私の本業 季節はずれのとうもろこし

 先週アルバイトのお兄ちゃんに5、6時間はぜかけを手伝ってもらったのですが、それでもまだ今回の30アールの田んぼのはぜかけが終わりませんでした。彼は、奥さんの両親が同じ地元の上田市で田んぼをやっているので、はぜかけ作業は慣れており、つい先日も手伝ってきたそうです。そんな彼でさえ、私が今年やっている30アールの田んぼを刈り取った稲わらの量にはお手上げのようでした。結局私が、この週末に全部片付ける予定になってしまいました。
 ところが、その週末の土曜日に、とうもろこしの栽培に詳しい新規就農者のKくんが、今年新規就農者5人で建てたビニール・ハウスのとうもろこしの状態を見て、とうもろこしが出来ているのですぐに収穫しないといけない、と私に教えてくれました。しかし、そのKくんも含めて新規就農者はみんな忙しいため、私が収穫して直売所に出荷することになりました。そこで、私は土日の日中に予定していたはぜかけ作業を一時中断して、とうもろこしを処理する時間に振り分けることにしました。
 今年建てたビニール・ハウスの有効利用として、とうもろこしを時期をずらして今年中に二回収穫できるように、種まきをしました。けれども、その一回目は、水やりが足りなかったため失敗しました。出来たとうもろこしの皮をむいてみると、中がカラカラに乾いてしまい、とうもろこしの粒が食べられなくなっていました。これでは、直売所に持って行って売ることができません。
 その失敗を踏まえて、二回目の種まき分を私は気をつけることにしました。ほぼ毎日、きゅうりの木の水やりのついでに、とうもろこしの木にも水やりしていました。その結果今になって、とうもろこしの取れる時期が来てしまいました。地元では今時分にとうもろこしを直売所に出している農家さんはいません。地元では、とうもろこしの一般的な収穫時期はすでに過ぎていました。
 それでしめしめと行きたいところですが、そうたやすくは行きません。まず、アブラムシや芯食い虫(アワノメイガの幼虫など)にかなりやられていました。きゅうりなどの作業に追われて、農薬を散布するタイミングがつかめず、結局無農薬になってしまいました。そう聞くと一般消費者はうれしいかもしれませんが、現実はそんなものではありません。
 まず、ほとんどのとうもろこしは先っぽを蛾や蝶などの幼虫に食われてしまいました。その部分は、腐ってもちろん食べられませんから、包丁などで切り落とさなければなりません。とうもろこしの胴に穴を開けられて食べられてしまったものは、直売所には絶対持っていけません。収穫した私が食べられれば良いほうです。
 そのままにしておくと、白カビや青カビが生えてきます。なるべく早めに食べなければなりません。私の場合は、そうした商品にできない、いわゆる『はぶき』のとうもろこしもよく水洗いします。そして、鍋に簡易ふかし器と水を入れて、とうもろこしを蒸気でふかします。カビや病害虫を死滅させるために、十分煮沸消毒をします。さらに、食べる前には塩をふります。
 また、未成熟のとうもろこしはスイートコーンと呼ばれるだけあって、甘いミツでベタベタしています。黒い小さなアブラムシが無数に群がります。これも、農薬で駆除しなければいけないのですが、時間が無くてできませんでした。外の皮をむけば、ほとんどの場合は中身がアブラムシにやられていることはないのですが、たまにアブラムシから感染して細菌やウイルスにやられてとうもろこしの粒に斑点がついているものがありました。もちろんそれは商品になりませんから、『はぶき』にして自己消費しました。
 勿論、アブラムシがとうもろこしに落ちた場合は、そっと水洗いして落とすことができます。無理に指や爪で落とそうとすると、アブラムシが粒と粒との間に挟まったり、取り除く時に粒をつぶしてしまうことがあります。
 ところで、直売所で買ってくれる消費者の側は、とうもろこしが病害虫にやられていないか、と厳しい目を向けてきます。私の側(生産者の側)ができることは、とうもろこしの外皮をむいて、とうもろこしをカットした時に出た汁気を取り除いて、透明の袋詰めで虫食いなどが無いことを示してあげることです。
 袋詰めされたとうもろこしの分量までチェックされていて、価格のわりに分量が少ないものは買ってくれません。いくら季節はずれで珍しいと言っても、お金を出す側はそれだけの期待を持っているわけです。それが一般消費者の目と言うものです。生産者の側が、どんなにアピールしても越えられない壁というものがあります。生産者は、謙虚な姿勢でそれを察知して、どんなに手間がかかろうとも価格を吊り上げず(それを『直売所価格』と言います。)にいいものを提供して買ってもらおうと努力することが求められています。