『月着陸CG動画』に物申す

 最初に断っておきますが、私は物理学者でも宇宙開発の専門家や研究員でもありません。H大学文学部を卒業しているので文学士の称号は持っていますが、科学技術者ではありません。しかし、日本の月面着陸CG動画を見るたびに、いつも疑問に思うことがあります。テレビなどで時たま目にするたびに、その月面着陸のCGイメージ動画が、どうにも変に思えて仕方がないのです。
 ちなみに、私は、アポロ11号の乗組員が月面に立ったことを、子供の頃にリアルタイムで知っています。また、その前に、レインジャー計画やサーベイヤー計画無人機が月着陸のための探査を行っていたのも知っていました。そんな子供の頃の私は、アポロ計画の月着陸船イ-グル号を描くのは苦手でしたが、無人探査機サーベイヤー1号を描くのは得意でした。
 では、日本の月面着陸CG動画のどこが変なのかと申しますと、月面上空で、まるでUFOが宇宙空間からそのまま飛来したかのごとく、無重力でゆっくり移動しているさまが変なのです。
 月にだって重力はあります。地球の1/6だと言われています。しかし、それを強調しすぎていると思います。想像してみてください。地球上で、あなたは50m先に野球のボールを投げられるとしましょう。地球上の重さの1/6になったボールを、あなたが月面上で投げるとして、果たして300m先に投げることができるでしょうか。おそらく、地球上で投げたのと同じような放物線を描いて、その手前で落下するはずです。つまり、地球の衛星である月には、イトカワリュウグウなどの小惑星とは比べ物にならないほどの質量があるので、その重力を甘く見ることはできないと思います。
 それじゃあ、アポロ計画で月に降り立った乗組員が、月面上で飛び跳ねていたのは何だったのか?と年配の方々は言うかもしれません。確かに私も、月面上で彼らが飛び跳ねていた映像を何度も見ました。でも、それは彼らが本当に飛び跳ねていたにすぎません。普通に歩いて、あのように月面から浮き上がるのは無理です。重い宇宙服を着ていても、月面上での移動は容易(たやす)いと見せつけていたに過ぎません。
 それに、私は、月周回人工衛星『かぐや』から送信されてきた映像を、いまだにCGではないかと疑っています。そのように、時々疑念を抱いていないと、見た目をうのみに信じて、大切なことを見逃してしまうような気がするからです。実際のところは、そんなにフェイクではないのでしょう。けれども、あのように月面上空をゆっくり移動する様子を映像で見せつけられると、月面上で低空低速で移動できることが当たり前に思えてしまうものです。しかし、月面上は真空で、空気抵抗を利用したいかなる揚力も利用できません。したがって、見た目よりも実際には、高度は高く、速度も速かったはずです。そうでなければ、人工衛星『かぐや』は月を周回するどころか、その周回軌道に入れずに、月面上に落ちてしまったはずです。
 繰り返し申し上げますが、月面上および月面上空には大気がありません。宇宙空間と同じように真空ですが、月の重力はあります。地球上のような空気抵抗がありませんから、その重力による加速度の影響をもろに受けます。しかも、地球上と同じふうには空気抵抗が使えませんから、気球の浮力も、パラシュ-トの減速力も、飛行機の翼やヘリコプターのローターなどの揚力も得ることができません。ロケットエンジンの逆噴射による加速度に頼るしか、月の重力加速度に抗(あらが)う力はない、と思っていいと思います。
 そこまで屁理屈(へりくつ)を言うのならば、証拠を示せとおっしゃるかもしれません。そんな皆様のために、私は月面の軟着陸を簡単にモデル化したゲームを用意してあります。2013年2月27日付けの『レトロな軟着陸ゲーム』または2019年12月2日付けの『Jスクリプトの使い勝手を学ぶ』などの、私のブログ記事で公開していた、そのゲームを以下の例のごとく操作してみると、一つの答えにたどりつきました。(なお、このゲームでは、消費燃料の値を入力変更して、『押す』ボタンをクリックすることによって、その回数分、一定時間の降下や上昇の移動をするものとしています。)

高度500、速度-50、燃料120の初期条件から、
降下開始!
 消費燃料0で6回降下 → 高度は113 速度は-80
降下中
 消費燃料35で2回降下 → 高度は13 速度は-20
 消費燃料30で1回降下 → 高度は6 速度は5  ※
 消費燃料0で2回降下 → 高度は7 速度は-5  ※※
 消費燃料5で1回降下 → 高度は2 速度は-5
 消費燃料9で1回降下 → 高度は-1 速度は-1 (残留燃料6)※※※
着陸成功!!


 降下開始時は、燃料節約のために、エンジンを止めて(消費燃料0)、自由落下をさせます。
 最初から燃料を使うと、着陸寸前に必要とされる燃料が足りなくなります。また、着地までの時間が長くなっても、滞空時間が長くなって、燃料が足らなくなります。だから、ある程度の高度に下がったところで、逆噴射をして燃料を消費します。
 消費燃料35→35→30で降下して、逆噴射の結果が速度5で初めてプラス(上昇)に変わります。(※)
 さらに、その結果、高度も少し上昇するため、速度5が速度-5になるまで再びエンジンを止めます。(消費燃料0)(※※)
 消費燃料5で降下速度-5を維持した後、消費燃料を適度に使って減速して着地を目指します。(※※※)

なお、この※※※において、
 消費燃料10で1回降下 → 高度は0 速度は0 (残留燃料5)
または、
 消費燃料11で1回降下 → 高度は0 速度は1 (残留燃料4)
も着陸成功!!です。

ただし、
 消費燃料12で1回降下の場合は、 高度は1 速度は0 (残留燃料3)ですが、
残りの燃料を使っても、ハードランディング(速度-5)となって失敗します。


 「こんなお遊びをして何の証拠になるのだ。」と、のたまう方々もいらっしゃることでしょう。しかるに、このゲームで表現された簡単なモデルによると、着陸船の高度によって燃料の消費量が違うことがわかります。そしてまた、月の重力による加速度に対して、どこでどれだけ逆噴射の燃料を使ったら効果的なのかを、このようなモデルを通してチェックすることも重要です。ただ均一に燃料を消費するだけでは、重力加速度を減じて衝撃のより少ない着地(注・軟着陸あるいはソフトランディングとも言う。)をするのは不可能です。さらに、次のような事態も想定されます。重力加速度に抗(あらが)うために、とてつもない量の燃料を消費してしまいます。よって、燃料切れで月面に激突してしまうことだって十分にありえます。
 私が子供の頃に見た漫画の中で、月面などへ着陸できる宇宙船が描かれていました。それを描いた漫画家が誰であったかは記憶にありません。しかし、その宇宙船には、着陸時の衝撃を緩和させるためにしっかりと広げられた三脚の足が付いていました。そして、降下上昇中の燃料が足りなくならないように、ロケットの胴体の周りを取り囲むようにいくつもの増設用燃料タンクが付いていました。そのような宇宙船の形態を今になって考えてみると、意外と合理的で科学的に描かれていたことに気づかされます。
 そして、先にも述べましたように、私はいまだに『かぐや』から送信されてきた映像が、CGではないかと疑っています。そのような私の申すことですから、このような、月着陸CG動画についての疑念は、きっと皆様に信じてもらえないかもしれません。でも、そんな私としては、大谷翔平選手の口調を真似て「月着陸に本当に成功するまでは、憧れを捨てましょう。」などと申してみたいところなのです。その実(じつ)を申せば、憧れに頼って夢がかなうほど現実は甘くないのかもしれません。