私の考えるハイテクとは?

 仕事上あるいは生活上で私が考え使用するハイテクは、いわゆるハイレベルなテクノロジーではありません。いわばハイブリッドなテクノロジーと表現したほうが当たっています。
 例えば、スマホに全ての仕事や生活に必要な機能を集中させるようなことを、私はしません。確かに、仕事や生活上のあらゆることをたった一つのスマホに集約することは、便利ですし、今では誰もがやっていることです。しかし、全てをスマホに託すことが、私にはどうしてもできません。言い換えれば、スマホの多機能性に、科学万能主義の幻影を感じてしまうのが、私の悪いクセのようです。
 それは、現在きわめて普及していて、あらゆることに使われているネット、すなわちインターネットに関しても言えます。確かにそれは世界的で一般的なインフラとなりつつあります。それは、SNSの普及によって、誰もが使える分散処理型コンピュータの接続システムであり、接続しているコンピュータ間の機械的故障を補完できる堅固なシステムでもあります。平たく言えば、つながっているコンピュータ機器の一つが動かなくなっても、インターネット全体がストップすることはありません。
 しかし、SNS上のひぼう中傷や差別的な発言は結局なくなりませんし、各種の詐欺犯罪に対しても、このシステム自体が自浄する作用は今のところありません。年少者に対する悪影響を懸念して、その使用を禁止あるいは制限する国もあります。また、政治的に不都合な情報発信を即刻削除してしまう国もあります。にもかかわらず、私たちがそうしたネガティブな側面に対して目をつぶってしまうのは、それを上回るメリットがあるからと盲信しているからであり、万能主義的でユートピア思想的なシステムだと信じているからだと思います。そうしたハイレベルテクノロジーにピンからキリまで依存していかないと、時代遅れになって損をする(すなわち、お得でない)と、私たちの脳は素早く判断しがちなのかもしれません。
 初めのスマホの話に戻りますが、私の場合は、インターネットパソコンと携帯電話で役割分担しています。インターネットパソコンで、メールのやりとりをしますが、ネット電話を使いません。また、携帯電話は、電話通話のみで、ネット接続の契約をしていません。月ごとの通信代の合計が倍かかりそうですが、実は倍かかりません。さらに、格安で買った家庭用液晶テレビにdデータボタンがあって、地元地域のお天気情報をリアルタイムで観ています。それらの機器のどれかが故障してしまっても、仕事や生活の全てが一斉にストップしてしまうことがないように備えています。
 また、同様な例は、農作業にも言えます。耕運機やトラクターなどの農業機械は使いますが、業務用のドローンは使いません。それは、費用対効果によります。業務用のドローンよりも、肥料の手まきや農薬の噴霧器のほうがコスパが良ければ、どっちを採用するかは言うまでもありません。チンパンジーのように、手を伸ばしても取れない物を、長めの棒を使って手繰(たぐ)り寄せて取った例も、実際の仕事ではありました。そうしたローテク、すなわち、ローレベルなテクノロジーを現実の世界で使うことも少なくありません。
 一般に、科学技術というものは、ハイレベルなテクノロジーで終始一貫していないと先進的でない、と思われがちです。技術的に遅れていれば、世界的に自慢ができません。だから、例えば、家庭用機器のオール電化という考えも出てくるわけです。電気さえあれば全てが使えて便利です。光熱費も一本化できます。しかし、停電や、電気代の高騰が起こると、その負の側面を露呈します。科学技術を万能化して考えることには、やはり意外な落とし穴があると考えたほうがよさそうです。
 ハイレベルなテクノロジーに頑として背を向けることはできません。まさにそれは時代遅れです。しかし、いつの時代でもそうですが、ハイレベルで先進的なテクノロジーに全てを委ねることはできません。なぜならば、そんな万能主義はどこにも存在しないからです。万能であることが、科学技術の本質ではありません。秀でて便利になることが先進技術の本当の素顔であり、これまでの全てをひっくり返すことが科学技術の役割ではありません。いかなる科学技術も、過去の知識や技術の蓄積の上に成り立っています。これまでのやり方の全てをひっくり返すような、そんな革命的なことができなくても、不思議ではありません。
 そのようなハイレベルなテクノロジーの弱点を補うことができるのが、ローレベルなテクノロジーだと思います。ハイレベルなテクノロジーに何もかも依存するよりも、それを見直して、よりコスパのよいローレベルなテクノロジーでその一部を埋め合わせます。ハイレベルとローレベルのテクノロジーの抱き合わせが、ハイブリッドなテクノロジーだというわけです。先進的な技術だと自慢できない代わりに、実質的な前進はできる可能性があります。真にイノベーションを技術的に追求するのであれば、過去の知識や技術の蓄積を軽視せずに、ハイレベルとローレベルのハイブリッドなテクノロジーを目指すことをおススメします。そのようなハイブリッドテクノロジーを求めて、決して損はないと思います。