他人の夢を、バカにするな!

 今年のプロ野球は、阪神タイガースが日本一になりました。それにちなんで、久しぶりに観てみたDVDソフトがありました。劇中、登場人物のほとんどに、あの頃知られていた阪神タイガースの選手の名字が付けられていた、あのテレビドラマです。地元の古本屋さんの一つであるBOOKOFFの店舗で、3カ月前に私はその『ROOKIES(ルーキーズ)』というテレビドラマのビデオソフトを見つけて買いました。630円という破格の安さだったのが、それを買ったもともとの理由でした。が、つい最近それを鑑賞して、最初の3話までと、特典映像がその4枚のDVDに収録されていることを知りました。また、各部員選手のトレーディングカードみたいなものも特典として付いていました。
 私は、このテレビドラマを今から15年前にオンエアで観ていました。その頃は、このドラマ作品の勢いと爽やかさに乗せられて毎週観ていました。しかし、それ以上の感銘は受けておらず、一つ一つのセリフに込められた意味とかを考えたりもしませんでした。だから、かえって今になってこのドラマを観てみると、納得したり考えさせられることが多いのです。
 例えば、このドラマには、未成年の喫煙シーンが出てきます。そのため、テレビでの再放送は行われません。各話のラストに、それを禁ずるテロップが流れます。がしかし、右も左もわからない青少年少女の視聴者に、劇中の喫煙が模倣されないとは限りません。だから、テレビでの再放送は禁止ということになります。
 でも、そのことについて、私はこう思うのです。なぜこのドラマは、そのような未成年の喫煙シーンをカットしなかったのか。その理由を考えてみると、そこには深い意味があると思いました。それは、子供から大人に成長する過程で、未成年の彼らが経験せざるをえなかった挫折感の結果であり、つまり、タバコの喫煙はその象徴の一つだと思いました。そうしたことで不良のレッテルをまわりから貼られた彼らが、そのどん底の境遇からはいあがることに、大きな意味があるのです。つまり、このテレビドラマが描こうとしたことは、決して世間でありふれた美談なんかではない。子供たちが幸せに無傷に育てば、幸せな大人になれるかというと、そうではないのが人生の真実だと思います。誰もが、挫折感やどん底の境遇を味わいます。それは、人間として生まれてきた限りは避けられない、必須のことです。そんな彼らが自発的・自主的にそこから幸せを、そして人生をつかみ取っていけるようにならなければ、意味がないのです。
 「夢(を持つの)は、(各人の)自由だ。」などと、ドラマの各シーンで視聴者の心に突き刺さる言葉が多いのも、このドラマ作品の特徴の一つです。その中でも、ひときわ今の私の心にグサっくる言葉がありました。佐藤隆太さんが演じる、まわりから『暴力教師』などとたびたび非難されていた川藤先生の、「他人(ひと)の夢をバカにするな!」という一言でした。
 なぜ、今の私がその言葉に心を動かされたのかと申しますと、そこには大きな理由がありました。もしも、そのような言葉に、20代の頃の私が気付いていたならば、私の半生は全く変わっていた可能性がありました。当然ながら、今の私は、そのことに後悔を感じていました。あの頃に、その言葉を聞いて、もう少し頑張れていたならば、今とはもっと違う幸せをつかめたのかもしれない、と思ったからです。
 ところが、それで全てが終わったわけではありませんでした。その言葉には、そんな今の私の心をさらに揺さぶるものがありました。なぜならば、その言葉の本当の意味がわかってきたからです。すなわち、それがどんなに小さな夢であっても、とるに足らない夢であっても、あるいは、逆に、途方もなく実現不可能な夢であっても、その他人(ひと)の夢を妬(ねた)んだり、あざ笑ったり、バカにすることは、私自身の心にとってマイナスだとわかったのです。結局、他人の夢をバカにすることによって、過去の私が得られたものは、そんな私自身に対する惨(みじ)めさとか「死にたい。」という思いとか将来を生きていくことへの不安でした。それはまた、そのような私自身を生み出した、社会全体に対する不安でもありました。
 したがって、「他人の夢をバカにしない。」という、たったそれだけのことで、そうしたマイナスの感情から逃れられる、あるいは、様々な不安から救われる。ということを、今の私は知って、ある種の驚きを隠せませんでした。私自身が心に貯めている『嫌なこと』を、誰かを相談相手にぶちまけてみるのも、悪くないなと思うようになりました。ただし、そこまでしなくても、今の私には、このテレビドラマの名ゼリフ「他人(ひと)の夢を、バカにするな!」で十分です。
 なかなか解決しない、戦争・経済格差・気候変動などの世界的な社会問題も、全てそれを受け止めて不安に思うのは、私たち各人、一人一人であることをお忘れなく。そして、私たち各人一人一人の心と体が、しっかりしていくことが、まずは全ての前提であることをお忘れなく。