ほとんどの男性が知らないこと ― C君から聞いた不思議な話 ―

 私は男ですが、ほとんどの男性が知らないようなことを知っています。それは、女性の社会進出がまねいた現代社会の悲劇かもしれません。日本の社会も、女性の社会進出がこんなにも進んでしまうなんて、私は想像すらしていませんでした。いずれ女性と男性の地位が逆転してしまった場合、この社会は男性にとって居づらくなることになるでしょう。ただ居づらくなるならばいいのですが、おそらく居場所を奪われたり、抹消される男性の方も出てくると考えられます。そうならないためにも、あらかじめ私は警告させて頂きます。男社会の通念は、今は常識でも、いずれ非常識になると思います。それでなくても、もうその兆候は見え始めています。例えば、現代の女性の喫煙は決して嗜好の目的ばかりとは限りません。体に悪いとわかっていても、それを上回る現代社会のストレスを解消するために必要不可欠なのです。それだけのストレスをかかえている女性たちが、現状にいつまでも甘んじているとは考えられません。(ここで断っておきますが、私は煙草を吸いません。子供の頃、祖母の吸っていた煙草をいたずらで一口のんだことがきっかけで、煙草を吸えなくなりました。それ以来、私は煙草が嫌いですが、他人が煙草を吸うのを冷静に観察しています。)
 まず、女性の社会進出が進んだことで一番男性が困っていることは、目のやりばだと思います。どんなに真面目な男性でもこんなにあちこち女性が居たのでは、男性の性欲が刺激されっぱなしになってしまうのです。昔は、結婚した女性は職場をやめて家庭にはいることが普通でした。しかし、今は共働きの場合が多いので、家庭に引っ込むことは余りありません。
 男性の方、本当に気をつけてくださいね。通勤電車で痴漢と間違われないように、気をつけてくださいね。なぜ私がこの話を持ち出したかと言えば、ほとんどの男性が知らないことがこの世にはあるからなのです。多くの女性の方々の我慢と辛抱によって、かろうじて体裁を保ってはいますが、いつひっくりかえるかわからないような不安定な状態にいることにほとんど誰も気がついていません。でも、男性の方々、よく考えてください。熟年離婚がどうしてこんなに増えたのか。一生を末永く共にするために結婚した同士がなぜ離婚せざるおえないのか。不思議とは思いませんか。
 今日までの日本の社会は、男性上位のいわゆる『男社会』でした。男に有利なように社会の通念、つまり、一般常識が作られてきました。まだ一般常識として通用していることが沢山あるように見えます。しかし、私たちみんなが知らないうちに少しずつ変わりつつあるのです。
 ここで、私は、以前東京の会社に勤めていた時の、職場仲間のC君の問題を取り上げて説明したいと思います。彼のプライバシーを守るために『C君』としましたが、本当は必要ないようです。すでに私は彼とは連絡ができなくなり、彼の消息は途絶えてしまいました。しかし、彼と話した内容には重大なことが潜んでいることがわかったため、あえて『C君』という匿名で話を進めたいと思います。
 C君の話によると、彼はかつて職場で好きになった女性がいたそうです。彼より12歳年下のBさんで、C君が中途採用で会社に勤めるようになってから半年後にやはり中途採用で同じ会社の同じ部署に配属された20代の女性だったそうです。彼は、その女性のことが知りたくて、残業をしてまわりの人たちが少なくなった時に、彼女が働いていたのを見つけて、彼女と帰る方向が同じであったため、一緒に会社から帰ることになったそうです。そして、別れる場所の手前で彼女に話しがあると言って、その近くの喫茶店で彼女と話をしたのだそうです。どんな話をしたのかは、私は聞いていません。ただ、C君の言うのには、彼女とは仕事で少し接点があったので、まったく知らない同士ではないと思って、「僕と付き合わないかい。」みたいなことを言ったらしいのです。すると、彼女は「私は、彼氏がいるのでできません。」と断ったそうです。ところが、C君にとってはその言葉は寝耳に水で、信じなかったそうです。言葉少なになったC君に、Bさんが、帰りますと言ったので、二人は喫茶店を出ました。
 その後に事件が起きました。明かりの少ない通りを二人で歩いていた時、C君は突然Bさんの肩に手を触れました。Bさんは、地方に実家があり、親から離れて東京のアパートで一人暮らしをしている女性でした。C君の話によると、Bさんは突然態度が変わって、顔が恐怖の形相になり、なにかわめいてC君から逃げ出したそうです。
 「ちょっと触っただけなのに。」と彼は私に泣き出しそうな顔で話すのです。Bさんは、C君から逃げ出す前に、さらにこんなことを言ったそうです。「私は、そういうことをする女性ではありません。あなたが、そんなエッチなことをしたいならば、そういう職業の女性のところへ通ったらどうですか。」と。C君は、普通の女性はもとより、『そういう職業の女性』との経験がなかったので、どう答えていいかわからず黙ってしまったそうです。私の想像するに、C君はそういうエッチなお店に行った経験が無く、そんなお店にいくほど精神的に落ちぶれてはいない、自分はもっと真面目な気持ちでBさんと一緒に居たいだけなのだ、と考えていたようです。
 男の側からすれば、C君の立場はごもっとも。ちょっと肩に触れたくらいで、Bさんはひどいではないか。好きでないならC君と一緒に帰ったり、喫茶店で話をしたりするのは、おかしいではないか。と考える人が多いと思います。しかし、と私はC君から話を聞いたときは彼に同情したものの、もう一つ別の考え方があるように思えて仕方が無いのでした。
 それは、会社で開かれたある宴会の席で偶然わかりました。C君とのトラブルがあってまもなく、Bさんは別の部署に配置換えになりました。Bさんと、Bさんの現在の上司と、私が偶然近くの席になったので、私は同僚のC君のことを、思い切ってその2人に聞いてみました。一体、何があったのか、好奇心で知りたかったのです。実は、Bさんの現在の上司は、あの事件の時、Bさんと部署は違っても話しのできる間柄だったそうです。あの事件の後、Bさんは彼に事件の一部始終を話して相談にのってもらったそうです。Bさんと彼と関係がどのようなものであったかは、それ以上私は知りません。この2人から私が聞きだした内容をまとめると、以下のようになります。
 Bさんは、仕事上C君のことは知っていました。その日の夜、残業をしていたらC君に声をかけられ、帰り道が途中まで一緒だとわかって、彼と一緒に会社から帰ることにしたそうです。その道の途中で、C君から話があると言われたので、いきなり断って仕事上のことでトラブルになったら困ると思い(そういう些細なことで意地悪する人間も会社には居るようでした。)、喫茶店に入って話をしました。付き合って欲しいと、いきなり言われて、Bさんは困ったそうです。付き合っている彼氏はいなかったのですが、嘘をつきました。Bさんは、今の会社に転職してきて、キャリアウーマンを目指して頑張ろうとしていたそうです。仕事以外に、男性と付き合っている余裕は無いとその時考えていたそうです。よって、C君を何とか怒らせずにわかってもらおうとしたのですが、どうも話が通じない。年齢差のせいでしょうか、言っていることがよくわからなかったそうです。友達と話しをする時のような冗談も、通じそうに無かったそうです。これは喫茶店を出て、早く別れるしかないな、と思った矢先に肩をつかまれたそうです。その時、BさんはC君にレイプされると思ったそうです。
 これを読んでいる男性の方、大袈裟だと思わないでください。これは現実にあったことなのです。Bさんに精神的な障害はありませんでした。Bさんの上司は、その後C君の上司(この人は私の上司でもありました。)に相談して、C君に会社から遠くない場所にあったソー○ランドに行ってくるようすすめたそうです。会社からの命令に等しかったので、C君はそれに従いました。
 それでは、男性の方々にわかるように説明致しましょう。もしかしたら、今理解することはできないかもしれません。でも、いつか理解してもらえればいいと私は思っています。
 もしあなたが男性で、満員電車に乗っていたとします。そして、たまたま見知らぬ女性の体の一部を手で触ったとします。その女性がいやな顔をしたとします。今日までの男社会のルールに従えば、女性が我慢をして何も言わなければ、何も無かったことになり、男性であるあなたは平穏無事でいられます。しかし、未来の社会のルールに変わった場合、それでは済まされません。「なにするのよ。」とその女性に大声で怒鳴られたら最後、あなたは痴漢、つまり、性犯罪者として警察に突き出されます。ちょっと手が触れただけなら冤罪じゃないか、とあなたは主張されるかもしれません。しかし、触ったことが事実で謝罪をしないのであれば、あなたは性行為に及んだと見なされても仕方が無いのです。「結局、男は女の体を触る生き物なのだ。」という男社会で一般常識化されてきた通念が生きている間は、あなたはその通念に守られていたことでしょう。しかし、その社会通念があなたを守れなくなった瞬間、あなたのしたことは、女性の服の上からであろうと服の下であろうと関係なく、性行為そのものと見なされてしまうのです。
 男性は性行為という言葉に、あまりに鈍感です。自らの性器をこすることばかりに固執する余りそれだけが性行為であると考えている男性が多すぎます。余りに自分自身に固執するあまり、それとは違う世界があることを知ろうとしないのです。性教育関係の書物にも書いてあるとおり、個人差こそあれ女性の性感帯は全身だといわれています。男性は女性の体のどこを触っても、女性は感じてしまう可能性があるのです。しかし、男性は自身の性器を接触させる以外は、通常は感じませんから、それ以外を性行為とは思っていないのです。それで、酔っ払ったついでとかに、相手の許可無く女性の胸とかに触っても平気な顔でいられるのです。
 私は、そんな男性の方々に敢えてオーバーに表現します。女性の体に触ることは性行為であり、相手の許可無くそれを行うことはれっきとした性犯罪なのです。女性に運悪く裁判に訴えられても、これからは勝ち目はありません。それなりの罰を受けなければならなくなるでしょう。
 こうした変化の背景には、女性の社会進出による経済的地位の向上があります。今の女性のほとんどは職業を持っています。昔は、男性に経済的に依存していた女性は、どんなに文句を言いたくても我慢するしかなかったのです。しかし、今の女性の場合は男に頼らずに働こうという意志があります。相手の男性に我慢する理由はなくなりました。
 C君がBさんに触ってはいけなかったわけは、以上の通りです。C君がとった行動は、Bさんには性行為とみなされて、しかもBさんの意思を無視していたため性犯罪と見なされても仕方なかったのです。しかしながら、今でもほとんどの男性はこんなことはありえない、と信じていることでしょう。女性の側からしても、彼女ら自身の弱みを悪用されたくはありませんから、今は男性に本音を言えず、我慢してしまうかもしれません。でも、いずれは男性と女性で折り合いをつけないと、双方にとっての悲劇はまだまだ続いていくと思います。
 ところで、C君はどうなったかというと、最初のお店でひどい目にあったと話していました。彼より2、3歳年上の女性にあそこを片手でつかまれて、あおむけの彼の上にまたがり、軍隊調の命令言葉で20分近く怒鳴られたそうです。「早くせんかい。」とか「なにやっとんじゃ。」とか、汚い言葉でなじられて、C君はすっかり体が縮み上がってしまったそうです。女は怖いと初めて彼は思ったそうです。もう二度とそのお店は行かない、と彼は申しました。その後彼は、会社から少し離れた駅の近くに同じようなお店を見つけて、そこに何回か通ったそうです。そこでまた、不思議な体験をしたので、また、私に話をしてくれたのですが、その内容についてはまた別の機会にお話しすることに致しましょう。
 とにかく、こんなふうにしてC君の社内での評判は良くなりました。特に、女性社員の目からみて、以前のとげとげしい感じがなくなり、安心して仕事を頼みにいけるようになったと私は聞いています。もちろん、彼女らは、C君にどんな秘密があり、どんな努力をしてそうなったかを知りません。しかし、そんなことは彼女らに知られる必要がまったくないと思います。社会人として人間的に成長したんだから、それでいいんじゃないかなと、私はC君に対して思うのです。