私の本業 他県の直売所・道の駅を視察する

 最近私は、3年ぶりに地元のJAきゅうり部会の研修視察に参加しました。日ごろ、県外に行く機会の少ない私にとって、また、地元のきゅうり生産者にとって、こうした研修視察は必要です。昔の会社の感覚で言えば、慰安旅行のように思われがちですが、そうではありません。
 たとえば、私が30代後半に勤めていた会社では、日帰りの社員旅行と称して、群馬県立自然博物館と浅間山火山博物館と東海大水族館を回りました。これらの博物館・水族館は、いずれも私の勤めていた会社の営業担当が仕事を受けたことのあるお客さんでした。ついでに浜岡原発まで行って、当時あったドーム状の巨大スクリーンで短編映画を見てきました。一緒に行った社員同士で、これらの展示や設備を見るたびに、ああだこうだと言いながら評価や意見を交わしていました。
 このように、いわゆる社員の慰安旅行と言うよりは、本業に関連した研修や視察、および、本業の反省会になることが、近年私の場合は多いようです。そう言えば、3年前にきゅうり部会の研修視察の時は、三重県の伊勢方面に行きました。お年寄りが多いため、伊勢神宮にお参りに行きましたが、伊賀の山の中にある種苗会社の工場を視察することが主目的でした。きゅうり部会では、きゅうりの栽培に使う種や苗をその工場から毎年配送してもらっている関係で、そこを見に行って知識を深めようという話になったそうです。
 今回の研修視察もまた、きゅうり部会の地区役員を中心とした少人数で、旅行会社の添乗員や運転手は使わず、信州うえだJA支部の農業指導員がマイクロバスを借りて運転手になって、総勢10人で出発しました。今回は、福井県あわら温泉街に行って、(お年寄りが多いので)永平寺にお参りして、当地の農産物直売所・道の駅を視察して来ました。
 福井県と言うと、長野県からかなり遠い所です。が、高速道路を使うと、信越道で新潟県日本海沿いに今は楽に出られます。そして、北陸道を使って、日本海の向こうに能登半島を見ながら富山県を通過して、石川県金沢を通って福井県に入れます。私は、マイクロバスで行って交通事故にあったらどうしようと、少々不安をおぼえましたが、そこは運転手を務める農業指導員を信用しました。神経をピリピリさせている彼に負担や迷惑をかけないように行動しようと私は思いました。
 ところで、JA花咲ふくいファーマーズマーケットきららの丘(少々長い名前の直売所ですが)に到着したときには、これが直売所か?と、わが目を疑いました。まず、その外観に驚きました。半円形の弧を描いた部分を下にした赤い屋根に無数の黒い箱状のものが付いていて、最初これが何なのかわかりませんでした。駐車場には他に車が無くて、広々としていました。一本道の国道に面しているので、道の駅には違いないのですが、本当にこんな直売所で採算がとれているのかちょっと疑問に思えました。
 直売所の中に入ると、柿やリンゴの詰め放題のコーナーがあったり、大根やイモ類やかぼちゃなどの種類も豊富で棚がいっぱいでした。キャベツや白菜は別コーナーに山積みしてありましたが、驚いたことに裸で売っているのではなく、取っ手の付いているポリ袋に必ず入れてありました。お米の値段もものすごく高く、地元の長野の直売所では絶対売れない値段でした。ここを去る直前になって、一台の大きな観光バスが駐車場に入って来ました。その時「この直売所は、年間△億の売り上げがあるんだよ。」という農業指導員の人の一言を聞いて、どういうことか私はやっとわかりました。
 この直売所の近くを通った時、大きな観光ホテル、および、ビニール・ハウスや露地の畑がマイクロバスの中から見えました。大きな観光ホテルはどこからどこまでが敷地かわかりませんでした。こうした大きなホテルをはじめ、あわら温泉街が近くにあることから、この地が一大観光地であり、永平寺もそうですが、多くの観光客が訪れる地であることは間違いのないことでした。そうした多くのお客さんが、あの直売所に立ち寄って大きな売り上げをもたらすことは当然と言えば当然のことなのです。キャベツや白菜があらかじめポリ袋に入れられていたことも、それで説明がつきます。地元の人が手軽に買うよりも、観光客のお持ち帰りのほうが多いためだという訳です。一本道の国道を通る時、いやでも目につく奇抜な赤い屋根の平屋の建物と、広々とした駐車場を見たらどんな大きな観光バスでも、台数の多い観光バスでも、ここを素通りしてしまうことは無いと思いました。
 それにまた、ところどころに見える畑の土は、海岸が近くにある福井県の土らしく、きめ細かで、砂地っぽく見えました。土が粘土質で硬い私の地元上田とはまったく違います。そう言えば、ここの直売所ではきゅうりは余り売っていないようでした。それよりも、付加価値のずっと高いメロンを4種類も時期をずらして生産していて、直売所で売っているそうです。一本の単価が安いきゅうりよりも、観光客が喜んでまるまる買ってくれるメロンのほうがずっと儲かります。ここの土地の砂地っぽいきめ細かな土は、きゅうりの栽培よりも、メロンやスイカの栽培に向いていると言えます。だから、ここの直売所の赤い屋根は、切って半円形になったスイカなのだと、ここで私は理解しました。(メロンよりもスイカの方が、屋根のデザインとしては解かり易く、作り易かったようです。)
 『年間△億の売り上げ』という言葉の後で「売り方なんだよなあ。」と、マイクロバスの運転手を務める農業指導員の方がつぶやくのを私は聞きました。そうです。どの産業でもそうですが、生産したものが売れなければお金になりません。大量に生産しても、それらができるだけ価値を認められて売れなければお金になりません。観光客向けに見た感じが楽しく(柿やリンゴの詰め放題などのように)期待感を持たせて買わせる、この直売所・道の駅のやり方は、すぐには真似できなくても、今後の何かの参考になるような気がしました。