新・カラオケ宴会芸

 今日は日帰りで、上山田温泉の某ホテルの宴会場へ行って、地元の直売所の去年の反省会と、今年の総会と懇親会を一緒にやりました。上山田は上田から坂城を通って簡単に行けるので、上山田のホテルから送迎バスを呼ぶことができました。しかも、直売所の副委員長のSさんは、そのホテルの支配人のSさんと親戚同士でしたので、そのつながりでそのホテルの宴会場を貸し切ることができたそうです。その送迎バスは、そのホテル支配人のSさんじきじきの運転によるものでした。
 長野県の上山田というと、どんなイメージがあるでしょうか。長野県外からのお客さんにとって、これほど誤解のある場所は無いと思います。古くからの日本の温泉街の一つとして有名なのですが、その歴史以上にひどい風評があったような気がしてなりません。だいぶ昔の話ですが、この温泉街の芸者さんに気安く声をかけるお客さんが多かったそうです。その芸者さんにお金をあげれば、何でも自由になると思いこんでいる男性観光客が今でもいるようなウワサを聞きます。まったく根も葉もないことです。そんなウワサが、この土地の品格を落としてしまったようです。
 実際に行ってみるとわかりますが、ホテルや旅館は外見だけでなく、建物の中味にある物も立派です。私が今日、直売所一行22人の一人として通された、宴会場とその控え室はどちらも綺麗で立派で、そのおのおのが高い天井と広い畳の間(それぞれが200畳くらい)になっていました。しかも、一階にある温泉浴場も綺麗で広々としていました。地元からそれほど離れていない場所に、こんなにすごい場所があることを私は知りませんでした。
 実は、一昨年に亡くなった私の母のすぐ上のお姉さんはこの上山田のW家に嫁ぎました。私は、その上山田の親戚の家に行ったことがあります。親戚の伯父さんに、やはりホテル経営者の知り合いがいらして、その(それほど大きくはない)ホテルの最上階にある展望風呂の温泉に入れていただいたことがありました。
 さらに言いますと、その昔、私の祖父はこの戸倉・上山田でタクシーの運転手をやっていました。私の祖母は、同じく上山田の旅館で女中をやっていました。野尻湖のほとりで生まれ育った祖父は、善光寺さんの山門の近くで生まれて育った祖母と、この上山田で知り合って、東京の浅草へ出てきました。私の父はその浅草で生まれたそうですが、なぜか本籍地は長野県になっていました。それを直す前に、私の父は今から十二年ほど前に亡くなってしまいました。
 まるで私の実家のルーツを話してしまったかのようですが、要するに、上山田温泉は決して日本全国の男性観光客が考えているような、いかがわしい土地ではありません。ちょっと寂れてしまってはいるものの、ちゃんとした歴史のある温泉街の一つです。(今年の2月にだって、上山田文化会館で岩崎宏美さんの歌謡ショーが開かれたほどです。)
 それはさておき、午前の10時半から(ものすごく広い)控え室で、去年の直売所の売上げとその反省会から始まって総会を行い、その後に温泉に入りました。12時になると宴会場へみんなが移動して、懇親会での会食になりました。午後3時半に帰りの送迎バスに乗るまで、宴会場でカラオケをしたり、控え室で休憩したりしていました。この直売所の人たちはカラオケが好きな人が多くて、カラオケの機械に予約が次々と入っていました。私も、いくつか入れたのですが、今回はその中から宴会芸としてうまくいった例を述べておこうと思います。(私も人間ですから、失敗することだってあります。その失敗例はあまり面白くないので、今回は敢えて記さないことにします。)
 何人か歌った後に、私も機械に歌の予約を番号で入れました。それは今までカラオケで歌ったことのない2曲でした。まず、『ハナミズキ』です。この直売所の宴会では、デュエット歌謡や演歌が歌われることが多くて、どうしても男と女のドロドロした関係の歌が多くなってしまいがちでした。それで、私は人間関係のさっぱりした感じのこの『ハナミズキ』を歌ってみたくなったのです。すると意外にも、この曲がカラオケに向いていることがわかりました。
 私の場合は、この歌全体をなるべく平坦にのんびり落ち着いた感じで歌いました。ただし、終わりの方の「きみーと好きーなひーとが」という所だけ、早回し的に早口で歌うのです。すると、そこで曲全体のリズムが引き締まって思わぬ効果を発揮しました。私の席の近くのオジサンなどはそのカラオケを聞き終わった後で、きれいな曲だね、と言っていました。私としては、この歌の内容がどうのこうのと言う前に、それよりもカラオケを聞いた側が少しでも気分転換できればと思って、この曲を歌ってみました。
 そして、他の人が何人か歌った後で、次の一曲を入れてみました。それはアニメソングの『タイガーマスク』でした。私はアニメソングをカラオケで歌ったことはほとんどありませんでした。アニメではありませんでしたが、『月光仮面は誰でしょう』をずっと昔のサラリーマン時代に歌ったきりでした。ところで最近私は、インターネットのYouTubeで昔のアニメの歌を懐かしがって見ることが多くなりました。それで、今聴いても歌っても面白いと思うものに注目しています。
 この『タイガーマスク』はテレビアニメ『タイガーマスク』のオープニングテーマ曲です。それは、主人公のタイガーマスク伊達直人)の光(もしくは、スポットライト)のあたった部分を歌で表現しています。例えば、「ルール無用の悪党に正義のパンチをぶちかませ」とか「フェア・プレーで切り抜けて男の根性見せてやれ」というふうに、アニメドラマ本編よりも前向きな意味の歌詞が並びます。それに対して、エンディングテーマ曲の『みなしごのバラード』では、この主人公の影になっていた部分が歌で表現されています。例えば、「強ければ、それでいいんだ。力さえ、あればいいんだ。ひねくれて星をにらんだぼくなのさ。」という歌詞のとおりに、孤児(みなしご)のいじけた思いが悲哀感の漂う曲と共に流れます。このようにオープニングとエンディングで、主人公の内面の光と影の部分をそれぞれが分担して表しているのが、『タイガーマスク』というアニメの特徴の一つでもあったわけです。
 私は、もちろん主人公のタイガーマスク伊達直人)の光のあたった部分を歌ったわけです。私が歌った後で、何人かのオジサンに言われたことは、「黒ちゃん、歌がうまいね。」とか「(俺だったら)『タイガーマスク』は歌えないだろうなあ。」といった意見でした。
 『タイガーマスク』を歌って「歌がうまいね。」と言われるのもどうかと思います。けれども、「白いマットのジャングルに」という歌詞の『ジャングル』という言葉に特に力を入れて、はっきりとした言葉で歌ってみると良いことは確かです。全体の歌声は、スポーツマンらしくスカッとして、スッキリとしてフェアな感じだと格好よさが出ると思います。タイガーマスクの、正義の味方で強く明るいイメージが、歌を聴く側の気持ちを引っ張ってくれたようです。