直売所で買ってみる

 近頃テレビを見るたびに、食料高騰のニュースを知ります。中国やブラジルでコーヒーの需要が増えたので、日本が輸入するコーヒー豆の価格が上がったのだそうです。一般に、食べる物を獲得できる条件は、まず大消費地が優先し、次に産地が優先します。前者は少しでも儲けたい商人の欲望によるものであり、後者は「遠くの親戚よりも近くの隣人」みたいな地の利によるものです。残念ながら、コーヒー豆のように、日本国内に産地が無い食べ物は、中国という大消費地と、ブラジルという産地が優先してしまいました。
 私は、日常の生活でコーヒーを余り飲まないので、特に影響はありません。そういえば、長野市のある農業法人で、コーヒー豆を庭で栽培しているのを見たことがあります。その農業法人では、各種ハーブを地元の飯綱高原で栽培して、長野市の本社で加工・包装して、スーパーなどで売っています。その本社の庭に鶏を何羽か放し飼いして、その奥にビニールで囲ってコーヒー豆の木の栽培をしていました。豆がなっていましたが、そのまま生では食べられないことを知りました。
 ところで、最近私は、地元の直売所に何が売られているか、興味があって見に行くことがあります。長野県は、1月と2月には何も食べるものがないと、かつて言われていました。まるでそれは冬の襟裳岬のようで、何も農産物が作れない、収穫できない状態でした。地元の直売所に行っても地元の農産物が何も無くて、他県の物ばかり並んでいるという状態でした。
 ところが、現在営業している直売所を何軒かまわってみると、頑張って農産物を出している方々の少なくないことに驚かされます。現在私は、お米を直売所に安値で出しています。例年にない寒さで、屋外の作業が思うように進みません。が、直売所の地元の野菜や果物を見ているうちに、私も元気づけられました。
 まず、去年の猛暑の影響でリンゴにかなり『はぶき』(つまり、規格外)が出てしまったらしく、通常の年よりも安値で沢山棚に並んでいました。安いというだけで、つい私はそれを一袋買ってしまいました。見た目は悪くても、味はそこそこでした。信州のリンゴは、青森のリンゴと比べて日持ちが悪いと一般に言われています。ボケてふかふかになっている心配もあったのですが、ボケたリンゴは一個も入っていませんでした。直売所で安く売られていたとはいえ、今回はリンゴを買って得をしました。
 次に、ほうれん草を買ったのですが、地元産は他県よりも安くて、質的にも量的にも十分でした。ちょっと鍋でゆでて、水分を切って、器にのせて冷蔵庫に入れておけば何回か食べられます。
 さらに、白菜・長ネギ・大根なども、地元産は他県よりも安いです。白菜や大根などは、今の寒い時期は見た目が汚くて、形も悪く、商品として売るには勇気が必要です。私は、根っこがいくつかに分かれた極度に形の悪い、カビでも生えだしそうな見かけが汚い大根を一本買いました。なんと値札は10円でした。でも、食べてみたらまずくありません。野菜の見かけは味に比例しないと思いました。とくに長野県の野菜は、寒さで身がしまって美味しいのです。見かけにだまされてはいけないのです。
 このように、地元産の安い果物や野菜には、いろいろ新たな発見がありました。お金持ちの中国人がおそらく一生涯口にすることの無い、でも、れっきとした良い食べ物が、まだまだ日本国内にはあると思います。そして、そのことに私はほっと安心しています。