東尋坊を初訪問

 今回JAの研修視察で行った福井県の直売所・道の駅の近くに、東尋坊(とうじんぼう)がありました。今回の視察コースで直売所・道の駅の次に、そこへ行くと決められていました。東尋坊とは、お坊さんの名前だったそうで、その言われが伝えられています。現在では、この地で日本海に面した岩や断崖絶壁をそう呼ぶそうです。それらは天然記念物に指定されており、この地は国定公園になっています。(なぜかこの地に建てられた石碑には『天然紀念物』と彫られていて、地元の人もなぜなのかわからないそうです。)
 今回訪問した時は土曜日の午前中で、11月下旬のこの時期にしては珍しく天気が良くて、日本海が青く広がっていました。また、足元はるか下に見える岩場の、白波の立ち方が比較的穏やかでした。多数の観光客がそうした波のかかりそうな岩場に降りていました。しかし、遊覧船は大事をとって休業していました。
 このように景色の良い名所として有名な場所ですが、他の理由でも有名な場所です。テレビドラマのサスペンス劇場や刑事もので、最後に犯人が追いつめられる断崖絶壁は、よくここで撮影されているそうです。そういえば、この東尋坊の岩や断崖絶壁を、ある立ち位置と角度から見てみると、そうしたテレビドラマで見たことがあるように感じられました。
 また、ここは自殺の名所としても有名なところで、松の木が崖から落ちそうに生えている付近に歩いて行くと、足元のすぐ下に波で洗われている岩場が見えてゾッとします。オフシーズンのせいか営業していないお店のガラス窓に『救いの電話 こちら』と矢印が書いてある貼り紙がしてありました。その先には公衆電話ボックスがあって、NGOの人の名刺や何枚かの10円玉が置いてありました。(最近はここに置いてある10円玉が何故か少なくなっているそうです。)
 ここへ来た私どもの中には、「死ぬ気になれば、人間は何だってできるんじゃないか。」と言う人もいました。「そういう人にこそ、農業をやってもらえば成功するだろう。」とその人はおっしゃいます。残念ながら、私にはそうは思えませんでした。きっとここで身を投げる人は、今のお金社会で多額の借金に追われて、どうにもならなくなった人とか、心身のいずれか、もしくは両方ともおかしくなって通常の生活が送れなくなった人なのではないかと、私は想像していました。そうした問題を抱えてしまっては、どんな仕事をやるにも支障をきたします。どんな仕事でも(農業もそれに含まれます。)、ある程度の体力と気力(精神力)と健康が無いと、うまくいきません。人は、結局お金(生活資金)を得るために仕事をするわけですが、それを困難にするような障壁があるから、このような場所で身を投げたくなるのです。(ただし、そのような人の借金を全額肩代わりするとか、そのような人の病を完治させるとかで全く見返りを求めないような、仏様かキリスト様のような人や組織があるというのならば、私は何も文句は言いません。)
 ところで、当地のおみやげ屋さんは駐車場を無料で提供してくれます。観光案内までしてくれることもあります。その代わりに、そうしてお客にした人たちにお店でおみやげや食べ物を買ってくれることを希望します。よい商売の仕方だと思いました。最初はちょっとがめついな、とも思いましたが、駐車料金が無料なだけお得なのです。そのおみやげ屋さんで少々長居をしても、追加料金は取られません。おみやげ屋さんの側から見ても、自身のお店で何か買ってくれる限りにおいては得なわけです。こうして私は、日本海側でウィンウィンなサービス的かつ経済的関係を見い出しました。
 上に述べたように、ここの遊覧船の切符売り場は今日は閉まっていましたが、その売り場の手前の、日本海を見渡せるちょっとした場所に、一匹の白と黒のブチの猫が大人しく座っていました。私をも含めて周りの人たちは、その猫を珍しそうに見ていました。ところが、後で近くにあるおみやげ屋さんの中を見ていたら、白と黒のブチの猫が座布団に座った絵の描かれたキャラクター商品が何種類か売られていました。おそらく、遊覧船の切符売り場の前にいた猫は、キャラクター商品の販売促進のためにそこに連れて来られたらしいのです。そうでなかったら、この余りの偶然の一致を説明できないことでしょう。偶然の一致でないとしたら、あまりに話が出来過ぎている、本当にそこまでやるのか、と思いました。結局このことに関して、おみやげ屋さんの店員に詳しく聞きませんでした。けれども、これは店頭に並べているおみやげの種類を増やすための策略の一つに違いないと私は思いました。