私のプロフィール 『足立体育学校』 (つづき)

(スポーツ選手を目指していたわけでもないのに、体育の授業に力を入れている公立高校に通っていた私。高三の体育の授業でラグビーをやらされて、またまた大変なことに……)
 担当の体育のN先生いわく、「普通の高校では、3年生でラグビーはやってはいけないことになっているのだ。大学受験の前に怪我をされては困るからな。しかぁーし、お前らはこの3年間で相当鍛えられているから、お前らを信用してやらせてみようと思う。十分に怪我に気をつけて、気を引き締めて、プレーしてくれたまえ。」
 高三のこの時の私のクラスメイトは、空手部の友人とか柔道部の部長とか、ラグビー部やサッカー部などの運動部の連中が多数いました。授業の時間は、スクラムなどのきつい練習が終わると、3つのチームの練習試合と総当り戦が始まりました。ラグビー部員はともかく、普段ラグビーなどやったこともない他の運動部員もそれぞれ得意なプレーを見せつけました。陸上部の選手にボールが渡ると、足が速いので誰も止められず、確実にトライを決められてしまいました。私の知り合いの柔道部の部長は、普段は温和な人なのに、ラグビーボールを抱えたら最後、トライを決めるまでボールを決して手放しませんでした。試合中に土砂降りの雨になっても、試合は続行です。雨が降ると、皆、泥んこになって、荒っぽいプレーが連発しました。
 下手に味方からボールを受取ると大変です。私もボールを受取って走ろうとした瞬間、知り合いの柔道部の部長から胸板にハイ・タックルを食って、真後ろにひっくり返ってしまいました。ハイ・タックルは高校ラグビーでは禁止でしたが、反則のホイッスルは審判から鳴りませんでした。でも、気を抜かずにプレーしていたので、不思議と怪我はしませんでした。
 私のいたチームはラグビー部員が一人もいない最弱チームでしたが、ラグビー部の部長が司令塔になっている最強チームと当たった時がすごかった。私の味方が何人もその部長一人に蹴散らされて倒されて、ボールを奪うことができなかった。その部長がボールを抱えて先頭を切って走ってきたので、私もタックルしようと飛びかかりました。が、彼の強烈なビンタの一撃で、私の首から上はあえなく吹き飛ばされてしまいました。がしかし、彼は私を甘く見ていました。下半身はまだ残っていたので、とっさに腕を伸ばして、部長の腰から下にしがみつきました。それで、部長の動きが止まった。そのスキに乗じて、私の味方が司令塔を一瞬失った敵からボールを奪い取ってトライを決めてくれました。何と、最弱のチームが最強のチームに勝ってしまいました。
 ラグビーは危険なスポーツです。何の事故も無かったから、楽しい思い出で済みましたが、何か事があったら大変です。授業中、体育の先生方の厳しい指導に従っていたからこそ、大事に至らなかったのではないかと今になって思います。
 なぜそんなにしてまで、私の母校は体育の授業に力を入れていたのか、と申しますと、それにはちゃんと理由がありました。中程度の学力では、もっと勉強のできる上位の学校の生徒にはかなわない。学力で及ばない部分を体力で挽回しようという教育方針だったのだと思います。
 また、体育の先生方の理論によると、16歳前後が人間の体力向上のピークに当たるそうで、この時期に一番体を鍛えておく必要があるとのことでした。この教育理論の是非はともかくとしても、私は、学力よりも体力を重視したこの母校の方針に、年をとればとるほど感謝したくなるのです。
 学力と体力のどちらが『一生もの』なのかは意見の分かれるところだと思います。中学・高校の先生方からは、体力は年をとるにつれて衰えるが、学力は身につけたら一生変わらないものと教えられてきました。その通りであることに変わりはないとは思います。ただ、その学力を支えるものとして体力を無視することはできないのではないか、と私は考えるのです。