消費増税を冷静に考える

 世の中には数字に弱い人が少なくありません。従って、あまり自慢してはいけないと思いつつも、私は今回の消費増税を一種のメカニズムとして考えてみようと思いました。
 と言いますのは、便乗値上げがあるのではないか、とかいう噂や疑惑が世間的に広まっているようだからです。また、消費税引き上げは、良いとか悪いとか、様々な意見が交錯して、専門家でさえ「その引き上げは仕方がない。」という見解を示していらっしゃいます。
 しかし、私たち庶民の大多数は、そんなことを知りたいのではないのです。お金の流れとして、徴収されるいくつかのポイントで、不正が行われることがないか、つまり、税を納める妥当性が本当にあるのかどうかを知りたいのです。よく知られているように、その最終ポイントは、税の使い道です。一方、その最初のポイントは、消費者がお金を出して何かを買った時の、その価格です。そうした点に関して、不正や不公平がなく、妥当であることが望まれます。
 テレビでは、数字や数学が苦手な人のために、こう説明されています。「定価100円の商品に消費税8%がかかると、108円でそれを買うことになる。」確かに、この説明は単純明快でわかりやすいとは思います。世の中の人たちが、みんな理系出身の人たちとは限りませんし、研究者や学者や専門家であるとも限りません。ちなみに、百円ショップで買い物をする場合は、事実この通りだと思います。
 しかし、この説明では、価格が端数の商品があるという現実に対しては、何も答えていないと思います。実際に地元のスーパーマーケットに行くと、100円で割り切れる価格の商品などは珍しく、1円単位で端数の価格になっている商品が多いと思います。
 そこで、私は、実験をしてみることにしました。実は、私は、年収売上高1千万円以上のあるスーパーマーケットで買った商品のレシートを必ず保管しています。すなわち、増税の前後で同じ商品を買って、それぞれのレシートに記載されている価格を比べてみました。
 例えば、増税前に98円の商品Aがあったとします。もちろん(消費税5%の)税込み98円で買いました。8%に増税後、そのお店では消費税を含まない(税抜きの)商品価格を、『本体価格』として表示するようになりました。98円の税込み価格が、94円の本体価格の表示になったわけです。
 何も考えていない消費者の側からすると、見た目、物の価格が安くなったように見えます。ところが、レジを通ると、以前98円のお金を払っていた物に、101円のお金を払わなければいけない、ということに気がつきます。何か損した気分になって、購買意欲がなくなり、次回の買い物には一層、節約しなきゃと思うわけです。
 ところで、ここで冷静に考えてみる必要があると思います。レシートを見て、増税前の98円の商品に消費税5%がいくらで乗っていたのかを確認します。すると、その商品は、消費税5%の税抜き価格が93円か94円であったことがわかります。もともとそうであったわけです。そのことから、消費税8%の現在、94円の本体価格は妥当であることがわかります。
 厳密に言うと、それらのレシートに印字されているのは、消費税『等』です。また、本体価格とは、商品の店頭『売値』のことであって、それの『仕入れ値』ではないことにも注意する必要があります。私は、大学の商学部卒でも、商業高校の出身でもありませんが、それくらいのことはわかります。本体価格と仕入れ値が同じでは、お店に儲けはありません。しかし一方、それらに差がありすぎると、サービス業の役割を果たせず、儲けがあってもお客は離れていってしまいます。つまり、それらの価格が(どの商品もほぼ平均的に)妥当であることが、消費者からの信頼が得られて、商売を続けていける一つの秘訣であると言えましょう。
 ちょっと説明が難しくなってしまいましたが、要は、お店の側も、お客に対して誠実で、商品の価格設定に疑念を抱かせない工夫が必要だということです。その点に関しては、既に述べた私の実験と検証によって、お店の側が商品価格を過不足なく計算していることを明らかにできたと思います。
 こうした私の実験と検証は、確固たる結論を導くことはないかもしれません。消費増税が良いとか悪いとか、やむを得ないとか、そうした結論を出すことはできないかもしれません。でも、消費者の思いとか、商売をする側の誠意とかを考える上で、ほんのちょっと参考になれるだけでもいいのではないか、と私は思っています。