映画『エマニュエル夫人』の主題歌を日本語カバーする

 「よせばいいのに…。」といきなり言われそうですが、音楽やメロディーが良い曲なので、つい今回も挑戦してしまいました。
 今回の日本語カバーは原曲がフランス語です。フランス語の唄と言えば、シャンソンです。シャンソン(chanson)と言えば、フランスのちょっと古い(つまり、懐かしの)歌謡曲を、私は思い出します。学生時代に、フランス近代文学を読んでいたついでに、シャンソンに興味を持ちました。それで、シャンソンのオムニバスLPレコードを1枚買ったことがありました。このレコードには、驚くべき点がありました。原曲を唄った人とは違う人が、それぞれの曲を唄っていました。つまり、カバー曲ばかりだったのです。ほとんどの収録曲が本人歌唱でないことに私は少しがっかりしましたが、きっとそのほうが良い条件でレコーディングされたものをそのオムニバス企画のために選べたのでしょう。「枯葉よ〜っ」で有名な"Les Feuilles mortes"(枯葉)とか、"Sous le ciel de Paris"(パリの空の下)とか、"La Mer"(ラ・メール、海)とかを私は若い頃にそのレコードで聴いていました。"La Vie en rose"(バラ色の人生)だけは、エディット・ピアフの本人歌唱が収録されていました。「モン、ケル、キー、バ〜。」("Mon cœur qui bat.")という歌詞の結びの言葉(「私の心はドキドキよ。」という意味)が忘れられない曲でした。
 というわけで今回は、上品なシャンソン風に唄えることを目標にして、日本語カバーしてみました。実は、ネット上で探してみたところ、この映画『エマニュエル夫人』の主題歌は、安井かずみ氏の訳詞ですでに日本語カバーされていました。


Mais à vingt ans
Pour rester sage
L'amour est un
Trop long voyage


という歌詞に「愛する人生 長くて 深いから」という、意味深長な翻訳がされていました。ちょっとハード・コアっぽい感じがしました。(失礼しました。)私はこの日本語訳を、けなしているわけではなく、むしろ賞賛しています。言いたいことがコンパクトにまとまっていると思います。と言うのも、この原曲のフレーズをうまく翻訳したものが、他に見当たらないためでした。ネット上でこの原曲の日本語訳を探してみたのですが、あまりしっくりする訳に出会えませんでした。仕方なく、私なりに訳してみました。「でも、大人になっても良い娘(こ)のままだと、愛は(苦痛なほど)長い旅になるよ。」という感じになると思います。これを踏まえて私が日本語カバーをした歌詞は、(あたかも映像の一部に黒い大きなボカシを入れたように)言葉とその意味に思いっきりボカシを入れて、「愛とは、遥(はる)かな心の旅です。」とキレイにまとめてみました。


    『はるかな愛の旅路』(エマニュエル夫人のテーマ)


*愛の調べ 胸に奏(かな)でて
ドキドキしちゃう
愛の詞(ことば) 耳に響けば
ラクラするわ


あなたは 一つの恋しか知らない
愛とは はるかな 心の旅です


(* くりかえし)


夢見る心を 見つけた体を
男の溜息 誘うよ あなたは


(間奏)


綺麗な あなたは 心と 涙を
探して 彼方(かなた)の愛さえ知るだろ


(* くりかえし)


 今回の日本語カバー曲の中からは、「エマニュエル」の言葉が抜けてしまいました。ピエール・バシュレ氏の原曲では、エマニュエル夫人に親しい人物が"Tu es ..."(君は…)と二人称で語りかける感じになっています。そして、曲全体が、彼女を外から客観的に見ている感じになっています。けれども、私はあえて、この唄の繰り返し部分を一人称の歌詞に変えてみました。そうすることによって、この日本語カバー曲をより一層の生々(なまなま)しい感じにしてみました。男女二人の『かけあい』のような、デュエット(duet)ソングみたいになったと思います。
 そして、何よりも気をつけたところは、フランス語の理屈っぽい表現をいかに感覚的な短い言葉に変えて表現するか、ということと、その表現が下品にならないよう、ただのエッチな言葉にならないようにすることでした。それがどこまで成功したかは、作者の側の私には判断しかねるところです。私自身としては、その努力を試みたというだけかもしれませんが、自ら唄ってみて恥ずかしくならない程度に表現してみたつもりです。