現在完了進行形って何だっけ?

 これまでの私たち日本人が学校の授業で一度は学んで、そして、そのことを勉強するのに一度は首をかしげたことのあるものの一つに、英語の『現在完了進行形』があったと思います。『現在完了形』と『現在進行形』のミックス(合成)という、文法用語の一つ、および、英語の文型だったのが、この『現在完了進行形』でした。「(現在まで)〜していたところです。」という、わかったような、わからないような意味を表していました。十代の学生の頃の私は、いちおうその例文を覚えて、わかったふりをしていました。学校の先生に教えられたことだし、試験に出るだろうから、と義務的に理解しようとつとめていました。そんな私と同じような思いをした人も多かったと思います。
 私は大人になっても、この『現在完了進行形』を学校で学ぶことについては、ちょっとばかり疑問と矛盾を感じていました。実生活でほとんど役に立ったことのない数学の公式と同じで、本当は、学ぶだけ無駄だと思っていました。こんなものを学んで実際に外国人との会話で使えるのだろうか、と思っていました。
 それから後に、或る日のラジオの文化放送『百万人の英語』の時間に、カーペンターズの歌う『プリーズ・ミスター・ポストマン』を耳にしました。「ちょっと待ってよ、郵便屋さん。」とかいった日本語対訳も聞いた覚えがあります。その放送で二、三回ほど私は聴いただけですが、今でも妙に耳に残っている歌詞の断片がありました。
 "スタップ(stop)! オーイエス(Oh yes)、wait a minute! Mr. Postman! ウェイー、ェイー、ェイー、Please Mr. Postman/Please Mr. Postman ルキャンスィー(look and see)オーイェー(Oh yeah)"といった歌い出しだったと思います。伝わりにくいかもしれませんが、それを覚悟であえてその歌詞の断片をぞろぞろと書いてみることにしました。
 "There must be some word today/From my boy-friend so far away"(今日こそ、遠くにいる私のボーイフレンドからの便りが来ているはずよ。)という歌詞のフレーズがあるように、この歌は、ネットや携帯電話のメールなんかが世の中に無かった頃の、遠距離恋愛の相手からの便りを待っている人の歌なのです。
 おそらく私の記憶が少し間違っているかもしれませんが、"For just a card or just a letter"(ハガキでも手紙でもいいから)とか、"Please Mister Postman Look and see/If there's a letter in your bag for me"(郵便屋さん、よく探してみてよ。(あなたの)カバンの中に私あての手紙がないかどうか。)とかの歌詞があって、そして次の、ちょっとまどろっこしい感じのフレーズが出てきます。
"I've been standing here waiting Mister Postman"(郵便屋さん。私はず〜っとここに立って、(あなたが来るのを)待っていたんですよ。)
 最近になって、ひょんなことからこの歌のフレーズを思い出しました。そして、この曲中の女性が郵便屋さんに「(あなたが来るのを)ここに立って、ず〜っと待っていたんですよ。」と感情を込めて言っている場面を想像しながら、今さらになって私は次のごとく思うのでした。ああ、このようにして、『現在完了進行形』は英語の日常会話の中で使われているんだ、と思いました。その女性は、遠距離恋愛のボーイフレンドが来る代わりに、郵便屋さんが来るのを今か今かと一人で道端に立って待っていたのです。その光景が、いかにも滑稽(こっけい)な感じに私には思われました。
 そして、何よりも、難しい文書やお堅い文書の中ではなくて、日常生活の中でみんなが親しんでいる、ポピュラーな歌の中で、この『現在完了進行形』が普通の言い回しとして登場してきていたことが重要だと思いました。学校の義務教育でそれを学んだことが、私の人生において決してムダではなかったと(ちょっと大げさかもしれませんが)思われました。
 今になって気づくなんて、とんでもなく長いムダな時間が費やされたと思われるかもしれません。しかし、義務教育で昔学んだ学校の勉強や知識なんて、一生涯、何の役にも立たないと決めつけてしまうより、何倍も得をした気持ちになれました。ウソだと思ったら、あの頃の教科書をもう一度、大人の視点で読み返してみるといいかもしれません。