七色の声のCDアルバム

 「七色の声」と言うと、ネット上ではいろんな定義がありますが、今回はその一つに絞って書いてみようと思います。かつて私は、美空ひばりさんが七色の声を持つと言われていたことを誰かから聞いたことがありました。美空ひばりさんは七色の声の持ち主だったという話です。その「七色の声」と言うのは、七種類の声という意味ではなくて、唄う曲の雰囲気に合わせて、多様な歌声を駆使できる才能のことを言うのだそうです。
 ところで、先日のこと、東京の実家へ戻った私は、TOKYO NO.1 SOUL SETの『ヤード』のマキシシングルを部屋の中で探していました。(この曲のCDを買った経緯については、またの機会に書いてみたいと思います。)その折に、本田美奈子さんの『Junction』というCDアルバムを見つけてしまいました。理由は後で述べますが、私はそのCDアルバムを、今となっては目にしたくありませんでした。また、そこに収録されている曲も、今は耳にしたくないという気持ちでした。それをたまたま目にしてしまったことを、ばつが悪く思いました。
 そう言えば、私は岡田有希子さんのLPレコードも持っています。実家の押入れの中のレコードケースにしまって、いまだに捨てられずにいます。私の思い込みにすぎないのですが、粗末にして捨てたりしたら祟(たた)られるんじゃないかとなどと考えてしまうからです。私が本田美奈子さんのそのCDアルバムをCDショップで見つけて買ったのは、2002年の頃ぐらいでしたが、そのうち本人が白血病で亡くなられてからは、本棚の奥に隠していました。というのも、そのCDアルバムのジャケットや、歌詞のブックレットには、本人の顔や上半身の写真がめいっぱい載せられていたからです。それを目にするのが縁起悪いなどと言っては、亡くなられた本人や熱烈なファンの方々に申し訳ありません。けれども、私はそれほどのファンではなかったのでそこは勘弁いただきたいと思います。
 それではなぜ、私がそのCDアルバムを買って持っていたのか、という話を致しましょう。あの頃、私はCDショップでアニメのシングルCDを探していました。その時に、アニメ『HANTER×HANTER』の当時の主題歌を本田美奈子さんが歌われているのを偶然私は知りました。その頃の私が知っていた情報では、本田美奈子さんはミュージカルに転向して、その発声法を一から学び直されたと聞いていました。事実、そのアニメ『HANTER×HANTER』の主題歌のシングルCDを買って聴いてみたところ、アイドル時代の頃とは似ても似つかない唄い方でした。それがきっかけで、そのCDショップで一枚だけあった本田美奈子さんのその『Junction』というCDアルバムを買ってみたのでした。
 そのCDアルバムは、本当は1994年に発売されたものでした。ミュージカル仕立ての曲が中心でしたが、シャンソンあり、演歌あり、歌謡曲あり、ポップスありで、いろんなジャンルの唄い方に挑戦していたCDアルバムだったと言えます。私は、アイドル歌手として当時の歌番組などで「マリーリ〜ン。」などと唄っていた本田美奈子さんはテレビで見たことはありました。でも、ファンになるほど好きではありませんでした。実は、私がそのCDアルバムを買ったのは、それが本田美奈子さんのCDだから買ったのではありません。そこに収録されている曲が、あたかも「七色の声の持ち主」を目指しているかのような一人の歌手によって唄われていたことに、大いに興味をそそられたからなのです。
 私は、そのCDアルバムの中で『つばさ』という曲が一番好きでした。歌詞の意味もメロディーもよくわからず、私自身が歌うことさえできませんでした。けれど、その歌声をそのCDで聴くことだけが楽しみでした。特に、声を長く伸ばすパートが何十秒間であるかを時計の秒針で実際に計ったことがあったくらい、その歌声に関心がありました。そんなに声の伸ばす時間が長いと、年老いて声が出なくなったらその時はどうするんだろう、などと余計な憶測をしたことがありました。(なお、そのCDアルバムでは、岩谷時子さんが作詞および訳詞された曲が多く収録されていました。)