『マミーブルー』の日本語カバーに挑戦する

 私がこの曲を初めて知ったのは、確か小学校高学年の頃だったと思います。クラスの友人と遊んでいた時に、そのワン・フレーズを教えてもらいました。ただし、その友人は、こんなふうにふざけて歌っていました。「オーマニ。オーマニマニ、ブルース、オーマニーブルース。(Oh money oh money money blues oh money blues)」と。だから、最初は、お金(money)の歌だと思っていたのです。
 もしかして、友人が教えてくれたのは、この曲の替え歌だったのかもしれません。私が今考えてみても、「マミーブルー(mammy blue)」という文句は「マリッジブルー(marriage blue)」にも綴(つづ)りが近いいのです。すると、「オーマリッジ。オーマリッマリッジ、ブルー、オーマリッジブルー。(Oh marriage oh marriage marriage blue oh marriage blue)」という英語の替え歌のフレーズが作れそうです。それでも、そんなに違和感がないのが不思議です。
 私がこの曲をちゃんとした音楽として知ったのは、その1、2年後でした。中学生になったばかりのある日、一年生全員は、学校の体育館に集められました。新入生の歓迎会をやるという中で、確か、学校のブラスバンド部の上級生たちの演奏を聴かされた記憶があります。その指揮者は、音楽の専任教師でブラスバンド部の顧問だったU先生でした。後で聞いた話ですが、U先生は、あのビートルズの熱烈なファンでした。彼らの曲を、よく文化祭などでブラスバンド部員に演奏させていたくらい、好きでいらっしゃいました。
 だから、私は、この『マミーブルー』という曲を、ビートルズのカバー曲か何かだと、長らく勘違いしていました。また、ややアップテンポ気味なブラスバンド部の演奏だったので、私にはビートルズっぽく聴こえたのかもしれません。
 しかし、最近になって、ネット上で検索して調べていくうちに、全然違うことがわかりました。1971−1972年頃に、ポップトップスというグループが英語で歌って欧米でヒットさせた、当時の流行歌だったのです。それをブラスバンド部の演奏にいち早く取り入れたU先生の、そのハイカラさがうかがわれます。実は、この曲はもともと、1970年頃に、シャンソンの作詞や作曲でも有名な、ユベール・ジローさんが作った曲でした。そのフランス語の歌詞は、1971年にニコレッタさんが歌っていたそうです。
 この曲は、あのポールモーリア・オーケストラでも、その後私は聴くことがありました。けれども、「オーマミマミ、ブルーオマミーブルー」というフレーズの繰り返しが、何か哀愁を感じさせるという印象しか持っていませんでした。原曲の(ニコレッタさんの歌った)フランス語の歌詞では、どんなふうに表現しているのか、ということに、つい最近になって興味を持つようになりました。そこで、この曲を、日本語でカバーして表現したらどんなふうになるのかを、私は考えてみることにしたのです。その成果を、以下に示してみましょう。



    『ごめんね母さん』


母さん。母さんを想ってブルーになるの(お母さん)
母さん。母さんを想ってブルーになるの(ごめんなさい)
母さん。母さんを想ってブルーになるの(淋しいわ)
母さん。母さんを想ってブルーになるの


家を出た夏の日(母さん)
あなたを拒んで(母さん)
明日(あす)を夢見て(母さん)
いたわ


戻れない先で(母さん)
風は強くなり(母さん)
居てくれた昨日(きのう)(母さん)
よりも


母さん。母さんを想ってブルーになるの(ごめんなさい)
母さん。母さんを想ってブルーになるの


今日(きょう)帰って来たわ(母さん)
遠く離されてた(母さん)
道をたどって(母さん)
来たわ


私を迎え入れる(母さん)
笑みも温もりも(母さん)
恋しいあなたは(母さん)
いない


母さん。母さんを想ってブルーになるの(ごめんなさい)
母さん。母さんを想ってブルーになるの


家は寂(さび)れ果て(母さん)
老いたペットたちは(母さん)
サヨナラしたげに(母さん)
してる


もう戻りはしない(母さん)
この愛しい場所に(母さん)
永久(とわ)に眠れる(母さん)
場所に


母さん。母さん、ごめんねー、母さん。(お母さん)
母さん。母さん、ごめんねー、母さん。(淋しいわ)
母さん。母さん、ごめんねー、母さん。(ごめんなさい)
母さん。母さん、ごめんねー、母さん。(ごめんなさいね)
母さん。母さん、ごめんねー、母さん。(ごめんなさい…)


 ちょっと、日本語カバーのタイトルの付け方が雑と思われるかもしれません。まるで、『母さん助けて詐欺』という文句からヒントを得たかのように思われるかもしれません。今回は、それが「当たらずとも遠からず」ということにしておきましょう。
 原曲のタイトルに関して、私が気づいたことを一つ述べておきます。フランス語では、『母の日』を”fete des meres”(注・当記事では、フランス語のアクセント符号を省いて表記させて頂きます。)と言うように、『母』という意味では”mere(メール)”を使います。また、『お母さん』という意味では”maman(ママン)”を使います。それに当たる英語は、”mammy”です。ところで、この曲に出てくる”mamy”という言葉の綴りは、フランス語の辞書を見ても、英語の辞書を見ても、私には見つかりませんでした。
 それはどういうことかと、私は考えてみました。簡潔に説明しますと、”maman”と”mammy”を混ぜこぜにして、”mamy”という綴りになったと考えられるのです。ちなみに、”blue”はフランス語では”bleu”と綴ります。それは、前者の英語の綴りと対抗もしくは対立しているような感じを受けます。これは私の妄想あるいは憶測かもしれませんが、この曲の主人公の女性は、フランスの故郷を捨てて、イギリスなどの異国へ渡って、また戻ってきたため、多少英語かぶれしていたと思いました。従って、”mamy blue”という言葉には、彼女の英語かぶれのさまが表れていると考えられるのです。
 この曲には、「オーマミ(oh mamy)」「オーマミマミ(oh mamy mamy)」という歌詞フレーズが多数出てきます。また、コーラスや、コーラスにかけて歌われる部分にも、このパターンが多く出てきます。日本語の歌詞フレーズでは、そのままでもいいのかもしれません。音楽的なリズムをこうした文句の繰り返しで表現するのは、間違いではありません。しかし、私はあえて、物語風に、つまり、シャンソンや演歌風にそれらの歌詞を語ってみようと考えました。そこで、以下のような日本語歌詞にしてみました。
「オーマミ(oh mamy)」は、「母(かあ)さん」に、
「オマミマミ(oh mamy mamy)」は、「お母さん」に、
「ウエチュマミ(ou es-tu mamy)」(「母さん、あなたはどこに居るの」の意味)は、「淋しいわ」に、
「マミマミマミ(mamy mamy mamy)」は、「ごめんなさい」に、
「オマミマミマミ(oh mamy mamy mamy)」は、「ごめんなさいね」に、それぞれ変えてみました。
 また、「オーマミ。オーマミマミ、ブルー、オマミ―ブルー。(oh mamy oh mamy mamy blue oh mamy blue)」の歌詞フレーズは、「母さん。母さんを想ってブルーになるの」に、あるいは、「母さん。母さん、ごめんねー、母さん。」に変えてみました。音楽的な繰り返しのリズム感よりも、シャンソン風の物語性をやや重視してみました。
 最後に、簡単ですが「母さんを想ってブルーになる」という文句の意味を説明しておきます。英語では、”be in the blues”や”have the blues”で「気がめいる」「気がふさぐ」「憂鬱(ゆううつ)になる」という意味になります。”be blue in the face”で「(激怒、緊張、疲労などのために)口もきけなくなるほどへとへとになる」という意味を表します。この曲の主人公は、そうした英語圏の慣習や文化に少なからず染まっていたと考えられる、というわけです。
 日本語でも、「顔が青くなる」とか「気持ちがブルーになる」とか言うと思います。辛いことや悲しみを体験して、憂鬱になるという気持ちを表現していると思います。生まれ故郷に戻ったものの、一度捨てた故郷には、会いたかった『お母さん』は居なかった、というこの曲の主旨が理解できると思います。
 ちなみに、ポップトップスというグループが歌唱していた『マミーブルー』の歌詞は、このフランス語の歌詞とは、そのような曲の主旨は同じようでしたが、英語で表現された具体的な内容がかなり違います。その背景となる慣習や文化の違いも感じられます。今回の私のブログ記事では、そこまでは触れませんが、興味のある人は調べてみるとよいと思います。その曲の、欧米でヒットした理由がわかるかもしれません。