カラオケ宴会芸を工夫する

 年末の忘年会シーズンになってカラオケで唄うことになるサラリーマンの方も多いと思います。私も、二十代三十代の頃はサラリーマンでした。最低一曲は唄わないといけないことになっていて、いつも分厚い本を渡されて唄えそうな歌の名前を必死にさがしていた記憶があります。
 今年の1月31日付に書いた『私のプロフィール モーツァルトとの意外な関係』を読み返してみました。その記事で、私なりに気づいたことは次のようなことでした。子供の頃は、テレビの映像と共に流れる主題歌を大人しく聴いていましたが、それを大声出して歌うことはあまりありませんでした。もともと私は、学生時代から人前で歌を唄うのが苦手でした。学校の行事などでの校歌はマジメに歌いましたが、クラス対抗の合唱コンクールなどでは、腕は動かすけれども歌うことのない指揮者をやっていました。つまり、サラリーマンになるまでは、声を出して歌うよりも、耳で聞くことのほうが多かったようです。
 社会人になって宴会などの飲み会に行くと、カラオケで唄わされる機会が増えました。今になって思うと、その当初は選曲が下手で、上手く唄えませんでした。それでなくても、周りがガヤガヤして唄うことに集中できなくて、唄っている最中に投げ出してしまったりすることが少なくありませんでした。
 しかし、そうした多くの失敗と、たまに成功して周りから拍手を受ける経験を積むうちに、いろんなことがわかってきました。例えば、ジローズの『戦争を知らない子供たち』を唄うと四十代五十代のおじさん達に受けるとか、海援隊の『贈る言葉』のように明るくさわやかなイントロから始まる曲は聞き手の気を一寸だけひくことができるとか、ということがわかってきました。周りにほとんど知られていない歌よりも、みんなが一度は聴いたことがあるけれど恥ずかしくて唄えないような歌を唄ってあげると効果的だということもわかってきました。
 サラリーマンをやめた今でも、どういうわけか私にはカラオケを唄う機会がなくなりません。年に一度の直売所の反省会の後に続いて宴会があって、お爺さんお婆さんの前で唄わなければならなかったり、JAのきゅうり部会の2次会でたまにカラオケのあるスナックに連れて行ってもらったりすることがあります。ここ最近では、未だに演歌は唄えないものの、そうした宴会にカラオケで参加することが楽しみになりました。
 最近では、参加したJAの視察研修で一泊した温泉街のホテルの宴会で、参加者が十人しかいなかったため、唄う番が3回くらいまわって来ました。しかし、私は慌てませんでした。選曲のパターンをとっさに思いつきました。あまり一人でマイクを握りすぎると飽きられてしまうので三曲くらい選んで、それぞれ他の人の演歌やムード歌謡の合間に入れて唄わせてもらいました。
 私は、一曲目に海援隊の『贈る言葉』をよく唄います。私は、一曲目で声が出ないことが多いので、この曲でだんだん声を出していきます。つまり、発声練習の代わりにしています。(言うまでもないことかもしれませんが、卒業式の先生の気持ちになって唄うことがコツです。)
 そして、二曲目は加山雄三さんの『きみといつまでも』を今回は唄いました。普段は余りこの歌を唄わないのですが、今回の視察研修参加者に演歌やムード歌謡ばかり唄うおじさんが多かったので、彼らが聴いたことはあるものの恥ずかしくて唄えない歌の一つとして敢えてこれを選びました。
 私は小さい子供の頃、父の持ち物のレコードやソノシートをレコード・プレーヤーにのせて、こっそり聴いたものでした。その一枚が加山雄三さんの『君といつまでも』の赤いソノシートでした。(B面は『お嫁においで』でした。)子供の頃に聴いた音楽というのはなかなか忘れないものです。おかげで落ち着いて楽に唄えました。この『君といつまでも』は、間奏に「幸せだなあ」という言葉で始まるセリフがあります。昔は、側に女性を立たせてそのセリフを言うのが流行ったらしいのですが、私の場合は加山雄三さんのように一人芝居風にセリフを言ってみました。間奏にセリフが入る曲は、芝居をすると盛り上がります。奥さんや子供がいる人がこれをやると少しイヤらしくなりますが、独身の私がやると実年齢はともかく誤魔化して、この曲が盛り上がります。海や海辺が舞台になっている歌なので、波のように高低のあるメロディーをさわやかに落ち着いて唄うのがコツです。若大将のように、と言っても、若い人にはわからないかもしれません。若手俳優三浦春馬さん風にさわやかな感じで唄うといいかもしれません。
 最後に三曲目は松山千春さんの『長い夜』を歌う場合が私は多いです。先に二曲くらい唄っているので、ちょうど声もよく出るようになってきたところで、「こ〜い〜にぃ〜、ゆ〜れ〜るぅ〜」とちょっとオーバーに伸ばしながら唄い出します。このパターンを崩さずに唄い続けます。そして、この歌のサビにくると、ものすごく声が伸びるところがあります。ずっと声を大きくして伸ばしていくので、オーバーなモノマネ宴会芸になってしまうところがミソなのです。そうやって聴く人に楽しんでもらえれば、宴会が盛り上がっていいと私は考えています。
 そんなわけで、私のカラオケは宴会芸の一種になりつつあります。いろいろと実験することを怠らず、前回の直売所の主催する宴会では、小林明子さんの『恋におちて』を唄ってみました。英語の歌詞があったので、受けるかどうか半信半疑でしたが、「アムジャストゥアウーマ〜ン。フォ〜リ〜ンラ〜ブ。(I'm just a woman...fall in love.)」と唄い終わってみると、女性(と言っても、六十代七十代のお婆さん方)から拍手がなぜか大きく湧き上がりました。独身の私は、(お爺さん方に悪いと思ったので、ここではハッキリ申しませんが)その理由がちょっとだけわかったような気がしました。今後もあまり過激にならない程度で、宴会芸としてのカラオケを工夫しようと思いました。