3つの仮説、あるいは私見

 国民一律10万円の給付金に関しては、世の中いろいろご意見やご批判がありましょうけれども、その意味するところを、私なりにあれこれ憶測してみようと思いつきました。そこで、『懸賞金説』『有給手当説』『減税効果説』の3つの仮説にまとめて簡潔に述べていきたいと、私は思いました。
 本当は、テレビなんかで誰かが解説してくれていれば、良かったはずです。しかし、結局は、その支給方法やシステムに対する批判や苦情ばかりで、その『ありのままの姿』を掌握できなくなってしまったような気がします。現在の日本において、住民基本台帳から国民一人一人を割り出してお金を支給する方法は、実は一番公平な手段なのですが、いろんなことを考えてしまうと、その公平さを見失ってしまうようです。
 まず、今回の給付金について私が考えたのは、『命の懸賞金』というイメージです。当初、このウィルス感染症について、日本国内で何も対策が行われなかった場合、多くの人が命を落とすという試算が、専門家さんから出されていました。私たち日本人の一人一人の命が、誰かの言うことに従えば100%助かる、というものではないのだということを、その10万円の給付金は示していたのです。そんなことなど、あるはずがない、と思う人がいらっしゃるかもしれません。でも、本人が命を失った場合、本人がその10万円を受け取るチャンスを失うことは、紛れもない事実でした。つまり、私たち日本人の一人一人に、何とかして生き延びてくれるように、そして、何とか生き延びてくれたならば、国家からの報酬(すなわち、懸賞金)として10万円を支給しましょう、というお願いと取引なのだったのかもしれません。
 もちろん、家族や本人の希望として、今回のひとり頭10万円の支給を断わることも自由にできます。財産が余分にあるだとか、今もまだ高収入で生活しているだとか、という人が10万円の支給など必要ない、と思うのは当然のことです。ただし、支給を受けるみんなからお金を集めて、お金で困っている人に集中的な支援ができると考えるのは、どうかな?と思います。なぜならば、支給を受け取る一人一人に『命の懸賞金』がかけられているとするならば、それらのお金を集めるその人自身に、それ相当の責任を感じてほしいと思うからです。お金だけではなくて、彼らの尊い命までも集めていることを自覚していただいているのかを、私は聞いてみたいものです。日頃、『血税』という言葉をその人自身が意識して、お金を扱っているのかが、こういう機会にあからさまになってしまうものなのかもしれません。
 いずれにせよ、そのような『命の懸賞金』説は、内容が重すぎるような感じもします。そこで、少し視点をずらして、この10万円を次のように考えてみることにしてみました。『日本国』株式会社としては、この、やむをえない事態に際して、老若男女を問わずに一人一人を『日本国の正規社員』として(ステイホームのためなどの)有給手当を支払うことになったというわけです。国家を会社に見立てて、日本人一人一人をそれに所属するサラリーマンと見なす、最近流行りの社会的な見方と言えます。ただし、前の説とも同じことが言えますが、財源はどうするのか、将来の世代への借金として残すのか、という問題に行き着きます。
 そこで、3番目の仮説として、「住民基本台帳にある世帯への、事実上の減税あるいは免税」ということが考えられました。(そのような私の発言に、面食らっている皆さんがいらっしゃるかもしれません。以下に、私の身近な話で具体的に説明いたしましょう。)現在私が住んでいる地域の市役所から、『特別定額給付金のお知らせ』が郵送されてきました。その郵便封筒に私は見覚えがありました。毎年の、住民税や健康保険税(私の地元での呼び名。東京などでは、健康保険料と呼ばれている。)の確定および納付書が、全く同じデザインと型の封書で送られてきます。私の地元の自治体(市役所)は、そのような文書の郵送に慣れている、ということがその時にわかりました。よって、システム的にはスムーズに(郵送で私が送り返した)申請書の審査が行われて、給付が決定して、給付金が振り込まれました。
 余りに円滑に手続きが進んだのと同時に、肝心なことを私は気づくことができました。今回の給付金の流れは、例年の住民税や健康保険税(健康保険料)の納付金の流れとは全く逆だったということです。つまり、これまで毎年私が地元の自治体(市役所)に納めていた分が、今回の給付金という形で戻ってきた、と見ることもできます。今回のお金(給付金)は、天から降ってきたのではなく、あくまでも今回の非常事態を乗り切るための『事実上の減税か免税』であることがわかります。
 よって、住所不定の人は、これまで住民税や健康保険税(健康保険料)の納付を催促されずに免れてきた人だということがわかると思います。そのような人が今回の給付金を受け取るのだとすると、もらい得になるかもしれません。もっとも、住所が確定すれば、住民税や健康保険税(健康保険料)の納付金の催促が、今年以降は郵送で届くようになるかもしれません。「余計なことをするな。」と彼らに叱られそうなので、私はこれ以上は言及しないことにいたしましょう。