『胸キュンスカッと』の感じ方

 フジテレビ系で毎週やっている『痛快TV スカッとジャパン』というバラエティ番組があります。私は、その番組の中で『胸キュンスカッと』のコーナーを楽しみにしています。青春時代を思い出すようなショート・ドラマの設定が、なかなか悩ましくて、あるいは、切なくて、MCの内村さんのように「(あの頃に)戻りて〜なあ〜〜。」とつい思ってしまうように話が作られているのです。
 私の好みとしては、ラストシーンに思ってもみなかったことが起きて、逆光の照明が光ったエピソードが忘れられなくて、かつ、ショックでした。私は、男のくせに、その照明の逆光を見た瞬間に「きゃー。」と悲鳴を上げてしまいました。
 また、別のエピソードで、夜の居残り練習をしていたら、そこにやって来た、女子ハンドボール部のあこがれの先輩と賭けで勝負をすることになって、負けた方が勝った方の言うことをきくということになりました。その男っぽい女の先輩に「もしも、おれが勝ったら、おれと、つきあえ。」と言われて、勝つべきか負けるべきかと迷う少年が面白いと思いました。
 ただし、50代の私は次のように考えて、結果がどうなるかを予想できました。もしも、その女の先輩が勝てば、彼女とつきあう(つまり、彼女と交際する)ことになります。もしも、反対に、その先輩に勝ってしまったならば、少年の側から「先輩、僕とつきあってください。」と言えるのです。どっちにしても、少年は、あこがれの女の先輩とつきあえるじゃないかと、私は予想しました。
 このように、この『胸キュンスカッと』というコーナーは、現在の若い俳優さんたちを起用して、青春時代を思い出させるような、胸キュンなエピソードを紹介するコーナーなのです。冷静に視聴していれば、いかにも作り話ということが明々白々なのですが、「あの頃に帰りて〜なあ〜。」と思いながら、実際は手の届かない過去の青春時代を取り返したくなるところに、楽しさがあるのだと思います。
 他人(ひと)によっては、このコーナーは、観るのがイヤだと思ったり、ドラマに対して文句ばかりこぼしたりするかもしれません。あえて過去を思い出したくない、という人も、いるかもしれません。そうした感じ方の違いは、他人(ひと)によって違うのだから、あっていいのだと私は思っています。
 しかしながら、私には、一つだけはっきりしていることがありました。私の経歴をまず明らかにしましょう。私は、幼稚園・小学校から始まって、中学校・高校・大学まで、ずっと男女共学でした。しかも、私が所属していたクラスは、いつも男子と女子の人数の比率が半々でした。大林監督の映画の劇中のセリフではありませんが、「誰が男なんだか女なんだかわからない」ような環境の中で、子供時代から育ってきたわけです。よって、異性を好きになったとしても、それに突っ走って、闇雲にのめり込むようなことはありませんでした。冷めていた面があったようです。
 もしも、あの頃に戻れたとしても、勉強や試験や成績のことに気を奪われて、そうしたドラマのように、異性との関わりに真剣になれるはずはないと思いました。実際の私の若い頃は、そうでした。勉強や試験や成績のことが毎日のように気になって、どんなに異性に胸キュンしても、それで勉強が手につかなくなっても、結局は、勉強や試験で友達から遅れをとってはいけないと思いました。また、私の青春時代を振り返ってみると、好みの異性とはうまくいかないことが多かったので、異性と直接に関わることに悦びを感じることがありませんでした。いつしか、そうした異性と直接に関わることを、自ら避けるようにさえなってしまったのです。
 従って、その『胸キュンスカッと』を観て、私は、異性との関係に失敗だらけだった若い頃の経験をあざ笑いつつ、「作り話だったら、青春時代は、こんなにも、異性との関係や交際が楽しいじゃないか!」と感心しているわけです。うまくいかないのが現実だけれども、その反対に、うまくいったり、それが信じられなかったり、胸キュンしたりしてスッキリするのが虚構(フィクション)なのかもしれません。