自称・コメ屋の言い分 第2回

 このテーマでの前回ブログ記事で、日本のおコメが直面している大問題があると述べました。今までのままにしていくと大変なことになると、その危機感を臭わせておきました。しかし、ある程度それを知っている人にとっては、「そんなことは当たり前だ。」「けれども、どうすることもできないじゃないか。」「そのうち何とかなるだろうから、今は心配したってムダだ。」などと考えていると思います。自称・コメ屋の私としては、それはそれでかまわないと思っています。その生産者が困ると言っても、その消費者が困ると言っても、そのどちらかが壊滅的な打撃を受けることなどないのかもしれません。
 しかし、誰でもが現在知っておかなきゃならない情報や知識はあると思います。たとえそれが、限られた地域や個人の知恵であっても、誰かの役に立つことがあるかもしれません。そうした立ち位置から、私は今回のブログ記事を書いてみようと思いました。
 まず、現在の日本人は、昔ほどおコメを食べなくなりました。海外からの食料品の輸入も増えて、日本の食生活は豊かになりました。必ずしも、おコメを中心にした和食にこだわらなくても、日本人の多様化した食生活は成り立っています。世界的に見れば、まるで夢のような話です。
 私が子供の時には、「おコメは日本の主食だ。」という言葉をよく聞きました。事実、沢山おコメを食べている人もいました。また、「世界には、食べ物が不足して、多くの餓死する人が出ている地域がある。」ということも、よく大人から聞かされました。そうした情報を鵜呑みにして大きくなったはずなのですが、おコメを食べてもおいしくないし、おコメ以外にもっとおいしいものを見つけて暴飲暴食しがちな若者になってしまいました。
 これも世の中のひずみと言ってしまえばそれまでですが、日本の食生活が欧米化して、それに限りなく近づいてしまった現状を、認めないわけにはいきません。これは単なる意識や気持ちだけの問題ではないと思います。例えば、都会の満員電車で出勤するサラリーマンの朝を考えてみましょう。着替えなどの支度で忙しい朝に、ゆっくり食事などしていられません。食事休憩を十分にとることなど、夢のまた夢です。
 しかるに、ゆっくり食事をとることと、食事休憩を十分にとることは、おコメを主食とする和食をいただくために必要な条件なのです。せっかく食事をしても、消化不良などを起こしては何にもならないと思うからです。おコメを食べるとおなかが張るという話も、よく聞きます。おコメをよく噛まないで呑み込んしまったり、必要量以上に食べてしまうと(つまり、食べ過ぎてしまうと)、おなかが張ってしまうのです。
 市販されているパンの原料となる小麦と比べると、おコメは質的にコクがあって、腹(はら)持ちが良い食べ物と言えます。その腹持ちの良さを利用すれば、間食を減らせます。規則正しい食習慣を身につけやすくなって、糖尿病や高血圧症の予防につなげることができます。しかし、その腹持ちの良さは、裏返して考えれば、食(しょく)すと「おなかが張りやすい」ということです。朝の満員電車でおなかを押されるサラリーマンは、毎日つらい出勤を強いられます。
 また、出社時間に間に合わなくて慌ててしまう朝は、パンの切れ端ならば、口にくわえて急ぎ身支度をすることはできます。けれども、そんな時に、おにぎりを口にくわえて同じことができるかというと、うまくいきません。おせんべいを口にくわえて、やっと…というところでしょう。
 こうしたことから、朝の食事をおコメを主食とするご飯から、パンに切り替えた日本の家庭も多いと思います。日本のサラリーマンのほとんどの家庭は朝食がパンだ、ということを、私は正式に調査をしてはいませんが、何となく知っています。実は、私の東京の実家では、父が自営業であったにもかかわらず、1970年代からすでに朝食はパン食になっていました。朝からおコメのご飯だと、どうしてもおなかが張って体調が悪いというのが、家族みんなの意見でした。
 日本人がおコメを昔ほど食べなくなった理由は、他にもいくつかあると思います。そのうちの一つとして忘れてならないのは、糖分の話です。ただし、この話には、誤解が少しあるような気がします。食べ過ぎによる糖分の摂りすぎがいけないことは、正しい情報だと思います。しかし、一定量の糖分を含むおコメと、それと同じ量の糖分を含む砂糖や液糖(シロップ)が、人間の体に同じように吸収されるかと言えば、そうではありません。
 例えば、さつまいもの糖分は、一部、人間の体に消化吸収しずらくなっています。不水溶性のでんぷん質になっているため、人間の胃腸では消化しにくく、糖分としても一部吸収しずらいのです。おコメの糖分の場合は、でんぷん質になっているため、その糖分が一気に吸収されにくくなっています。それを糖分として消化吸収するためには、それなりに時間がかかります。少しずつ糖分が体内に吸収されることによって、急激な血糖値の上昇を防いでいるわけです。
 言い過ぎかもしれませんが、日本人は昔よりおコメを食べなくなって、それだけなら良いのですが、おコメの食べ方が下手になってしまったようなのです。どんぶり飯が主流になれば、おコメの食べ過ぎが起こりやすくなります。一度に多量におコメを食べると、どうしても、おなかが張ります。また、牛丼でも天丼でも海鮮丼でもそうですが、どんぶりの底に溜まる液状のタレが、おコメに味を付けて、おいしくします。味の付いたおコメは、食欲をさらにそそってしまい、おコメを食べ過ぎてしまうのです。
 それを防ぐ一つの方法は、小さな茶碗飯のおかわりの回数で、おコメを食べる分量を調節できるようにすることです。調子の悪い時や用事で急いでいる時は、小さな茶碗に軽く一口ごはんをよそって終わりにします。逆に、食べられそうな時は、小さな茶碗に山盛りにしたり、何杯かおかわりするようにします。おかずの種類ごとに、ご飯のおかわりをする手もあると考えられます。
 そうやっておコメを食べる量を、その時の体の調子や都合に合わせて調節できれば、おコメを食べ過ぎずに、適量を摂取することができます。おコメの食べ方は、一度に沢山食べればいいというものではありません。一方、毎回その時の体調に合わせて適量を食べられれば、食生活の日常化・習慣化ができると思うのです。
 例えば、おコメのご飯のおかずの一つとして、野菜の漬物がありました。近年、塩分の摂りすぎに注意しなければならなくなって、食べるのを控える傾向にあります。しかし、最近のように、天候の寒暖差の影響で、野菜の販売価格が乱高下するようになると、それを見直す余地が出てきたと思います。白菜などの野菜を安いうちに買っておいて、漬物にしておけば、野菜の値段が高くなった時にそれを食べることができます。そうすれば、日々平均的に野菜を口にすることが可能かもしれません。おコメのご飯のおかずとして、最適なものの一つと言えましょう。
 このようなことには、まだまだ知恵や工夫が他にもあると思います。そうした提案を、全国のおコメ屋さんがやってくれると良いのですが…。そんなふうに考えるのは、私の妄想にすぎないのかもしれません。