私のプロフィール 信州そばの手打ちそば

 私が小学生の夏休みに、長野県松代の母の実家へ行った時のことです。長野県の田舎は8月の中ごろが旧盆なため、実家の近くのお寺へ、ご先祖様の送り迎えに必ず連れて行かされました。
 ちなみに、私の場合『田舎(いなか)』と言うと、長野県しかありません。なぜならば、私の母は長野県松代の出身です。私の父は、一応東京生まれでしたが、その両親である、私の祖父母は二人とも、長野県出身者でした。祖父は、野尻湖の近くで小林一茶記念館のある、長野県柏原の出身でした。また、祖母は善光寺さんの仁王門の近くに生家がありました。そんなわけで、(実家を継いだ親戚も含めて)その親戚が長野県に集中しており、「田舎へ行くよ。」と母が言うと、即それは長野県へ行くことを意味していました。よって、長野へ行くと、親戚まわりにも連れて行かされて、忙しいものでした。
 また、当然のごとく、善光寺さんにお参りに連れて行かされました。松代の母の実家から少し歩いて、川中島バスに乗って長野駅前に行きます。そこから善光寺さんに向かって歩いて行きます。バスが通っているはずなのに、ゆるい坂道を何故か歩いて上っていくのです。すると、その途中にそば屋さんがあります。店頭でそばを打っているところを見せている、手打ちそば屋さんなのです。
 私は母に連れられて、そのそば屋さんの店に2回ほど入ったことを憶えています。母は必ず、一番値段の安いもりそばを注文しました。ところが、そのもりそばは人間が切った手打ちそばなものですから、麺の太さがまちまちでした。材質はそばなのに、うどんのように太いものもありました。
 東京では、手打ちそばは珍しく、私は食べたことがありません。手打ちそばのお店も知りません。そばというと、機械で均一に細く切った『機械麺』のことを指します。そば粉100%どころか、小麦粉100%でも、東京では『そば』と呼びます。もちろん、小麦粉100%で太いものは『うどん』です。
 長野では、そば屋さんで手打ちそばをやっている店がいくつかあります。その点に関して、私は余り詳しくはありません。が、上田市内でも一軒有名な店を知っていて、今でもそこへ食べに行くことがあります。そこは、あの京都府からわざわざ食べにくるお客さんがいたと言われるくらい有名なそば屋さんですが、結構リーズナブルな値段でそばが食べられる店です。その店へたまたま食べに行って、私は善光寺さんの門前通りの途中にあったそのそば屋さんのことを思い出したのでした。
 手打ちそばと聞くと、人の手間がかかっているから普通の機械打ちのそばより値段が高いと思われがちです。しかし、小学生の私が母に連れられて入った手打ちそば屋さんは、注文したもりそばがかなり安かったと思います。味もそこそこ良かったので、次回もそこに行きたいと思っていたのですが、その手打ちそば屋さんはいつしか無くなってしまいました。私が中学一年の時には、そこにそのお店はありませんでした。私にとっては、伝説の手打ちそば屋さんになってしまったのですが、シンプルな手打ちそばの味をそのお店で覚えたことは、今をもってしても変わらない事実と言えます。