怖い話 その3

 以前『怖い話 その1』で、子供の頃に友達同士で怖い話を出し合って遊んでいたことを書きました。そこで話された自動車のバックミラーにまつわる話はどうだったかと、思い出してみることにしました。当時は東京などの都会では交通戦争が激しくて、命を落とす人も毎年増加の傾向にありました。それを戒める意味でも、車の周囲をよく目視確認して欲しいという意味を含めて、誰かがこの手の話を流行らせたのかも知れません。またそれと同時に、バックミラーを通じてこっそり間接的にものを見るようなやり方への批判もあったと思います。なぜ直接ものを見ないのか。間接的にものを見たり感じたりしたことだけを信じて、それでいいのか。これは、私の考えすぎかもしれませんが、バックミラーの中に映るものをどれだけ人は信用できるのかを、これらの話の中で聞き手に問い詰めているように思えて仕方がありませんでした。
 前置きはそれくらいにして、私が聞いた話は次のような感じだったと思います。
 ある夜遅く、タクシーの運転手が、一人の女性をお客として乗せました。そのお客は口数が少なく、消え入るような声で行き先を指示してきました。お客の行き先にたどりつくと、そこは物寂しい場所でした。それもそのはず、お寺と墓地がすぐそばにありました。お金をもらって、後部ドアを開けようとした、まさにその瞬間に彼はバックミラーに何気なく目をやりました。バックミラーには、女性の姿が映っていませんでした。後部座席には誰もいませんでした。
 次におまけとして、新作(私の創作)を付けておきます。二度とタクシーの運転手になりたくないという友人から聞いた話です。(繰り返して言いますが、この話はフィクションです。あまりに下らない話なので、それを覚悟で読まれるとよいでしょう。)
 これは夜遅くの出来事でした。ある町の信号の無い交差点近くを通りすぎる途中で、私はひき逃げを目撃しました。前方の車が、横から飛び出してきた何か白い物を押しつぶして、急停止しました。車から降りた若いおにいちゃんは、さも面倒くさそうに両手でそれを持ち上げて、すぐ端の歩道におっぽり投げました。同乗していた友人と口論しながら、それを車道の外に片付けると、すぐに車に飛び乗って立ち去ってしまいました。私は、その一部始終を目撃した後、道路わきに車を止めて、その生き物を見に行きました。それは、仰向けにひっくり返った白い猫でした。が、内臓破裂で腹がパックリ開いていました。スーパーの食肉売場で見かけるニワトリの卵付きの臓物みたいなものが、その猫の腹からむき出しになっていました。その猫の目は半開きで、だらしなく仰向けになって動かなくなった姿は「俺の内臓を見てくれや。ニワトリの臓物と同じでしょ。」とでも言っているかのようでした。見たくないものを見てしまった私は、何もせずにその場を立ち去りました。
 それから数日後の夜遅くのことです。私は、あの信号の無い交差点の近くで、髪の長い女性客を乗せました。彼女はその長い髪で顔をかくしていて、わずかに白い肌がそこからのぞいていました。普通に行き先を指示してくれたので、それに従って私は車を走らせました。が、しかし、どうも変なのです。一度通った道を何度も通っているようなのです。最初のうちは気にしていませんでした。やがて私は気になって、道端に車を止めると、その女性客に「どういうわけかい?」と詰問しました。すると、その女性は変な笑い方をして、こう言いました。「ケケケ…。楽しいでしょ?へへヘ…。」
 私はバックミラーに目をやると、何も言えなくなりました。後部座席にいる髪の長い女の人の顔は、あの白い猫の顔でだったのです。(余りに下らない話なので特にコメントはありません。)