3密の検証 その2

 そこは、去年の4月19日(日)に、私が、レジを通った正体不明の老婆に至近距離で飛沫を浴びせられた、地元のスーパーマーケットでした。大部分の都会の人は知らないと思いますが、現在地方の町村では、魚屋さんや八百屋さんなどの食の小売店(小規模店舗)がつぶれてしまって、私の住んでいる地元でも皆無となっています。スーパーマーケットやコンビニや農産物直売所や道の駅などの大中規模店舗しかありません。食に関係のないクリーニング屋さんなどは、そうした建物の端っこにあって、独立した建物で店を開いている所なんかはほとんどありません。したがって、そうした店舗に防犯カメラの監視システムを導入していない所は、全くありません。今回私が言及する地元のスーパーマーケットにおいても、万引き防止や不審者の発見のために、ずっと前から防犯システムを導入していました。私は、その店舗で万引きなどをしたわけではありませんが、店舗内でちょっと不審な様子が私に見られただけで、店員の一人がそっと近づいてきたことがありました。
 あの日、私は直近(ちょっきん)で飛沫を浴びせられてから、軽トラで家に帰って、手と体を洗ったのですが、その夜に発熱して寝床で絶対安静を余儀なくさせられました。その老婆が私にとっての感染源だとしても、正体不明の見知らぬ人なので、その人を探しようがありません。さしずめ感染経路不明といったところでしょう。
 そのお店では、あのような4月以降も、お客さんがステイホームの影響などで少し多めに押しかけてくるようになりました。人数制限ができたとしても、押しかけてくるお客さんを入店拒否することは結局できません。そこで、4月末頃からは、そのお店で感染症予防のために矢継ぎ早に対策をとるようになりました。
 まず、店舗の出入り口には消毒液が置かれて、レジは透明で厚いビニールコートやアクリル板でガードされました。レジの人は、マスクとフェイスガードとビニール手袋を着けて、手元に置かれた消毒液も使います。そして、レジの前に並ぶ人は、間隔を空けて並ぶようにと、床にシールやステッカーが貼られました。なお、各レジ毎の頭上で個々に防犯カメラが見張っていることは、以前と少しも変わっていません。
 店舗の出入り口のガラスの張り紙や立て札には、店員に感染予防対策を徹底している旨と、来店するお客さんにお願いしたい旨を箇条書きで何行も書かれていました。マスク着用の義務付け、出入り口での手指消毒、発熱や体調の悪い人の入店を控えてもらうこと、大人数での来店をしないこと、通常混雑する時間をずらしての来店の奨励、等々が書かれています。
 これで終わりかと思っていたら、そのうちに、レジを通った先の、買った商品を袋へ移し替えるスペースが、アクリル板で個々に仕切られるようになりました。店内カゴの消毒がこまめに行われているそうです。出入り口の消毒液も、自動で消毒液が出る装置や、足踏み式で消毒液が出る装置が新たに追加されました。
 さらにしばらくして、その店に行ってみると、通路の幅が広くなっていたり、商品の積み上げなどによる大きな障害物がなくなって、すっきりした空間になっていました。これには、2つの意味があって、通気を良くしているということと、見通しを良くしていることが見て取れました。防犯カメラの側からみると、店内の死角をなるべく失くすための工夫だということが推測できました。事実、以前よりも、店内の防犯カメラの数が増えたように思えました。ただし、ちょっと見た感じでは、多数の防犯カメラが、天井にぶら下げた小さなアクセサリーのような飾りに見えました。つまり、来店したお客さんに余計なストレスを与えないように配慮がされています。一つの防犯カメラを正面に回ってじーっと見つめないと、そのカメラのレンズと目が合わない、その程度のものです。
 さて、去年の12月のなかばのことです。いつものように私は、マスクを着用して入店しました。ある食料品を求めて、店内の奥まったコーナーへ向かいました。私がそこへ到達する前に、5、6人の20代か10代のマスクをした女性たちがそこにいるのを目にしました。しばらくして私がそこに到達した時には、周りに誰も近くにいませんでした。ところが、それにもかかわらず、私はマスクの下で1、2回むせてしまいました。「どうしたのだろう。」と周りを見回してみても、そのコーナーにいたのは私一人で、誰も近くにいませんでした。
 それが、私が直面した不思議な体験の1つ目でした。けれども、まもなくして2つ目の不思議な体験をしました。左右に品数の多い食料品を乗せた移動棚が並んで、少し狭い通路がありました。私は、そこを遠くから見ていたのですが、そこを通った背の高い男性が、マスクごしに1回咳き込むのを目撃しました。その時、その男性の周りには誰もいなくて、彼一人だけがそこを歩いていました。人が群がっていないにもかかわらず咳き込むなんて、その人個人の問題なのかな、とその時の私は思いました。そう思っているうちに、私自身もその狭い通路を通っていました。周りに誰もいなくて私一人がそこを歩いていたのですが、私もやっぱりマスクごしに1回咳き込んでしまいました。何で咳き込んだのかを今度は検証してみたのですが、何か目に見えない微小で軽微な粒子みたいなものが、不織布マスクを真っ直ぐ通り抜けて吸気と一緒にのどに入って咳き込んだようです。
 そのようなことを実体験したものの、私はいつものように食料品の買い物をして、レジを通って店を出て、軽トラで家に帰りました。いつものように手を洗って、シャワーで体を洗って着替えて、食事を作って食べました。念のため、早目に寝床に就きました。その直前に血圧と心拍数を計測しましたが、異状はありませんでした。一晩寝ても発熱はせず、次の日も大事をとって、寝床で休養していましたが、何も異変が起こりませんでした。すなわち、何らかの微小なものを吸い込んで咳き込んだものの、幸運なことに、それによる感染はなかったと結論づけました。(もちろん、4月に私が経験したことが、その比較と判断の基準になっていたことは言うまでもありません。)
 それでまた、その翌々日にそのお店へ行ってみたのですが、そこで、私は新たなことを知ることとなりました。5、6人の若い女性を目撃したあの奥まったスペースへ行ってみたところ、やはり私の周りには誰もいませんでした。ただし、この前とは何か様子が違っていました。何か、この時期(12月)の外気のような少し冷たい風が、どこからともなく緩やかに流れてきて、肌に当たっているように感じられました。微妙な感じでしたが、そこにじっとしていると、体が冷えてしまいそうな涼しさが感じられました。そこの空気が変化していることは、見た目ではわかりません。しかし、そこに人が群がったり、誰かが立ち止まったりしている様子はなくなったように見えました。
 次に私がマスクごしにむせた場所へ行ってみました。すると、左右に食料品を陳列していた移動棚が全部なくなって、通路の幅が以前の倍以上に広くなっていました。風通しが良くなると同時に、一定時間内に以前と同人数のお客さんがそこを通っても、それぞれがバラバラのルートでその通路を通り抜けることになるので、マスクごしに咳き込むお客さんがいなくなったように見えました。現に、私もそこをその後に何度か通ってみましたが、全然マスクごしにむせることがなくなりました。
 以上のようなお店の中の変貌は、一体何を意味しているのでしょうか。私は、そこにこのお店のスタッフたちの隠れた努力を推理・推測いたします。前にも書きましたように、真相のすべては社外秘で、公表はされていません。がしかし、大事なことは、事の真偽に関わらず、多くの人に共有されるべきだと私は考えます。ここには、私たちが見習うべき2つの点があると考えられます。一つは、リスクを見つける方法であり、もう一つは、リスクへ対処する方法です。「そんなことは、誰にだってわかっている。だから、今さら学んでも仕方がない。」とおっしゃられる皆様方に、「ならば真似してみるといいですよ。」と私は申したいのです。
 現時点では「新型コロナウィルスの存在を確実に知るためには、PCR検査(あるいはPCR法)によるしかほかに方法はない。」と言われています。そういう内容の論文もあるくらい、そのことは信じられています。しかし、(新型コロナウィルスが存在するかどうかはわからないものの)ウィルスか何かの微粒子あるいは病原体の存在を知る方法はあると思います。人間がむせたり咳き込んだりするという現象です。誰もが、何の原因もなしに急にむせたり咳き込んだりするわけはありません。現に、私たちは、そばで咳き込んだりする人の姿に、感染症の疑いを持ったり、感染させられるかもしれないと怖がっています。
 すなわち、店舗の敷地内で、お客さんのむせたり咳き込んだりする姿を、防犯カメラの監視システムを使って、モニタリングしたり記録したりします。そうすることによって、(新型コロナウィルスが存在するかどうかはわからないものの)ウィルスか何かの微粒子あるいは病原体の存在を突きとめることが可能になります。「新型コロナウィルス自身があるかどうかはわからないから、そんなことは意味がない。」という意見があると思います。けれども、新型コロナウィルスだけが、ほかのウィルスや病原体とは全く別の空間や環境を経路にして、人間に感染するわけではありません。実際、そんな事実は発見されていません。接触感染や飛沫感染の対策と同じように「新型コロナウィルスがその空間や環境に含まれている」と考えて支障がないと思います。それに、こうしたチェックを、感染症が流行する前や蔓延する前にやっておくことは、十分な備えとなります。
 しかし、それだけで終わらないのが、さらに大切なのです。店舗内のお客さんを防犯カメラで監視して、注意や命令で従わせるというわけではありません。見つけたリスクに対する、お店の対処法で立派なのは「直接お客さん(人)に行動変容を促すのではなくて、店舗内(の物品)を徹底的に管理する。」ということでした。店のお願いを守って来店してくれるお客さんにストレスを与えずに、そのマスクごしに咳き込む姿を、時間的および空間的にチェックします。そこで、感染者の犯人さがしをするのではなくて、店舗内で3密のリスクがある箇所を見つけるために、監視システムを使っているのがスゴイところだと思います。おそらく私がマスクごしに咳き込んが姿も、防犯カメラでばっちしチェックされていたことでしょう。これも推測ですが、3密のリスクがあると特定された店舗内の箇所は、店長をはじめとする店舗スタッフによって、どうしたら3密を避けられるか話し合われたはずです。夜にお店を閉めた後で現場検証をして、店舗内の商品や備品や設備を移動させたり、通気を良くさせたり、防犯カメラの死角や、3密の死角を徹底的に失くすという努力を日々行ってきた形跡があります。お店側の責任において、店舗の敷地内の全ての物を監視し管理していることが推測されます。彼らが、どうしてそこまでやるのか、ということが一番重要な点だと、私は思うのです。
 こうしたお店では、食料を買い求めてどうしても人が集まります。人は食べ物がなくなると、生きてはいけません。『食のインフラ』という言葉もそこから生まれてきます。しかし、そこでクラスターが発生したり、多くの人が体調を悪くしたならば、お客さんの足も遠のくし、地元での営業も続けていけません。そこで、そのお店では『地元のスーパーマーケット』として多くの人々に認識してもらえるように、感染症予防対策を徹底的にやる、そして、やれることはやる、という方針なんだと思います。私には、そのお店には、口先だけではない、実(じつ)があると思いますが、皆様方はどう思われるでしょうか。その問いを各人に期限のない宿題として、今回のお話の幕を閉じたいと思います。