私の本業 全力投球して得たものは

 実は今年の私は、本業に全力投球せざるをえなくなりました。2月のたった2日の大雪で、キュウリの栽培に使用していた、ビニールハウスを6棟もつぶしてしまい、その4棟分の土地は、5アールの広さの更地となりました。ビニールハウスはもともとJAから借りていたリース物件であったため、国や県や市の援助を受けずに、再建することになりました。地元のJAの指導員の人と相談して、その5アールの土地でズッキーニを栽培することになりました。ここ2、3年の市場取引価格の低迷のために、ズッキーニの栽培と出荷に対する、生産者の意欲が落ちてきている、という地元の問題がありました。また、私としても、JAを通じて地主さんから借りている農地で何も作らないでいるのは、もったいないという意識がありました。
 そこまでは良かったのです。ところが、この計画に対する私の見通しが甘かったのです。7月末ごろから、ズッキーニが毎日大量に収穫できるようになりました。ところが、収穫するので精一杯で、それをJAや直売所に出荷するための時間が無く、その方法がわかりませんでした。キュウリの収穫と出荷の同時並行だったため、どちらかの畑を犠牲にしなければ、仕事が回らない状態でした。
 私は、ズッキーニの栽培や出荷の作業については、初めてだったせいもあって、よく知りませんでした。毎日朝夕2回の収穫が必要なことは知っていましたが、そのペースがわからず、規格として決められていたサイズより大きすぎたり小さすぎたりして、出荷の箱に入らなかったり、直売所に出しても売れなかったりしました。地元でも、ズッキーニの栽培を敬遠する農家さんが少なくありませんでした。それを栽培しても、消費者がそれほど買ってくれないというのが事実だったからです。なのに、私が栽培管理しているズッキーニ畑では、どんどん後からズッキーニが出来てきます。収穫を怠れば、巨大カボチャとなって、ズッキーニとしては売れなくなります。要するに、これは、仕事として成り立たないということだったのです。
 そこで私は一大決心をしました。規格サイズ内のズッキーニを収穫し、サイズを一本一本選果して箱詰めや袋詰めや一本売りをする時間を作るために、24時間いつでも収穫できる体制にしました。雨が降れば、雨がっぱを着て防水をし、夜になって暗くなれば、LEDヘッドライトを装着し、他の作業で疲れて夜中に目が覚めた場合は、夜中でもズッキーニやキュウリの収穫作業をしていました。最初の1週間で今日が何曜日かわからなくなりました。また、次の1週間で昼間と夜中の区別がつかなくなりました。ある日、夜中の2時に目が覚めたら、停車している車の中で、足元に食べかけのコッペパンが転がっていました。何でそうなったかは、当時まったく記憶が私にはありませんでした。そのうち、いつ眠っていて、いつ食事しているのかと、他人からは訊かれました。過労死してもおかしくない状態だったのですが、それで何とか仕事が回り始めました。
 しかし、私はズッキーニのことをよく知りませんでした。露地栽培だったので、レタスやブロッコリーやバレイショのように、出来たものを一回収穫してしまえば終了と思っていて、遅くとも2、3週間で収穫しきれると思っていました。ところが実際は、次から次へとズッキーニがなってきて、2、3カ月も収穫期間が延びていました。
 その間、食べるか寝るか働くかの3つに一つの毎日が続きました。それでも私は、損失を少なくして仕事として成り立たせるための努力を続けました。これは趣味でも家庭菜園でもないのです。失敗したら、再建計画は水の泡と化してしまいます。儲からなくても、農地の借り賃くらいは返したいと思いました。
 現在私は、何とか生きています。それほど成果は出てはいないかもしれませんが、生き残ったと言ってもいいかもしれません。地道に仕事をして、たとえ赤字であっても、それほど赤字にはならなかったと思います。ズッキーニを収穫し出荷するノウハウも多少は身につきましたし、その周辺の情報も多少は手に入りました。何もしなかったよりも、はるかに結果がよかったと思います。