私が聴いていた、もう一つの『花嫁』

 以前の記事で私は『瀬戸の花嫁』について書きました。今から40年前の1972年の頃にヒットした曲の一つでした。その前年(1971年)にヒットした歌謡曲の一つに、はしだのりひことクライマックスの『花嫁』という曲(フォークソング)がありました。

  花嫁は 夜汽車に乗って 嫁いでゆくの
  あの人の写真を胸に 海辺の町へ

という唄いだしでした。この唄が時々思い出されるのは、なぜなのかを書いてみたくなったのです。
 五十代になった私は、別に『花嫁』という言葉に固執しているわけではありません。なぜかこの唄を聴いたり、自分で唄ってみたりすると、夜汽車(と言っても、普通の電車であって、蒸気機関車ではありません。)が暗い夜空の下を走っていく情景が私の心に浮かびます。ゴダイゴの『銀河鉄道999』を聴いて、夜汽車のイメージを浮かべる人もいるでしょう。それは人によって違うかもしれません。私にとっては、この『花嫁』というフォークソングが、夜汽車の走るイメージと切り離せないのです。
 声がやや太く、やや低い女性のボーカルと、そして、「命かけて燃えた…」とサビを唄うはしだのりひこさんのやや高い声の男性ボーカルが特徴的なこの曲は、当時のフォークソングの中でも『革新的』な部類に入っていたと思います。この曲の歌詞と音楽は、多少の哀愁を含みながらも、実は未来への希望に満ちていました。それを鑑賞した人たちの気持ちはいつもワクワクしたことでしょう。この曲がそうした情景やイメージを持っていたことにおいては、『瀬戸の花嫁』との共通点が見い出されると思います。
 この唄の歌詞にもあるように「何もかも捨てた花嫁」が「夜汽車に乗って」いく様は、やや声の太い女性ボーカルの力強さとシンクロして、叙情的であると同時に意志の強さを表現していて、この曲を私に聴きたくさせているのです。