ドキドキをどう伝えるか

 (現在なかなか本業のほうが忙しくて、優先順位が下がってしまいましたが、英語バージョンの歌詞のほうは、既におおかた出来上がっていました。それをここに書いてみたいと思うのはやまやまだったのですが、多忙で手が空かない状況がかなり続いてしまいました。
 現在日本の社会状勢を肌で感じてみるに、会社に雇われる側も、会社を経営する側もある意味で岐路に立っているように思われます。仕事をめぐる様々な要因から「こんな大事な時に農業なんてやってられるか。もっと効率的で、お金をもらえる、やるべき仕事が今あるじゃないか。それを今、手放してなるものか。」と皆が考えるのも、円安傾向などの今の日本のご時世では、至極当たる前のことと言えます。そのあおりを昨今の私の仕事では、もろに受けてしまいました。
 確かに、寒暖の差が猫の目のように変化する今日この頃、そして、強風を伴う『嵐』が周期的に吹き荒れる今日この頃としては、私の本業は、人間界からだけでなく自然界からも逆風を受け続け、やりにくさを増しています。でも、そうした悪条件が重なって『かたぎ』としてそれに全精力を奪われていたとしても、それから逃げずに、何らかの取り柄とか生きがいとか、どこかに良い点を私自身が見い出して努力することこそが『人の道』であると、そのように私は心得ております。
 前置きが長くなりましたが、寒の戻りで降った雪が道を塞いでくれたおかげで、本業を一時中断する時間ができました。そう言えば、私の軽トラは、冬用のスタッドレス・タイヤを4月下旬に入ってもまだノーマル・タイヤに替えていません。それは、レタスやキャベツやブロッコリーの苗などの、大量の育苗作業と出荷販売作業が続いて忙しいから、タイヤをはき替えるのはまだいいや、とそれを伸ばし伸ばしにしていたことの結果でした。
 それはさておき、さっそく課題としていたことから始めてゆきましょう。)
 はじめに宿題になっていたことについての、私なりの答えを示してみることにしましょう。「めぐりめぐるよメロディー/とっても 素敵だわ」というフレーズがありますが、英文にどう訳したらよいかという問題でした。"Cheerful melodies will make me high / and put me in a happy state of mind"というのが私の出した答えです。日本語で再度表現するならば、「さわやかなメロディーが、わたしを心地よくしてくれて、楽しく幸せな気分にさせてくれることでしょう。」というような意味のフレーズになります。"cheerful"と"make me high"と"a happy state of mind"という似たような意味の語句を並べて、一つにつなげると、私の出した答えになります。「元気のよい」「陽気な」「愉快な」「楽しい」「心地よい」「幸せな」「うれしい」などの意味と関係のある言葉を複数使って、そうした気分を表現してみました。
 ちなみに、まともな見方をすると、「めぐりめぐるよ」は「血のめぐり」すなわち血液循環のイメージとみることもできると思います。つまり、「メロディーがめぐりめぐる」とは、血液が体を循環することに擬(なぞら)えた比喩とみることができます。ドキドキする胸の鼓動で、血液が体内をめぐるように、メロディーが私自身の心の中をめぐっているという意味だと思います。ただし、今回はそれをまともに英文に訳すのはやめておきます。真面目すぎて面白味の無い表現になってしまうからです。私自身が英語で表現して"the circulation of a melody"とか"the melody circulates through my body"としても、今ひとつピンと来ないような気がしました。(厳しい言い方をするならば)本来の歌詞の持つ、言葉の楽しさが、訳し方のまずさで犠牲になってしまう一例であると考えることができました。
 それはともかくとして、「ドキドキ」(DOKI-DOKI)という日本語の擬音語をどう訳すか、ということが今回の最も大切な点だと思いました。'throb'という言葉やそれらしき擬音語が英語に無いわけではありません。けれども、どうもしっくりと来ません。その原因は、この「ドキドキ」という日本語の言葉自体にあると思いました。心臓の鼓動を表しているだけでなく、「緊張して不安だけれども、ちょっと楽しい」という気分を表しているのだと思いました。いくら頭で考えてみてもよくわからなくて不安だけれども、胸のうちに、こ踊り(dance for joy)しそうなワクワク感がある。それが、この「ドキドキ」という日本語に込められた意味なのです。つまり、この言葉を英語に訳す場合は、単に心臓の鼓動を伝えるだけでなく、その言葉自体が持つリズム感や期待感や緊張感なども一緒に表現しなければいけません。
 具体的に考えてみましょう。私は'beat'という言葉が一番適切だと思いました。マイケル・ジャクソンさんの"Beat It"という歌を思い出します。この"Beat it"という命令形の言葉は、「(急いで)立ち去れ」という意味だそうです。実は、この'beat'という単語は日常英語でよく使われるため意味・用法が広く、「(続けざまに)打つ、たたく」という基本的な意味から派生して、例えば「殴る」「(太鼓やドアなどを合図や伝言のために)たたく」「(競争相手を)打ち負かす」「(心臓が)打つ、鼓動する」「(音楽の)拍、拍子、ビート」などの意味で使われます。従って、'beat'だけではあいまいなので、「心臓の鼓動」は"heart beating"としてみたわけです。そう考えれば、"My heart is beating."という表現が可能になることがわかります。
 そこで、「ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ベイビー!」という歌詞の一部の英訳も、それに沿って考えてみることにしました。それに関しては、いくつかの選択肢がありました。
(1) Beating, beating, beating, beating, baby !
(2) My heart's beating, beating, beating, baby !
(3) My heart's beating ! My heart's beating, baby !
 (1)は何の"beat"かわかりにくいため、また、(3)は(2)と比べて、繰り返しの表現がやや長くて、ゆっくりになり過ぎてしまうため、(2)が一番ふさわしく思えました。ちなみに、その(2)を改めて日本語に訳すとなれば、「私のドキドキが、どうにも止まりません。どうしましょう!」みたいなふうになると思います。
 前回の記事でも問題にした、この曲の前奏の「いやーん」をどう訳すかということに、ここで触れておきます。"Oh, no."(「嫌だ。」)とかでも間違いではないのですが、私はあえて"Too shy!!"としてみました。「あまりに恥ずかしくて...できない!」とか「恥ずかしすぎるぅ…」みたいな感じの意味になります。自ら想像し夢想し妄想した内容が、一人歩きして行き過ぎて心の中で暴走してしまう。それを拒む気持ちが、その「いやーん」という感情表現なのだと思います。何だかよくわからないドキドキ感というモノも、そこから来ていると考えられます。
 そのような乙女チックで妄想的でデリケートな感情を、「大好きよ」という歌い出しで引きずってみると、どうなるでしょうか。"I love you"という英訳では、平べったい感情で当たり前すぎて、そうした屈折感が無いような気がします。つまり、ドキドキ感が生まれて来ないような気がします。そこで、あえて私は"Love me tenderly"としてみました。「そっと優しく愛してね」くらいの意味になると思います。ラブソングの大原則は、愛のやりとり(英語で言うところの"give and take")を表現することにあると思います。「あなたを好きです」と告げる代わりに、ちょっと捻(ひね)って屈折させて「わたしを愛してね」と命令調でかわいく言うほうがシャレている。きっとそのほうが「大好きよ」の英語の意訳にふさわしく、言葉の真意が伝わりやすいのではないかと、私は考えました。実は、この文句は、エルビス・プレスリーさんの"Love Me Tender"という歌のサビをわざと連想させるように使ってみました。パクりや著作権の問題をさしおいて、オリジナルとかコピーとかにこだわらないで、言葉遊びならぬ音楽遊びをしてみたくて、あえてそれを試みてみました。
 この曲に『いいかげんな野郎』みたいな意味の英訳タイトルがついていたことには、それなりの理由があったと思われます。相手を大好きなのに、自らの本当の気持ちはまだわからないと、歌詞の一番では歌われています。それなのに、自らの心の行方を本当はわかっていたと、歌詞の二番では歌われています。論理的に考えると、これは随分といいかげんな話と言えます。
 でも、この曲の主人公の立ち位置を考えてみると、いいかげんでも何でもないことに気づくことでしょう。彼女は、相手にまだ告白していなかったのです。「大好きよ」と歌詞の中で語っていても、相手にまだ「アイラブユー」(I love you)とは言っていませんでした。それを告白するのは、未来のことなのです。「めぐりめぐるよメロディー/とっても 素敵だわ」というフレーズは、あくまでも未来形で想像した、つまり、バラ色の未来を夢見た、彼女の妄想表現と言えます。「ダッシュで、Going! Going!」というフレーズおよびそれに類似したフレーズの表現するものは、彼女の内なる声(もしくは、ささやき)のイケイケ表現と言えます。すなわち、この曲全体は、相手に告白しようとするけど簡単に出来ない、言い換えれば、まさに相手に告白する直前の彼女自身の内面のドキドキ感を歌ったものだと考えられます。
 そこで、私は今回の曲で"tell"という言葉を多く使って、英文歌詞の内容をまとめてみました。この言葉は、「伝える」「告げる」「教える」「言葉に表す」「語る」などの意味があり、"can not tell"で「はっきり言うことができない」「断言できない」と表現できる便利な言葉です。例えば、「今はまだわからないわ」という歌詞を、過去形の英文で表現して、「(過去に)私は、はっきり言うことができなかった」としました。同じように、「今すぐ伝えたい」という歌詞は、"I will tell you"と意志未来形の英文で表現しました。また、「でも、そう、知りたい」の歌詞は意訳して「どう言ったらいいかを(逆に)私に教えてね」("Tell me what I have to say")と、屈折して回りくどく表現してみました。この"tell me"は「(私のわからないことを)人から教えてもらって知る。」という感じの意味で使われています。
 ところで、「重ね続けたい メモリーズ/いつも 笑いながら...」という歌詞もまた、直訳すると意味のわからない英文になってしまいます。「にこやかに笑いながら あなたと付き合っていきたい/あなたとわたしで ずっと微笑みながら いきたいな」みたいな英文に訳してみました。"keep you company"は、「あなたについていく(もしくは、は、付き合う)」という意味です。"with a sweet smile"は「にこやかな笑顔で」の意味で、次の"as"以降の文がそれの少し具体的な説明になっています。
 「ダッシュで…」というフレーズについては、"With dash"にすると歌いにくくなってしまうので、"Dash along with ...ing!"で、原曲の歌詞の持つスピード感を失わないようにしました。この「ダッシュアロン(グ)/ウィズ、ゴーイン(グ)!ゴーイン(グ)!」は、「全力(もしくは、全速力)で進め。迷わず行くんだ。」くらいの意味になります。曲の感じとしては、この短いフレーズの前半部分は滑らかで軽快さがあり、一方、その後半部分はパンチがあって重厚さがあります。それは、短いフレーズの英訳ではありましたが、語順をいじらずにそのままの流れの英文に訳せたので、私としてはちょっと気に入っています。日本語の歌詞の「ダッシュで」が、「ダッシュアロン(グ)」と英語で発音して歌われます。そこが、いかにも音を転がすようにロックっぽく感じられてよろしいと私には思われました。
 「黄金(こがね)色に染まってる/横顔に見とれてた」というフレーズがありましたが、これを英語に直訳すると、変な感じの英文になってしまいます。黄金色というのは「夕日の光線の色」であり、その色に染まるということは、「夕日を浴びて光り輝いている」ということだと思います。ここの「横顔」もまた、訳しにくい言葉です。そこで、私は思い切って「(私たちは)夕日の光の中で輝きながら、(私は)間近であなたに視線を送る私自身に気がついた。」という意味の英文に翻訳してみました。原曲の日本語で表現されていることと、関係や状況は間違っていないと思います。
 こうして英語の歌詞に翻訳してみると、その内容を見直しながら、私は「これって、やっぱり、不良だなあ。」と改めて思うのです。私の年代では、若い頃、夕暮れ時に異性の横顔に見とれているだけで、「不良だ。」と感じてしまうのです。しかしながら、その不良っぽさこそ、ロックンロール・ミュージックには欠かせないムード(もしくは、気分)なのだと思います。
 「虹の向こうへ」とか「永久(とわ)の向こうへ」というフレーズに関しては、それぞれ"Let's go beyond the rainbow"と"Let's go to the ends of the earth"に表現しました。「虹の向こう」という言葉は、虹に向こう側があるような感じですが、「虹を越えて行く」という感じの表現に直しました。同様に「永久の向こう」という言葉も、「地の果て」という表現に言い換えました。
 その「虹の向こう」という表現について、もう少し述べておきましょう。昔、「虹の向こうは晴れなのかしら」と天地真理さんの歌にもありましたが、日本語の詩的表現としては自然と思われるものが、英語に訳す段階になると、妙に引っかかることがあります。"the opposite side of the rainbow"(「虹の向こう側」「虹の反対側」)というものは、本当に存在するのでしょうか。『虹のかかった場所の反対側』というものは、反地球とか反空間とかがあると仮定しないかぎり、実際には存在し得ないと考えられます。天地真理さんのその歌では「あの虹のかかった場所よりも、見かけ上、遠くにある、あなたの住んでいる町は晴れているのかしら。」という意味のことが表現されていたのです。つまり、「虹の向こうへ」という言葉の表す意味とは、「空にかかった虹の、見かけ上、さらに遠くへ」という意味のことなのだと思いました。
 ついでに、「風をきって 行こう」とか「羽ひろげ 行こう」というフレーズに関しても触れておきます。前者は"go flying along"で「風を切って進んで行く」の意味になります。通常はバイクなどに乗ってという語句が後につきますが、この曲ではそうした具体的な説明がありません。従って、これも、この曲の主人公の頭の中のイメージなのだなあ、と私は思いました。また、後者の「羽ひろげ」は、もし翼があったならば大空に羽をひろげて、すなわち、思いっきり(思い切って)全力で飛んでいく("fly all we want")、という意味に、私は解釈しました。要するに、「全力(もしくは全速力)で飛ぶように(つまり、風を切って)前に進んでゆく。大空に羽を広げるように思いっきり(思い切って)あの虹を越える、地の果ての遠くまで飛んでいってしまおう。」みたいなイメージを、そうした歌詞全体で表現しているのだと私は思いました。「さあ今、銀河の向こう飛んで行け!」という、上条恒彦と六文銭の『旅立ちの歌』の歌詞の一節を思い出してしまいそうな内容です。でも、ロック調のパンチの強さでは、『ドキドキベイビー』は負けていないと私は思っています。
 以上長々と、和文英訳上のいくつかの問題を先に説明しました。それに対する私なりの解決策も、同時に述べたつもりです。この『ドキドキベイビー』という曲は、翻訳作業にとりかかる前は、それが困難な曲に思われましたが、英語バージョンが出来てみると、(失礼ながら)それほどでもなかったようにも思われました。実際は翻訳不可能なくらい困難だったはずなのですが、そうしたことは前人未踏(ぜんじんみとう)な試みをする場合は常に付きまとうことなのかもしれません。それをやったからと言って何のトクにも自慢にもならないし、それに対してお金をもらう目的もありません。
 しかし、私にはどうしてもわからないことがありました。この曲のMVをYouTube動画サイトで見てからずっと気になっていたのですが、その動画の再生視聴回数が意外にも多いということでした。この曲のMVには、何か多くの人を惹(ひ)きつけるものがあって、それがわかるようでわからない、それが何なのか探ってみたい、という野望みたいなものが私にはありました。つまり、それが私にとっては、一種のドキドキ感であったわけです。
 従って、こんなふうにも考えられると思いました。この曲は、相手に告白寸前の主人公のドキドキ感を表現して伝えているけれど、そのドキドキ感って、実際の世界で起こる様々なドキドキ感と共通しているのかもしれない。そんな理屈をちょっとだけ私は考えていました。
 説明は以上です。いろいろと述べさせていただきました。最後に、私の作った『ドキドキベイビー』の英語カバーを書いておきます。



        "Heart Beating Baby"


(Oh , yeah !! Yoo-hoo !! Too shy !! )


(*)
Love me tenderly ...
Love me tenderly ...
I will tell you how much I love you
Shala lalala lanlan lalala...
I will tell you to feel my heart beating
My heart's beating, beating, beating, baby !
My heart's beating, beating, beating, baby !
(Beating , beating !! (x3) )


I've found a good place under the blue sky
On this hill a good chance has come to you and me
I couldn't tell you how I was thinking of you
whether or not I loved you
Tell me what I have to say
I wonder ... I'm going to fall in love ...
Baby !


(**)
Ah ! Let's go beyond the rainbow
(Dash along with going, going ! )
We will be flying along far away
(Dash along with flying, flying ! )



Cheerful melodies will make me high
and put me in a happy state of mind



(* repeat)


We're shining in the rays of the setting sun
I've found myself looking at you close at hand
I couldn't tell you , but in reality
I have already understood
I knew what's happened to us
I believed ... I'd fall in love with you ...
Baby !


(***)
Ah ! Let's go to the ends of the earth
(Dash along with going, going ! )
We will be flying all we want
(Dash along with flying, flying ! )


I'll keep you company with a sweet smile
as we'll be smiling all the time ...


(Hey ! Hey ! Hey ! Hey ! (x3) )
(Hey ! Hey ! Hey, hey, hey, hey ...)
(What do you mean ?)


CHU CHU CHU ... Heart shapes may be floating away
PIP PIP PIP ... You may get excited at my soft touch
NON NON NON .... My big tears may confuse you
Never give up !!
It's just fine !!
Let's dance for joy !!
Baby !
(One ! Two ! Three ! Four ! )


(** repeat)
(*** repeat)


Cheerful melodies will make me high
and put me in a happy state of mind


Love me tenderly ...
Love me tenderly ...
I will tell you as long as I can
Shala lalala lanlan lalala...
My love must be an endless melody
My heart's beating, beating, beating, baby !
My heart's beating, beating, beating, baby !
(Beating !)