ある劇場版アニメのシーンに対する謎

 今年やり残したことの一つとして、或ることを今回は書いてみたいと思います。年の初めにレンタル・ビデオ屋さんから借りた劇場版アニメ『愛・おぼえていますか』のDVDを見て、私にはどうしても納得のいかないことがありました。
 このアニメの主要人物の一人である早瀬美沙が、プロトカルチャーの人々が残した『カーシ(歌詞?)』をコンピュータを使って翻訳するのですが、明らかにアルファベット文字の英語に直していました。その歌詞は、このアニメのもう一人の主要人物であるリン・ミンメイに紙で手渡されました。彼女は歌手で、何とそれを日本語で歌っていました。このアニメ映画のラスト近くのシーンで、その紙に書かれた歌詞がスクリーン上に映るシーンがありました。何とそれは英文で、しかも、手書きの筆記体になっていました。コンピュータを使っていたのに、活字で印刷しないで、わざわざ手書きになっていました。
 歌詞の内容にはケチをつけないとしても、それが英語で書かれていたことは注目に値します。リン・ミンメイという歌手は、英語の歌詞を瞬時に日本語に置き換えて歌っていたわけです。すごい才能だと思います。でも、そこまでアニメに対して、リアリティーを追求するのは大人げないのかもしれません。宇宙SFアニメなのですから、そこまでケチをつけるのは我ながら情けないことです。
 そこで、このアニメ作品の裏事情をいろいろと推測してみました。当たっているかどうかはわかりませんが、私は次のように考えてみました。この劇場版アニメを何回か観ていると、劇中で使用されている地球人の文字が気になります。英数字は登場しますが、日本語のひらがな・カタカナ・漢字はいずれも使われていません。『エヴァンゲリオン』などのアニメでは、舞台の設定が日本国内であるとわかっていたので、漢字が普通に文字として出てきます。一方、この『マクロス』では、地球上で統合戦争が起きた後でマクロス宇宙艦内もいろんな人種がごっちゃになっている設定でした。従って、あの世界共通語になると予想されきた『英語(English)』が使用されていたと考えられます。
 また、この劇場版アニメは、USA(アメリカ合衆国)をはじめとする外国へ輸出されることを考慮してアニメ制作が行われていたようです。よって、アニメ映像の中から日本語の文字が意識的に消去されたというわけです。とするならば、リン・ミンメイのその歌も、外国へ輸出された後は、その外国語の歌詞で吹き替えられることをあらかじめ想定されていたわけです。それは、やはり世界共通語の第一候補である英語がよい、ということになったと推測されます。
 余談ですが、リン・ミンメイが横浜中華街の出身だったことを考えたら、その歌詞は中国語でもよかったかもしれません。私の勝手な空想で申し訳ありません。もう一つ、ついでに言わせて頂くと、リン・ミンメイが本当は日本人じゃないか、という憶測が私の心の中にありました。このリン・ミンメイ日本人説は、次のような根拠によります。実は、「林明美(はやし・あけみ)」の中国語読みが「リン・ミンメイ」であることを私は以前から知っていました。彼女の場合は、何らかの事情で日本語の名前を中国語読みにしていたようです。しかしながら、たかがアニメの設定を、そんなふうに深読みしてもいいのかな、という思いも私にはありました。確かに、アニメの中でミンメイは日本語でしゃべっていたし、と考えてみたところで、それじゃあ、フォッカーやクローディアは明らかに白人や黒人なのに日本語でしゃべっていたのはナンデダロウということになりかねません。
 本題に戻るならば、ミンメイの『愛・おぼえていますか』という歌のそのような謎は、この劇場版アニメが英語圏の外国向けにもともと制作されたものであったと考えるならば、謎でも何でもなかったわけです。私は若い頃、この劇場版アニメを東京の日比谷の映画館に見に行きました。その時に私たち多くの日本人のファンが見たのは、日本語吹き替え版のアニメ映画だったのです。そう思ってしまえば、何てこともありません。ちなみに最近、この映画の英語に吹き替えられた映像クリップをほんの少しだけネットの動画サイトで見ることができました。それはそれでカッコよかったのですが、同じ映像なのに何か日本語版とイメージが違くて、戸惑いを感じました。
 アニメの映像のクォリティ(質)としては、当時のほとんど日本中のアニメ・スタジオの協力と結集を感じさせる高水準なものでした。その結果、この劇場版アニメは世界に通用して、今でも外国語の字幕が付いたものを見かけることができます。私がネットの動画サイトで見かけただけでも、英語はもちろん、ポルトガル語(おそらくブラジルで見られているのでしょう。)のものまでありました。しかし、不思議なことに、あのミンメイの歌は、英語バージョンはあるものの、日本語のローマ字表記でそのまま日本語のオリジナル歌詞で伝えられていることが少なくありませんでした。
 英語バージョンでは、アニメタルUSAの英語カバーがうまく訳されています。サビの始まりで"Tell me now do you remember"と歌われています。"Do you remember love the moment ..."みたいに歌っていないところがミソです。また、この曲のEnglish Songとして余りに有名なCristina Veeの"Do You Remember Love"では、やはりサビの始まりが"Tell me baby you remember?"と歌われています。こうした人たちの歌う曲の歌詞を参考にすると、英語を母国語とする人たちはこんなふうに和文英訳するんだなあ、と感心させられます。
 でも、そんな中で日本語の歌詞の「(私を)見守る」を"always keep an eye on me"などと訳していらっしゃいます。間違いではないと思いますが、彼ら(English native speakers)が日本語をどう見ているのかということがわかって大変参考になりました。「(私に密着する)目を常にキープする」ことが「見守る」ということなのですから、言葉の意味の筋道は通っています。でも、私はこのような英語表現を知りませんでした。辞書を見ると「見守る」の英訳は、普通は"watch over me"や"watch what I (am going to) do"です。
 英語を母国語とする人たちの苦心する様を想像して、この"always keep an eye on me"という言い回しに、元気百倍あるいは勇気百倍を得ました。そうだ!この機会に私も、このミンメイちゃんの曲の英語カバーに挑戦してみよう。全部誤訳になってもかまわない、とまで思いました。私の英作文能力は、良いところジュニア・ハイスクールのレベルしか無いと思います。でも、日米双方のガキンチョ、じゃなくて、お子様にわかる程度でいいやと思いました。近日ご期待?ください。そしてまた、なぜこの歌の日本語オリジナル歌詞がローマ字表記で、世界に生き続けているのかも考えてみたいと思います。