1メートル20の家族

 私は、ある意味で、かわいい子供(つまり、人)としてではなく、夫婦生活のおまけ(つまり、物)として育てられました。従って、家族が人ではなく、物であってもいいと、私は勝手に解釈できます。
 今年の初め頃、私は、地元のホームセンターである品物を見つけました。抱き枕です。前から欲しいと思っていた商品の一つでしたが、なぜか買うことができませんでした。今まで使ったことがなかったため、どんな形のものがいいのか、大きさはどれくらいのものがいいのか、よくわからなかったからです。
 でも、その時に見つけた抱き枕は、価格も安くてお手頃でした。1メートル20の長さで大き過ぎず、かけた布団からはみ出さないものでした。また、三日月の形、もしくは、エンドウ豆のさやの形状で、抱きやすく感じました。無地の薄茶色をしているため、明かりを消すとほとんど枕の形が見えません。それでいいのです。寝るときは、横になって目をつぶってしまうので、枕を目で見ていません。腕で枕を抱いている触感が心地良ければ、それだけでいいのです。
 この抱き枕を使って、最初目が覚めた時は、びっくりしました。私の顔のすぐ前に、誰かいると思ってしまいました。抱き枕を使っていることを、私はすっかり忘れていたのです。また、抱き枕に布団をかけて抱いて寝ようとすると、枕の端っこがなぜか顔にぶつかります。私は、まるで誰かが私にぶつかってきたように思えてびっくりします。そこで、私は、抱き枕の扱い方を工夫しました。私はちょっとだけ首が長いので、抱き枕の端っこを首にくっつけると、首が気持ちよくなります。もちろん、そのことを発見してからはよく眠れるようになりました。
 また、私はこの抱き枕を両足で挟み込むことができません。抱き枕が長くないので、背骨や腰が曲がってしまい、具合悪いのです。しかも、私の布団はせんべい布団なので、その姿勢で寝ていると、腰が重くて下半身に負担がかかります。それに加えて、少々腕が長いため、抱き枕に腕が巻きつきすぎて、肘や上腕部が重くて痛いのです。よって、抱き枕の下部は解放して、上部だけ軽く腕を回すようにします。抱き枕に腕枕をしてあげる感じで、軽く抱いてあげると、私としては一番気持ちよくなります。
 わたしにとって、この抱き枕は家族同然なのです。人でもなく、物だけども、たとえ私は一人でも、若い頃のように心が不安で眠れなくなるということはありません。私の心は、この抱き枕に守られています。人が物に魂を感じることができるのは、だるまや人形だけとは限らないと思います。ぼろぼろにならないように、大切に扱ってあげれば、そんな私の気持ちにきっと応えてくれるのではないかと思っています。