『ジョジョの奇妙な冒険』にハマる

 私が荒木飛呂彦さんのコミックス『ジョジョの奇妙な冒険』を初めて見たのは、今から十年くらい前だったと思います。私は、基本的にずっと漫画雑誌を買わない派です。が、東京の街中にある床屋さんに行っていた頃は、待ち時間が長かったため、何冊も週刊少年雑誌を読みつぶしていました。週刊少年サンデーやマガジンやチャンピオンやジャンプを、片っ端から読んでいました。あだち充さんの『タッチ』とか、原哲夫さん・武論尊さんの『北斗の拳』とかの連載物とか、その他いろいろな単発物を読んでいたと思います。
 その中でも、『ジョジョの奇妙な冒険』は、スタンドという奇妙な現象を扱っていて、そのストーリーよりも、絵の構成の奇妙さに強く惹(ひ)かれました。私は、そのストーリーを理解することは二の次にして、その奇妙な人物やスタンドの表情や造形に、終始、目を奪われていました。まさに、その『奇妙な冒険』の世界にハマり込んでいたわけです。
 私が、『ジョジョの奇妙な冒険』というコミックスに抱いていたイメージというのは、かくのごとくだったのです。そして、今年の始めに東京の実家に帰省した折に、МXテレビで夜のゴルーデンタイムに、アニメ『ジョジョの奇妙な冒険』の第一部の総集編をやるというのを、番組表でたまたま見かけました。私は、全く期待していませんでした。なぜならば、人気のある原作コミックスの世界をアニメで表現するのはとても困難なケースが多いと知っていたからです。
 ところが、私は何気なく「あのシーン」を見て、その思い込みが崩れていくの感じました。ジョジョの恋人のエリナがディオに無理やりキスをされるシーンで、「やったーぁ。さすが、ディオ。俺たちのできないことを平然とやってのける。そこにシビれる!あこがれるゥ!」と脇からセリフが入ります。そこに感じ入る視聴者も多いようです。しかし、私の心はさらに次のシーンで、ノックアウトされてしまいました。(正確には覚えていませんが)「おおっ、あいつ、唇を泥水で洗っているぞ!」みたいなセリフが脇から入りました。ジョジョの恋人エリナは、ディオに汚(けが)された自らの唇を、それよりも汚(きたな)そうな泥水でぬぐっていたのです。それら一連のシーンやセリフまわしがいちいち可笑(おか)しくて、それがきっかけになって、私は、そのアニメの第一部と第二部の総集編を全部見てしまいました。
 また、第一部では『石仮面』というものが登場します。西洋の歴史では、魔女裁判などの拷問の道具として、鉄仮面というものが使われていたそうです。その不気味さのイメージを引きずったような、その石仮面を被(かぶ)ったことにより、ディオは不老不死の吸血鬼になってしまいます。
 ところで、そのような鉄仮面と言うと、私の世代では、少年画報に掲載されていた楳図かずおさんの『笑い仮面』の話が忘れられません。幼稚園児の頃の私は、鉄仮面を被せられて、それが外せなくなった人間の首の隙間から、血がポタポタ流れ落ちているのを見て、すごい恐怖にかられました。しかも、仮面を被せられた人は、金属の顔が硬直していていつも笑ったままなので、その人が本当に生きているのか死んでいるのか、幼い私にはわかりませんでした。私は、幼稚園児の頃は、まだ意識がぼんやりしていましたが、その『笑い仮面』の顔の絵だけははっきりと覚えていました。
 そうした様々なことを感じながら、私はそのアニメを見ていたのです。詳しい説明は省略しますが『波紋』とか『柱の男』とかについても、原作に劣らない描かれ方をされていると思いました。結論として言えることは、荒木飛呂彦さん原作のアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』も、やっぱり面白かった、ということでした。