私のプロフィール 30年前に聞いていた曲

 いくら本業で忙しいといっても、音楽を聴くヒマさえない、というわけではありません。二、三年前に、私はスティック・メモリー・タイプのMP3プレイヤーを買いました。仕事に支障がない範囲で、いろんな曲を入れて聴いています。その中に、二十歳前後の私がラジオやレコードでよく聞いていた曲がありました。
 それは、八神純子さんの曲でした。『パープル・タウン』とか『Mr.ブルー』とか『ポーラ・スター』とかをよく聞いていました。タイトルだけを見ると英語の歌っぽい感じですが、歌詞はほとんど日本語で歌われていました。その頃、民放ラジオで毎週歌謡トップ10の番組で耳にしたり、NHKテレビのサイエンス番組のテーマ主題歌などで流れたのを聴いていました。
 これらの曲には、共通の特徴がありました。(こんなことを言っては本当に失礼ですけれど)八神純子さんの歌が上手か下手かを考える前に、歌詞の内容が良いか悪いかを考える前に、これらの曲には、それを聴く人の心に響く『何か』がありました。歌い方や歌詞といったソフトウェア的なものではなくて、ハードウェア的な何かがありました。
 それは何かと言いますと、YAMAHAの楽器の音の良さだったと思います。曲が始まるや否や、バーンとくる音の良さに、その音が作り出す音楽の世界に誰もが引き込まれてしまう。それが、これらの曲を聴いた人が経験する『運命』のようなものだったと思います。おそらく、当時のYAMAHAは、楽器の音の良さでは世界一だったかもしれません。
 ちなみに、八神純子さんの曲には、色彩をともなう表現が歌詞の中によく出てきます。『パープル・タウン』は紫色に煙る夜明けが、『思い出のスクリーン』では赤く燃える炎と蒼く暮れる夕暮れが印象的でした。また、『みずいろの雨』や『Mr.ブルー』はそのままタイトル通りですし、『Mr.ブルー』ではコバルトに燃える海というのもありました。フランスのランボーの詩集ほどではないものの、このような色彩のあふれた表現が、楽器の音の良さと混ざって、それぞれの曲に花を添えていました。その独特の音の世界に、若い私は、無限に広がる青空のような自然の情景を心の中で描いて、それぞれの曲の世界をイメージしていました。