としてみました。「お門(かど)ちがい」とか「情(じょう)に絆(ほだ)されない」などの言葉とか、各所に否定的表現(〜ない、〜でない、〜じゃない)を多用して、キツい感じを出してみました。また、"material"(マテリアル)という言葉から「リアルな」というインチキっぽい言葉を連想して使ってみました。
 また、いちいち説明は不要かもしれませんが、「ものになる」という言葉は掛け言葉です。「(彼が)ひとかどの人物になる。」という意味と「(彼が)自分の思いどおりになる。」という意味をかけています。そうならなきゃ好きになる価値がないし意味がない、とわがままっぽく表現してみました。
 俗に「英語は海賊の言葉だ。」という人もいます。ロックンロールのような荒っぽい音楽の歌詞に向いていると言われるのもそのためだ、という説さえあります。今回私が『マテリアル・ガール』という曲を聴いた感じは、英語っぽい荒々しさというか、(私の感覚で言うならば)いわゆる『海賊っぽい』感じがしました。ですから、『しなやかさ』よりも、『強靭さ』すなわち『したたかさ』が感じられる歌詞にしてみたいと思って書きました。
 けれども、私一人が楽しめればいいと思って書いてしまったので、多分に独善的な、よくわからない歌詞になってしまったかもしれません。そんなふうに感じられる場合は、これは私一個人が勝手にやってみた単なる趣味の結果であり、大したものではない、取るに足らないものと見ていただければ幸いです。