旧作DVD鑑賞会(1)

 少し前の私のブログ記事で、深夜に再放送されていたテレビドラマの中で、吸血鬼を演じていた若い女優さんが誰だか見た時にすぐにわかった、というようなことを書きました。けれども、その時の私の記事には、まだまだ書き足りないことがあったことに後になって気づきました。
 2008年から2011年頃までに、私がテレビで目にしたいくつかのドラマ番組中に、その大政絢(おおまさあや)さんが出演していたことは、何となく記憶に残っていました。ただし、どんな感じの若い女優さんだったかは、それほど鮮明ではなく、大雑把(おおざっぱ)にしかそのイメージは残っていませんでした。あくまでも、それは、それだけのことにすぎず、それ以上でもそれ以下でもなかったようです。
 しかし、今回このことがきっかけになって、私は、地元のレンタルビデオ店を再三、訪れることとなりました。当時テレビで観ていたはずのドラマ番組のいくつかを、レンタルDVDビデオによって再視聴することを思いついたのです。そのレンタルビデオ店の旧作DVDコーナーを利用して、ドラマの全編を通して鑑賞してみることにしました。
 すると、意外なことがわかりました。あの頃のテレビドラマを、思っていたよりも、ちゃんと視聴していなかった、ということに気がつきました。観たはずの内容を勘違いしていたり、最終回をちゃんと観ていなかったり、連続していたドラマの後半部分を全く知らなかったりしていました。よって、そのドラマのオンエア時に私が何をどんなふうに観ていたのかということを、詳しく記述する自信が全く持てなくなりました。当時の私が、テレビドラマをどれほど大雑把に観ていたかということがわかると思います。どんなあらすじの流れだったか、という記憶が不鮮明でした。それよりも、どのようなタイプの登場人物がいたか、という記憶のほうだけが、私の頭の中には大まかに残っていました。
 したがって、そうした旧作DVDのテレビドラマを改めて見直してみると、いくつかの、珍しい発見がありました。今まで思ってもみなかった、いくつもの掘り出し物を見つけることができたというわけです。そのことを、これから述べてみたいと思います。
 私のそのレポートの第一回目は、フジテレビ系列で2009年頃にやっていた『メイちゃんの執事』というドラマです。私は、このドラマを何度もテレビで観ていたように思っていました。しかし、ドラマの終盤に近くなるにつれて、その記憶はあいまいになってしまいました。何がお目当てでこの番組を観ていたのか、ということになると、ハッキリとしたことを憶えていないのです。私は、東雲メイ(しののめめい)こと榮倉奈々さんのファンではなかったし、柴田理人(しばたりひと)こと水嶋ヒロさんや柴田剣人(しばたけんと)こと佐藤健(さとうたける)さんの執事役に憧れていたわけでもないのです。ましてや、我がままで意地悪なお嬢様の誰かがお目当てで、この番組を観ていたわけでもないのです。
 この番組が始まる冒頭では、しばしば次のようなナレーションが入りました。「聖ルチア女学園。―― ここは、お嬢様一人一人に、超イケメン執事がつく、とんでもない学園だ。敷地面積は、東京都の約3分の1。主な移動手段は、ヘリ。その上、学費は月に1億円。」という榮倉奈々さん演ずる東雲メイのナレーションで、番組がよく始まりました。
 こんな現実にはあり得ない設定の学園なのですが、次世代のレディーを育成することを目的としています。だから、お嬢様とそれに仕えるイケメン執事の恋愛は一切禁止という、いわゆる『鉄の掟』があったりもします。
 第6話で、この学園のお嬢様の一人が、東雲メイに、こんなようなことを語っています。この学園を卒業したお嬢様のほとんどが、親の決めた相手と結婚することになるのだそうです。だから、彼女らは、この学園の在学中に、その執事とどんなに心が通っていても、いつかは離れ離れになってしまう。もともと、そういう定めにあるのだそうです。
 このドラマの第1話のタイトルは、「女性の願望を叶(かな)えるイケメン執事たち!!」です。つまり、この学園は、イケメン執事がお嬢様の願望を叶えてくれる場所であると同時に、彼女らが一人前のレディーに成長するための修練の場所でもあるわけです。
 例えば、第6話で、東雲メイが学園長にこんな苦情を訴える場面が出てきます。
「この学園、本当むちゃくちゃですよ。わけのわからない規則いきなり作ったり、逆らったら即行(そっこう)退学にしたり…。ここは、レディーを目指すための学園ですよね。そんなんで、いいんですか。」
 すると、学園長はこう答えるのです。
「それを変えてゆくのは、あなたたちの仕事ですもの。恵まれた環境で何不自由なく育ってきた子たちが、自分を試される場所なのよ、ここは。当然、うまくいかないことも沢山あるわ。でも、本当のレディーへの道は、その先にあるの。いろいろなものを得て、いろいろなものを失った先にね。」
 お嬢様一人一人が、一人前のレディーに成長するために、修練を積み、試練を乗り越えて行かなくてはならないのです。そのために、お嬢様一人一人にイケメン執事がついて、一人前のレディーに成長できるように導いたり、その修練およびその試練を乗り越えるための手助けやサポート、日常的なお世話などを執事が担当するというのが、この学園の仕組みだと言えましょう。
 少し話が硬くなってしまったかもしれませんが、このドラマには、以上のような、しっかりした背景が基本的にはあることを忘れてはならないと思います。以上のことを踏まえて、話を先に進めましょう。
 勿論、東雲メイがドラマの終盤で見せたように、幾多の困難を乗り越えた末に現状を変えてしまうことがありうるかもしれません。お嬢様に、それだけのエネルギーというか、チカラ(劇中で使われている言葉では『覚悟』)があれば、それは可能なのかもしれません。そのためには、柴田理人のような有能な執事がお嬢様の側について、そのチカラを発揮することができるようにならなければなりません。そして、さらに劇中では、佐藤健さんが演じる柴田剣人というキャラクターが、窮地に陥った東雲メイと柴田理人の二人を助けてしまいます。
 最初のドラマの説明では、この三人は、恋愛上の三角関係だったのです。ところが、ドラマの終盤に入って、彼は、兄と幼なじみの不甲斐ない様子に耐え切れなくなって、捨て身の行動に出てしまいます。この佐藤健さんが扮する柴田剣人という役は、このドラマ全体を通して、実は、主役級の重要な役だったのです。そしてまた、いかなる立場の女性からも好感が持てるような、男らしい役だったと思います。
 実際に、ネット上で「どのお嬢様と執事が好きですか?」という小さな人気投票があって、この三人がダントツの一番人気になっています。
 ちなみに、以上のことを踏まえて、もしも私が若くてイケメンの執事だったならば、どうなのかという妄想を述べてみたいと思います。このドラマの執事の役割を考えてみると、思いっきり、我がままで、意地悪で、口が悪くて、性悪なお嬢様に仕えるのが、一番気が楽なのではないか、ということになります。しかし、山田優さんが演じる本郷詩織さんの場合は、かなり暗い過去を背負っているようで、やっかいな気がします。劇中の、向井理(さとし)さんが演じる執事の忍さんのように、献身的な彼を気遣ってくれないお嬢様の態度に、いつまでも耐え忍んでいかなければならなくなってしまいます。
 年齢による経験的なものが多少あるかもしれませんが、私は、お嬢様の好みに合わせてその世話を忠実(まめ)にする、青山のような執事に憧れます。そして、『リカ様』が、我がままで、意地悪で、口が悪くて、性悪なお嬢様だと、実は内心わかっていても、彼女を信じてあげなければいけないという理由から、榮倉奈々さんの演じる東雲メイの面前では、「リカ様を悪く言うな。」「お前なんかに、リカ様のことがわかってたまるか。」とぶちまけてみたいものです。これこそ、男冥利(みょうり)に尽きる、つまり、男として生まれてよかったと言えるのではないかと思うのです。(私の勝手な妄想は、ここまでにしておきましょう。ドラマの第2話の内容に即して、そのように妄想してみました。)
 こんなことを書くと、それでも君には男としてのプライドがあるのかね、とか、男として恥ずかしくないのかね、とか、私とは逆のことを言ってくる人が必ずいると思います。確かにそういう考えもできると思うので、私は否定しません。しかし、昨今のシングルマザーの問題とか、夫婦間のDVやモラハラの問題を考えてみると、男と女の間の信頼関係、あるいは、人と人との信頼関係というものを、私たちはもっと真剣に考えなければならないと思います。
 このドラマでの「お嬢様とイケメン執事の恋愛禁止」という鉄の掟は、ここで大きな意味を持ってくると思うのです。恋愛関係や、あやふやで曖昧(あいまい)な関係や、いわゆる慣れ慣れしい関係よりも、まず、お互いに相手をある程度は信用できる、ちゃんとした信頼関係を築くことのほうが、人間として大切なのだ、ということなのです。それは、お嬢様とイケメン執事との間でも、例外ではありません。言い換えれば、お嬢様は、イケメン執事とちゃんとした人間関係でやっていけるようになることで、社会的にも通用する立派な大人のレディーに成長できると、考えることもできるのです。
 このように、この『メイちゃんの執事』という突拍子もないテレビドラマは、現代の私たちが視聴しても見劣りがしない、つまり、考え方が古くないと思います。かえって、勉強になると思います。