『なごり雪』の英語カバーに挑戦!

 最近ネットでYouTubeを見ていたら、この『なごり雪』の英語翻訳や英語カバーをいくつか見つけました。この日本のフォークソングは、英語に翻訳するにはかなり難解です。しかしながら、ネットでそれらの英訳を見たり読んだりしてみると、かなりの高いレベルまで翻訳されていることに、私は感心してしまいました。それでは、私もやってみようと思い、今回挑戦してみることにしました。



   "The Last Snow and Sorrow of Parting"



I was doing noting but concern for my wrist watch ,
while you were waiting for a train
It's snowing out of season
You were by the side of me
"For the last time I can probably see the snow
falling in Tokyo."
You said so in a murmur
while you looked sad and lonely


I found the last snow falling with my sorrow of paritng
You don't know of my true heart !
Our season is over !


(*)
I find spring has come
I can see
You look far more beautiful


Compared with last year
I see
You look far more beautiful



As soon as the train was set in motion , you put your face
on the glass window of the train
Then I saw that you were about to say something to me
At that moment I was scared that I saw your lips' motion
said good-bye silently
So that with my downcast eyes
I followed you


I was unaware
that you would grow up after all
And I always thought of you
as a child , as you used to be !


(* Repeat)


You left me and for a while
I was standing like a fool
I saw how the snow falling down
and then melting on the ground


(* Repeat)


Compared with last year
I see
You look far more beautiful


More and more painful
I feel
You look like a grown-up ...



 ご存知のとおり、この曲は、伊勢正三さんの作詞・作曲によるものです。私は特に意識してはいなかったのですが、10代20代の若い頃に、伊勢正三さんの作った曲をよく聴いていました。『22才の別れ』とか『海岸通(かいがんどおり)』とか『君と歩いた青春』とかを聴いていました。どれも、若い男女の別れを歌っており、男か女かのどちらかの心情が曲に描かれていました。この『なごり雪』も、そうでした。私は、イルカさんの歌唱でこの曲を聴きました。
 さて、この曲の英訳タイトルですが、"The Last Snow"とか"Lingering Snow"('linger'とは、「(去りかねて)ぐずぐずする」「居残る」という意味があります。)とかの例がありますが、私はあえて説明的な長い英文タイトルにしてみました。というのは、何を名残(なご)り惜しんでいるのかということが、英語に訳すとわかりにくくなってしまうからです。『落ちては融ける雪』を名残り惜しんでいるだけならば、松尾芭蕉の俳句の世界とそれほど変わりません。そこには、親しかった異性との別れの気持ちや悲しみがあって、そのはかなさや切なさがそうした雪のイメージと重なり合っていたわけです。その惜別の気持ちを"Sollow of Parting"という語句で英訳タイトルに付加してみました。
 しかも、原曲の日本語歌詞を読んでいただくとわかりますが、これは単なる惜別の気持ちではありません。その思いを相手に伝えたくても伝えられない少年の内なる気持ちが、その歌詞の文言に表現されているのです。例えば、「汽車を待つ君の横で僕は時計を気にしてる」とか「君の唇がさようならと動くことが怖くて下を向いてた」という表現に、それは端的に示されています。「君が去ったホームに残り、落ちては融ける雪を見ていた」などという表現も、何か心残りのようなものを抱えている少年の気持ちが感じられます。
 少しだけ、英語の表現を説明しておきましょう。"be doing nothing but concern for ..."で、「〜を気にしてばかりいる。」という意味になります。"out of season"は『季節外れ』の意味ですが、"Our season is over !"となると「僕らの季節(つまり、僕らがつきあっていた時節や時期)あるいは最盛期は終わった!」というような意味になります。
 "As soon as the train was set in motion , you put your face on the glass window of the train"は、「汽車が動き出すや否や、君は汽車の窓ガラスに顔をつけた。」というような意味です。"I was scared that I saw your lips' motion said good-bye silently"は、「君の唇の動きが無音でさようならを示しているのを知るのが怖かった。」くらいの意味です。"with my downcast eyes I followed you"は、「下を向いて(つまり、伏し目がちになって)君を見送っていた。」という感じです。
 "I was unaware that you would grow up after all"は、「結局のところ君はやはり大人になるのだと、私は意識していなかった。」という意味になります。また、"I always thought of you as a child , as you used to be !"は、「君を幼いと、そうだったと(あるいは、そうだったから)、いつも(そう)思っていた。」というような意味になります。
 "You left me and for a while I was standing like a fool"は、「君が立ち去って、しばらくは、私はぼんやりと立っていた。」という意味です。 また、"I saw how the snow falling down and then melting on the ground"は、「雪が落ちて、地面で融ける様子を私は見ていた。」という意味になります。
 そして、今回の英訳の最後のフレーズについては、「君が大人に見えて、僕の心はますます傷ついてしまう。」というかなり飛躍した意訳を試みました。私たち日本人がこの曲を聴いている場合は、「去年よりずっときれいになった」という歌詞フレーズの繰り返しに、その一つ一つが微妙にニュアンスを違えていることがわかります。その歌詞フレーズの言葉の裏に隠された本音があることを、推し量って私たち日本人はこの曲を聴いているのです。
 しかし、そこを英語で表現してみると、何となく伝えたいことがモヤモヤしていることに気がつきます。「相手の女性がきれいになって、どうして切ないの?」「そのきれいになった女性と別れなければならなかったからなの?」などの疑問がわいてくるからなのだと思います。
 日本人としての私の考えでは、「その女性が少年から現実的にも精神的にも離れていってしまうことに、少年は淋しさを感じている。」ということが、曲中で何度も繰り返される「きれいになった」という表現に含まれていると考えられるのです。その淋しさのために少年は、『君』に思いを伝えられず、別れ際に、時計を気にしたり、面と向かえずに下を向いてしまうのです。そこで、私は、その繰り返しの文言を最後の歌詞フレーズで言い換えて、英語で表現しよう試みました。
 J−POPの曲における、いわゆる『サビのジャンプ台』と呼ばれる部分(私は、文末に意識的に”!”マークを付けておきました。その箇所のあたりが、ほぼその部分にあたります。)においても、少し意訳気味に、本音っぽく英語で表現しておきました。
 このような私の作意は、どんな意図によるものかを、最後に述べておきましょう。この曲は一般的に、白くて冷たい雪の美しさを曲で表現している感じがします。音楽的にも、とても美しい感じがします。しかし、そのような雪の降る白く冷たい光景とは裏腹に、少年の内面の生々しい心情が、原曲の日本語歌詞の中に表現されています。ある意味、少年の熱く激しい(さらに言えば、悲痛な)心の歌なのだと思います。
 この曲に表現されている、少年の純な心に注目していただきたいと思って、私は、そのような英語の表現を試みました。そんな少年の心はネガティブで暗いという意見も、当然ありましょう。でも、この少年の思いは、あの白く冷たい雪と同じように、落ちては融けてしまう、はかないものなのかもしれません。よって、この曲のジャンルは、日本では、フォークソングとして位置づけられていますが、心情的には演歌的な要素を含んでいるようにも思えます。どちらにしても、この曲は、少年の心の余りにも純なところに感動できると楽しめると言えましょう。