『水虫の唄』の英語カバーに挑戦!

 先日たまたま私はEテレの『ららら♪クラシック』という番組を視聴していました。その番組の中で、メンデルスゾーン作曲の『無言歌』から『春の歌』の主旋律が何度か繰り返されるのを聴いて、「どこかで聴いたことのあるメロディーだなあ。」と私は思いました。そう。それは、私が子供の頃に『小学○年生』という雑誌の、当時の流行歌や唱歌の歌詞を集めた、別冊付録の小さな冊子に載っていた『水虫の唄』でした。当時小学生だった私は、その曲のレコードを持っていませんでしたが、その小冊子に印刷された歌詞を見ながら、その曲を歌うことができました。
 よく憶えてはいませんが、当時二十歳くらいだった年上の叔母さんから、その歌い方を教わったようです。よって、その曲を誰が作ったのか、誰が歌っていたのか、といったことは、私はまったく記憶にありませんでした。そういったものに、まったく関心が無かったからかもしれません。当時、私の叔母さんは、ザ・フォーク・クルセダーズの『帰ってきたヨッパライ』のレコードを買ってきて、あの「おらは死んじまっただ〜っ」というフレーズを子供の私に聞かせていました。その『帰ってきたヨッパライ』の曲は、叔母さんの持っていたラジオで聴いたことがありました。けれども、この『水虫の唄』は、テレビでもラジオでも私は一度も聴いたことがありませんでした。ただ、叔母さんが例の付録の小冊子に印刷された歌詞を見ながら歌うのを聞いて、それに習って私はその唄の歌詞とメロディーを覚えていたのでした。
 それで、先日の私が気づいたのは、まったく同じものではなくて、似たようなメロディーだったのです。『水虫の歌』の「せつなく うずく 水虫は / 君と 僕との 愛のしるし」のフレーズが、メンデルスゾーンさんの作曲した『無言歌集』の『春の歌』の主旋律に『日本語の歌詞を付けたように聞こえる』と言ったほうが、より正確だと言えます。メンデルスゾーンさんの曲では、しつこいほどその主旋律が繰り返されるため、その度に私は「せつなく うずく 水虫は(以下略)」というフレーズを思い出してしまいました。それを何度もイメージしてしまい、困ってしまいました。メンデルスゾーンさんの曲は、滑稽さや可笑しさを狙ったものではなかったはずです。しかし、私は、メンデルスゾーンさんの曲の主旋律を耳にする度に、『水虫の唄』の滑稽さと可笑しさをイメージしてしまいました。そのことに、あとで一人で苦笑いしてしまうほどでした。
 こうしたことからも、この『水虫の唄』が、有名なクラシック音楽の単なるパクリではないことが理解していただけると思います。この曲の前奏や間奏などにベートーベンの田園交響曲を思い出させるメロディーが入っていることからもわかるように、この曲の作者は、むしろ音楽のパロディーを意図していたと言えます。おそらく、『水虫』というある意味、下品で汚(きたな)らしく暗いイメージを、西洋のクラシック音楽の格調の高さで補って払拭(ふっしょく)している感じがします。
 私には、他にもいろいろと勘違いがありました。「どんなに どんなに はなれていても / 僕は君を 忘れはしない / 夏になると 思い出す / 君と逢った あの汀(なぎさ)(以下略)」みたいな歌詞を、子供の頃の私は覚えたのですが、この曲は、自らの水虫への愛着をテーマにしていると思っていました。すなわち、『君』とは『水虫』のことを指していると誤解したまま歌を覚えていたわけです。正しくは、相手の女性とその一部である水虫の両方への愛がこの曲のテーマでした。また、子供の頃の私は『水虫』についても、よく知りませんでした。言うまでも無く、『水虫』は虫の一種ではなく、カビの一種です。足を不潔にしていると、カビの菌が繁殖して、虫に刺されたように痒(かゆ)くなる(曲中では、「疼(うず)く」と表現されています。)もののようでした。それを擬人化して『君』と呼んでいるのだと、長い間私は誤解していたわけです。足の水虫をうつされてしまうほどスキンシップがあって、相手の女性と深い仲になっていたなどという事情を考えたこともありませんでした。最近の小学生が本当の意味もよくわからずに、「ダメよぉ〜。ダメ、ダメ。」と面白がって言っているのと、状況的には変わらなかったと思います。
 こんなふうに『水虫の唄』について私の所見を述べさせていただきました。はたして、この曲を英語で歌うとどうなるか、ということに私の興味がわいてきましたので、一応、試しに英訳してみました。それを以下に示したいと思います。


    "Song of Athlete's Foot"


(*)
Even though you are so far away ...
You are far away from me ,
I can well remember your athlete's foot


In summer I recall catching it from you ...
We walked around together on that sandy beach


(**)
I know that I'm sad and painful ,
aching from my foot
This ache can be certain proof that
you and I can get along


(* repeat)


You gave me your athlete's foot
I suffered from it
And then I still suffers from your foot disease


(** repeat)
(* repeat)


 若干、注釈を加えておきます。『水虫』は、"athlete's foot"と言います。これは、病名なので、"(your) foot disease"(足の病気・疾患)などと私は言い換えてみました。「病気がうつる」とか「病気をうつされる」という言い回しは、"catch"や"give"や"suffer"などの動詞によって表現してみました。
 「夏になると思い出す」の英訳は、日本語に合わせてあれこれ言わなくても"In summer I recall ..."で簡潔に表現できると思いました。また、「君のうつした水虫は」は、「君が僕に水虫をうつした」(You gave me your athlete's foot)と簡単に考えました。
 「せつなく 疼(うず)く 水虫は」は、「私は、足が痛んで、切ない気持ちです。」みたいに解釈して"I know that I'm sad and painful, aching from my foot"と表現してみました。
 そうしたことよりも私が苦労した点は、この曲の日本語歌詞に合わせた、ゆったりと流れるようなリズムに、どう英訳した歌詞を乗せるか、という点でした。実は、この『水虫の唄』のメロディーやリズムは、1960年代後半では、それほど珍しく、革新的ではなかったようです。たとえば、かまやつひろしさん作詞・作曲でザ・スパイダースが歌っていた曲のフレーズで「なんとなーくー なんとなーくー なんとなーくー しあわせー」というフレーズがありました。『水虫の唄』でも、メンデルスゾーンさんの曲を思い出させるサビの部分を除けば、そのような1960年代後半っぽい、日本語歌詞のリズムとメロディーに近いのではないかと考えました。その考えに従って、英訳した歌詞と、曲のリズムを合わせていきました。オリジナルの曲のイメージをなるべく壊さずに、その英語バージョンを作るために、その作業は欠かせなかったと思いました。
 最後に、「君と僕との愛のしるし」の英訳について触れておきます。"This ache can be certain proof that you and I can get along"(「この(水虫の)うずきは、君と僕が上手くやって行ける確かな証拠となりうるさ」)と私は表現してみました。もちろん、『愛のしるし』あたりを英語に直訳しても間違いではありません。ただ、ザ・ビートルズの作ったある曲のフレーズに"We can work it out"(「僕らは上手くやれるさ」くらいの意味)というのがあったことを思い出したので、あえて"love"という言葉を使わずにシャレてみました。そのほうが"We walked around together on that sandy beach"(「僕らはあの砂浜を一緒に歩き回った」)というフレーズと少々馴染(なじ)んで、内容的にわかりやすいとも考えられました。日本語のオリジナル歌詞のほうが、やや簡潔に表現されているため、こんなふうに英訳した際に少しばかり言葉をひねって変えてあげたり補ってあげると、わかりやすくなると思いました。