『天使』の日本語カバーに挑戦する

 私がフェイ・ウォンFaye Wong 王菲)さんのCDアルバムを買ったのは、今から二十年くらい前だったと思います。当時私は、中国語を学ぶことを趣味の一つとしていて、 香港の女性歌手(または、『恋する惑星』という香港映画の女優)としてフェイ・ウォンさんの名前を知ったのだと思います。実は彼女は、中国の北京出身でした。
 そのCDアルバムは、歌詞が手書きの漢字で書かれていて、簡体字ではないものの、字の並べ方が曲がっていたりして、親しみやすい感じがしました。ちょっとくらい字がくずれていても、それが漢字として読めるということ、そして、楽しく書いたほうが文字として面白いことに気づかされました。
 ちょっと話がそれてしまいましたが、そのCDアルバムから、面白そうな曲を一つ選んで、日本語カバーしてみようと私は考えました。逐語訳をして、曲の歌詞の意味を細かく正確に知ることは当然必要です。しかし、それでは、中国語で歌われる言葉の流れのスピードに、その理解がついていけません。それは、私が日本人だから仕方のないことなのかもしれません。漢字が並べられた歌詞を見ると、何となく断片的に意味がわかるのですが、曲全体の意味がぼやけてしまっているのも事実です。そこで、その大まかな意味を少しでも明らかにしようと、今回の日本語カバーに挑戦してみたというわけです。
 その曲のタイトルは『天使』です。前奏や伴奏が軽やかで特徴があります。歌詞の内容も、言い回しと語句の繰り返しがあって、面白そうです。音韻も多彩で、音楽的にも面白そうです。それでは、私の挑戦の結果を示してみましょう。



    『天使のような心』


心が目覚めたらば 心が軽くなれば
雲と霧を 突き抜けて
熱い想い 伝えたいのよ


(*)
私からの気持ち 飛んでゆくわ あなたのもとへ
あなた命(いのち) 当り前よ 心(こころ)受け止めて
いつまでも慕われたいの
いつまでもあなたを愛していたいから…


少しも勇気無いけど ちょっとだけ約束して
胸のうちは 見抜いてる
本当の気持ち そらさないでよ


(* くりかえし)
(ラララ…)



 「天使のような自由な心になって、あなたと愛し合いましょう(仲良くなりましょう)」というのが、この曲の一番言いたいことだと思いました。そこで、その日本語カバー曲のタイトルを『天使のような心』にしてみたわけです。そこで、日本語に訳した歌詞も、(どれだけ伝わるかわかりませんが)ふわっとした感じにしてみました。
 一方、オリジナルの中国語の歌詞は、語句や言い回しの繰り返しなどで上手く工夫されていると思います。しかも、その歌唱を聴いてみると、音韻(主に脚韻)までもそれに組み合わせていることがわかります。
 私の乏しい中国語の知識でも、こんなことを学んでいます。例えば「娘」(ニャンと読みます。)よりも、「娘娘」(ニャンニャンと読みます。)と同じ語句を二つ続けた方が、言葉の調子が弱まって、つまり、柔らかく軽い調子になるのだそうです。そのような語句の繰り返しが、このオリジナルの中国語の歌詞では、サビの部分で効果的に使われています。
 このように、オリジナルの中国語の歌詞は、ちょっと字面(じづら)を見ると軽い内容の歌詞に見られがちですが、中国人の作詞家が物凄く知恵を絞って言葉を選んでいることがわかると思います。それに比べると、私の日本語カバーの歌詞は、文字通り軽く作った感じがすると思います。私としては、やっぱりオリジナルは凄いということを、オリジナルを尊重し、それを作った作詞家さんに敬意を払わなくてはいけない、ということをここで改めて述べておかなくてはいけない、と思うわけです。