抱き枕の効用?それとも謎?

 私が、抱き枕と出会ったのは、今から4、5年前だったと思います。前にも述べましたが、私はネコみたいな性格で、夜行性のため、朝寝坊の傾向にありました。本当に朝寝坊をしてしまい、仕事に支障をきたした場合は、全て自己責任となります。それで、明け方に近くなると、その強迫観念からか、学校や会社に遅刻する夢を見てしまうことが多くなりました。
 それを何とか改善しようと思い、地元のホームセンターへ探しに行きました。はじめは『安眠枕』を探していました。すると、ゆるやかなS字型をした120センチくらいの長さの『抱き枕』というものを、一つだけ見つけました。けれど、それを手に取ってみると、地味な薄茶色の、見た目は平凡な、ただの細長いクッションでした。その無地のクッションは、意外と安値で買えました。
 ところが、それを使ってみると、意外にもよく眠れることがわかりました。なぜだか、気分が落ち着くのです。不思議なことに、簡単に眠りにつくことができるのです。
 抱き枕というと、円柱の形状のものは、その枕カバーに好きな2次元キャラの絵やタレントさんの写真などをプリントできるものがあるそうです。人それぞれでしょうが、私の場合は、安眠が目的なため、絵も写真も無くて十分です。眠る時に目を閉じてしまうと、視覚的なものは全く意味が無くなってしまうからです。
 私は、日頃テレビなどをよく観るせいか、視覚や聴覚が酷使されています。けれども、枕を抱いて目を閉じると、触覚や嗅(きゅう)覚が感じられます。それによって、五感のバランスが良くなるのかもしれません。ゆるやかなS字状の、その先っぽが顔に当たると、イヌに鼻面(はなづら)をすり付けられてような感触をおぼえます。
 「ネコっぽい顔にイヌが鼻をすり付けているという感じ」と言っても、どのような感じなのかイメージできないかもしれません。でも、この高度情報化社会で、視聴覚に偏りがちな現代人の生活パターンから、少しでも解放されることは事実だと思います。何ごともそうですが、視聴覚に偏重していると、私たちの頭の中にある考えや感情も偏ってしまうと思うのです。
 私の場合は、そのような抱き枕に依存し過ぎないように、いくつかの工夫があります。今まで使っていた、頭をのせる枕は、今までどおりに使います。それと併用して、抱き枕を使うわけです。また、普段は、抱き枕が目につかないように、布団の間に挟んでおきます。
 ところで、ここで、最新の科学的な成果の話を致しましょう。石黒浩教授らの、人に似せたアンドロイドの研究は、誰もが知っていると思います。その開発と研究により、遠隔操作型アンドロイドが造られたのもご存知だと思います。問題は、そのデザインが「男性とも女性とも,子供とも大人とも見えるニュートラルな」ものへ簡略化されていき、「一目で人間と分かるが,誰であるかが分からない」ような形状になった、ということでした。(注記 「」内の文章表現は、その遠隔操作の簡易型アンドロイドの概要を説明したウェブページから、そのまま引用しました。)
 この研究により、そうした抱き枕型のアンドロイドがデザインされた、ということには、何か意味があると思いました。その機械(メカ)の部分を取り去ってしまえば、まさにそれは『抱き枕』そのものであると言えます。わずかに、人間の形を残しているので、それは人型の『ぬいぐるみ』、あるいは、簡素な『人形』と言ったほうがよいものなのかもしれません。
 もう一つ、私はこんな話を聞いたことがあります。精神的にイライラしている女性に、ぬいぐるみや人形を与えると、彼女はそれと関わって、やがて心が落ち着く(つまり、精神が安定する)という話です。
 以上の話から推測できることは、『抱き枕』や『ぬいぐるみ』や『人形』などに何らかの効用(役に立つ側面)があるということです。心が弱っている時に、それらに救いを求めることは、人間にとって自然なことなのかもしれません。決して、異常なことではないと思います。
 そして、もっと重要なことは、なぜ、そのような効用があるのか、ということです。そのメカニズムが解明されてこそ、私たち現代人は、『抱き枕』や『ぬいぐるみ』や『人形』などのモノを、様々な場面で正しく使えるようになれると思うのです。このことは、特に情報科学と心理学の分野などからの、解明が期待されると考えられます。