昨晩NHK総合テレビでチコちゃんの番組を観ようとしたついでに、その直前のローカル局枠の番組を観ていました。長野県佐久市にテレビの取材が来たということで、この『信州を知るテレビ』というローカル番組枠で、”まんぷく農家メシ!「ズッキーニ」”という番組が放映されていました。長野県佐久市のズッキーニ農家の食卓にのぼるズッキーニ料理の幾つかが紹介されていました。ラーメンに入れるとか、輪切りにして両面焼きや天ぷらにする(め花を天ぷらにするのは知らなかったのですが)といった料理がその番組で紹介されていました。
そういう私も、毎年多少のズッキーニを畑で栽培して、その近くの農産物直売所に出荷しています。食べ方すなわち調理法が余り知られていないことと、ズッキーニ自体に味のクセがない(悪く言えば、味がしない)ことが主な原因で消費者の口に合わないことが多く、沢山とれて出荷すると、売れ残りの憂き目によく遭(あ)います。しばしば直売所から引きとりますが、ビタミン類が豊富なので、自炊の食卓にあげる工夫をするようにしました。
毎年私がズッキーニを畑で少しばかり栽培するようになった目的は、お金を儲けるためでも、その野菜を好んで食べたいからでもありませんでした。実は、ズッキーニ黄斑モザイクウィルス(以下、ZYMVと略します。)の感染メカニズムを観察して、それに対処するノウハウを得るためでした。私が主に栽培しているズッキーニ品種はZYMVの被害に遭(あ)いにくいと一般に知られているのですが、100%そうではありません。ワクチンなどの予防薬や、病害を回復させる治療薬も、ズッキーニに適用できる農薬にはありません。ZYMVに感染したズッキーニは、見た目が悪くなり、食味が悪くなり、日持ちも悪くなって、地面に埋めて廃棄するしかありません。けれども、そうした絶望的な状況から、ズッキーニにウィルスが感染するメカニズムやその対策について経験的に学ぶことができます。おりしも昨今のコロナ禍で、何らかの科学的な知識を得るために役に立っています。心情的にも、ウィルスの感染とその対策を現場で体感できるので、世間一般とは違う『コロナウィルス慣れ』をしていると私は思います。
現時点で私の知っていることを大まかに書き流しておきましょう。ズッキーニを栽培すると、毎年のようにZYMVにやられる株が発見されます。複数のズッキーニの株が接触感染を引き起こしづらくするためにも、株間を1m以上は離して植えておきます。しかし、感染経路が主に三つあることに注意が必要です。ズッキーニの葉や成長点や花に、アブラムシの群れが密集していると、ZYMVが感染しやすくなります。これは、新型コロナウィルスやその変異株が、自覚症状のない人流に感染しやすくなるのと全く同じです。見た目では、アブラムシの群れがすなわちZYMVの感染拡大そのもののようです。(厳密に考えると、両者を同一視すべきではないのかもしれません。)結局、基本的な対策として、農薬散布や周辺の草刈りによってアブラムシの群れを発生させないことが、この感染経路をなくす一番の効果的な方法でした。
次に、め花に散発していきなり感染発症する例がありました。そこに、アブラムシやアザミウマなどの小さな虫の群れが見られないのに、ZYMVにやられてしまうことがあります。これは、受粉してくれるハチなどの虫が無症状の運び屋になっているようです。そうなると、このような自然の事実をそのまま受け入れるしかなく、私たち人間はどうすることもできません。ズッキーニは花が大きいため、無症状の運び屋からの受粉回数が多いほどZYMVの入ってくる量が多くなって、いくらZYMVに強い品種であっても、その感染発症が防ぎきれないのかもしれません。
そして、その感染経路の三つ目は、私自身と剪定(せんてい)ばさみが接触感染にからんでしまうことです。例えば、ハダニなどの小さな生き物は、接触した人の衣服に移ることがよくあります。花粉の付着なんかもそうです。個体の大きさはかなり差がありそうですが、それらと似たようにZYMVも接触感染するようです。ちょっと神経質かもしれませんが、私自身は、水やりや収穫時に、なるべくズッキーニの株に体や衣服を触れないようにしています。新型コロナウィルスで言えば、ソーシャル・ディスタンス(あるいはフィジカル・ディスタンス)をとることに当たるかもしれません。そのことよりも、もっと重要なことは、感染発症したズッキーニの株に手やはさみが触ってしまったら、畑のすぐ脇に設置されている水道の蛇口で、手洗いやはさみの水洗いをすることです。昨年は、その徹底というか、習慣的にそれをやってみたらば、感染拡大が減りました。流水で手洗いやはさみの水洗いをすることは、他の感染拡大防止策の影響もあったかもしれませんが、接触感染に対してある程度の効果があることが確認できました。
以上のようなことからわかることは、100%の感染防止策というものは考えられないということです。もちろん感染拡大をある程度抑制はできます。しかし、それをゼロにすることはできません。私たち人間は、優れた科学的知識を有しているといえども、どうすることもできない自然の中で生きています。それもまた、紛れもない事実だということです。現時点で少なくともできることは、ZYMVにおかされたズッキーニは消費者に売らない、自ら食べない、地面に埋めて廃棄する。その地面は、消石灰を混ぜて耕すなどのウィルス病害予防対策をすることだと、私は思っています。
私なりのズッキーニ調理方法を書くつもりでしたが、だいぶ話が脱線してしまいました。もちろん私は自前の安全安心な直売所返品ズッキーニで、自炊で食事を作っています。例えば、私は、輪切りや銀杏(いちょう)切りにして、市販の袋ラーメンの鍋に入れています。ただし、その鍋に入れるタイミングに工夫があります。煮ていた麺がほぐれた時点で、切ったズッキーニを入れるのです。そうすると、ズッキーニが煮すぎてぐちゃぐちゃに柔らかくなるのを防げます。もともと、ズッキーニは生でも食べられる野菜なのです。ただ、少々加熱すると食べやすくなります。なぜラーメンが良いのかというと、ラーメンのスープが、加熱されたズッキーニに味付けしてくれるからです。わざわざズッキーニに味付けする手間がはぶけます。その応用として、カレーを作る時も、切ったズッキーニを最後に入れる(つまり、カレールーの後に入れる)と、ぐちゃぐちゃになりにくくなります。
私が入手した情報によると、ズッキーニ入りの卵焼きというものがイタリアの家庭料理にあるとのことです。そこで、輪切りや銀杏切りにしたズッキーニの断片を、フライパンに落とした卵とまぜこぜにして焼いてみました。そのままだと卵の甘味がまさってしまうので、塩やしょうゆやソースやトマトケチャップを食べる前にかけることをお薦めします。さらに、私が考えたのは、このズッキーニの卵焼きの発展型です。フライパン上で、そのズッキーニ入り卵焼きに塩などで味付けして、それから冷めたご飯などを入れて加熱しながらかき混ぜます。ズッキーニ入り焼きめしを作るというわけです。ズッキーニの卵焼きがイタリアの家庭料理だとするならば、それはさしずめ、イタリア料理風の焼きめし、すなわち、わたしの妄想的な『イタめし』というところだったと思います。もちろん、ご飯をフライパンで炒(いた)めることから、炒め飯すなわち炒飯(チャーハン)の意味で『イタめし』と言葉遊びをしたと考えていただいても良いと思います。
そもそも、私はあのバブル期に、翻訳会社に勤めていました。給料が安くてお金もなく、女性にもモテなくて、孤独な日々を送っていました。当時の私は、メッシーでもアッシーでも貢(みつぐ)くんでも本命くんでもなく、当時の女性の誰にも相手にされませんでした。そんな当時の女性を『イタめし』なんかに誘ったことも、それを女性と一緒に食べたことも、一度もありませんでした。つまり、当時の特別な『イタめし』なるものは、私にとっては妄想の一種でしかありませんでした。
だから、今回私がズッキーニを食べる上で編み出した『イタめし』は、そんな妄想的イメージの産物とも考えられます。そのように妄想的とはいえ、現実的にはズッキーニと卵とお米という栄養バランスの良い料理になりました。味付けも、それほど凝ってはいません。けれども、意外と美味しく作れて食べられました。今の私にとって、それは良い結果の『妄想めし』になったようです。