"Let it Go"の日本語カバーに挑戦!?

 最近、『アナと雪の女王』という映画の"Let it Go"という歌が何かと話題沸騰中のようです。映画館で観客がそれを歌えるイベントもあると聞きます。私は、あるテレビの番組で、映画館で外国人の観客が「レリッゴー、レリッゴー。」と大合唱しているシーンを見たことがあります。
 しかも、この曲にはすでに、日本語カバーバージョンがあって、松たか子さんやMay.Jさんが歌唱されていて、そちらも大好評だと聞いています。「ありの〜ままの〜姿みせるのよ〜」のフレーズで有名なあの曲です。その日本語カバーの歌詞は、とてもよく出来ています。オリジナルの英語の歌詞を知らなくても、日本語でほぼその曲の真意は伝わると言われるほど、それは高く評価されています。
 実は私は、この曲の日本語カバーを作るつもりはありませんでした。既に述べたように、立派に訳された日本語カバーのバージョンがあるため、「ありのままで、放っておきなよ(Let it go)。」とか「そのままにしておきなよ(Let it be)。」という声に、私は耳を傾けていました。たとえ作っても、盗作になってしまっては意味がありません。それほど、『ありのままで』の日本語歌詞はよく意訳されています。それを改めてオリジナルの英語歌詞から私が翻訳するなどとは、全くの無謀であり、愚の骨頂と言えました。
 ところが、ある日、テレビを見ていたら、あのパソコン遠隔操作事件でS弁護士が記者会見を行っていらっしゃいました。K被告に「ありのままの」自分になってほしい、というふうなことを『アナと雪の女王』から引用してS弁護士が話されていました。それをたまたま目にした私は、「え〜っ」と驚いてしまいました。K被告の『ありのままの姿』ってサイコパスじゃないか、と私は思っていたからです。一方、S弁護士の立場からすれば、K被告がサイコパスの仮面を外して、本当の姿を見せてほしい、と言いたかったわけです。(私のほうが、雪の女王と同じくらい気持ちが冷たかったのかもしれません。)
 その私の勘違いはともかく、それがきっかけで"Let it Go"の英語の歌詞を日本語訳して、さらに日本語で歌えるように意訳してみることにしました。それによって、S弁護士のその考えを私なりに検証してみたかったのです。そこで、『ありのままで』の日本語歌詞に敬意を払いつつ、私だったら日本語にどう翻訳するか、ということに挑戦してみることにしました。少々、月並みな歌詞になってしまったかもしれませんが、以下にそれを示してみました。


   『風よ、ふぶけ!(雪の女王)』



雪が深くなるほど 来た道は消えてく
広い雪野原(ゆきのはら)に 一人きりの王女
心の奥にまで 荒れ狂う風
誰一人 知らないわ


何食わぬ顔をして 良い子のふりをして
正体を隠してたーけれども


風よ、ふぶけ! もう遠慮はしない
雪よ、ふぶけ! 力を放ちましょう
何を言われても 吹き荒れよ!
寒さが味方なのよ


ちょっと離れただけで 小さく見えるなんて
前、恐れていたことが 平気になるなんて


今わかる できること
できうる限りのこと
職(しょく)や金(かね) 求めずに
できる!


風よ、ふぶけ! 自然と一緒に
雪よ、ふぶけ! 羨(うらやま)しがられる
確かな私に 吹き荒れよ!


天地を揺るがすこともできる。
入りくんだ樹氷のように広がってゆく思いは
風に透き通って輝いてる。
もう戻れないわ 過去の日に


風よ、ふぶけ! 夜明けの私に
雪よ、ふぶけ! 偽ってた私に
希望のその中へ 吹き荒れよ!
寒さが味方なのよ



 曲のタイトルからして月並みかもしれません。しかし、あの初代の仮面ライダーだって、風力という自然の力をそのスーパーパワーの源にしていました。そして、今回のスーパーヒロインの『雪の女王』は、寒さ(=自然の厳しさ)を味方にしていました。今回彼女が、ディズニー映画の3Dアニメーション・キャラクターであることも、フィクション(虚構)として見逃せない点です。確かに"Let it go"という文言は、英会話的に見れば、「あるがままに、放っておきなよ。」という感じの日常的な慣用句と見られるようです。ネット上では、そうした見方をする人が多いようです。
 しかし一方、英文法的にみると、"Let there be light."(「光あれ」という旧約聖書創世記の創造主の言葉)やこの曲中の"Let the storm rage on."(「嵐よ、吹き荒れよ。」という雪の女王の言葉)と同じ用法の文型だと言えます。。すなわち、"Let it go."という言い方は、二つ以上の意味用法が掛けられている『かけことば』の一種であって、しかも、そんなふうに何らかの力(パワー)を持ったキャラクターの発する『呪文の言葉』でもあると見られます。
 考えすぎを覚悟で申しますと、"it"は天候を指すこともあると思います。たとえば、"It's fine."(晴れです。)とか"It's cloudy."(曇りです。)とか言うように、その天候(という状況)を支配するような感じで"Let it go."と虚構の中で言ってもいいのではないかと、私は勝手に解釈しました。「あるがままの…」という日本語の言葉より、それはアクティブ(積極的、強気)なニュアンスがあると思います。そうでなきゃ、外国人の観客たちが映画館内で大合唱したことの意味がよく理解できない、と思います。そういうわけで、私は、この曲中の"Let the storm rage on."(「嵐よ、吹き荒れよ。」)というフレーズにならって、"Let it Go"のタイトルを『風よ、ふぶけ』にしてみたわけです。
 ところで今回は、"Thinking in English"(英語で考えること)ならぬ"Feeling in English"(英語で感じること)の良いお手本があって、私としては勉強になりました。例えば、この曲には"And one thought crystallizes like an icy blast."(直訳では「そして、一つの考えが、凍てつく突風のように結晶化する(クリスタル化する)。」)というフレーズがあります。ネット上のある人の意見では、「逐一日本語に直訳しても、よくわからないから、日本語に訳さず、英語のままフィーリングで感じるべきだ。」とありました。英語の辞書を見ても、"crystallize"という動詞が「結晶化する」と書いてあって、直訳してその言葉通りではどうにもならない。日本語の歌詞として表現なんかできない、と思われることでしょう。
 しかし、英語の辞書に、文字通りの、ぴったりとくる訳語が無いからと言って、あきらめてはいけません。「結晶化(クリスタル化)する。」(crystallize)とはどういうことなのか、考えてみてください。ちなみに、『クリスタル』(crystal)とは、『水晶』の意味ですが、『水晶のように、透明に澄(す)んだ、ガラスや氷や鉱物などの硬い固体』という意味も表します。つまり、「結晶化(クリスタル化)する。」(crystallize)とは、「何かが透明な固体になって(透きとおって)、輝いている状態になる。」ことだ、ということがわかります。すると、問題のフレーズは、「一つの思いは、一吹きの風の凍(い)てつくごとく、凍(こお)って、透きとおって、輝くのである。」みたいに平易な日本語に訳すことができます。
 時間のかかる英文解釈の授業みたいですが、そうして日本語の表現でイメージを理解して、改めて"And one thought crystallizes like an icy blast."という英語の歌詞を見直してみるのです。すると、英語の歌詞の表現が、決して難しいことを表現しているのではない、ということがわかると思います。哲学的でもなければ、難解でもありません。あえて言わせてもらえば、雪の女王が望めば何でも氷にしてしまう、その自然な情景を歌っているだけなのです。その当り前な情景をイメージできれば、どんな日本人でも「英語で感じることは簡単だ。」と、言えるのかもしれません。(その辺は、個人の努力で頑張って欲しいと思います。)
 また、"frozen fractals"という言葉も訳しにくい言葉かもしれません。英語の辞書を引いても、載っていなかったり、よくわからないことが多いようです。でも、『フラクタル図形』のことは、日本でも意外とよく知られています。数学や美術の授業で知った人も少なくないことでしょう。岩手県リアス式海岸とか、野菜のブロッコリーの断面図などを見ると、その表面が複雑に入り組んでいることがわかります。木々などの植物も、枝が沢山あると、細かく絵に描いたりすると、その複雑さに大変なことになります。そうした複雑で、表面が入り組んだものが、氷で覆われたり、凍結したものをイメージすると、その"frozen fractals"という言葉の意味するものがわかると思います。
 実は、松たか子さんが「空へ風に乗って」("I am one with the wind and sky."の日本語歌詞)と歌っているところがあって、真似したかったのですが、盗作になるといけないので私はやめました。そこで、『風』(wind)と『空』(sky)の共通項は『自然』だと考えまして、「自然と一緒に」とか「自然と共に」と私は意訳しました。
 同様にして、"No right, no wrong, no rules for me"(「権利も不正も規律も、私には必要ない」くらいの意味)という英文のフレーズも、それらの共通項は「人間社会」とか「社会的地位」とかでくくれると思いました。多少解説しますと、『雪の女王』は厳しい自然の中で生きるため、そうした人間社会で生きていくために普通は必要な権利・権力や規律や(時には必要な)不正・悪だくみなどの『社会のしがらみ』は要らない、ということなのだろうと思います。私の場合は、社会的地位を表す(象徴する)『職業と財産』を、『職や金』という言葉でざっくり表現してみました。
 曲の歌詞の細かい部分は、以上のような感じで作ってみました。全体的には、私の場合は、『雪の女王』という架空のスーパーヒロインのキャラクターを、この日本語カバー曲で、現代的にどう力強く表現できるか、かっこよく表現できるかに注意したつもりです。例えて言えば、あの『ヴェルサイユのばら』を演目の一つにした宝塚歌劇団のような雰囲気で、力強くてかっこよく表現できたらいいな、と思いながら私なりに日本語歌詞を作ってみました。(そのことに熱中してしまったために、きっかけとなったS弁護士の一件を、いつしか私は忘れてしまいました。)