『名作をたずねて』の録音テープ

 今年の9月14日の私のブログ記事『怖い話 その2』で書きましたエドガー・アラン・ポーの『黒猫』のラジオドラマを録音したテープを自宅で見つけました。カセットテープのラベルに『名作をたずねて』と書かれていました。さっそくポータブル・カセットプレーヤーで中味を聴いてみました。
 そのポータブル・カセットプレーヤーは、ソニーウォークマンではありません。私のウォークマンは二十年くらい前に壊れてなくなっていました。私は、ウォークマンはきゃしゃに作られているんだなとその時に思いました。それでウォークマンが壊れてすぐに、他社のポータブル・カセットプレーヤーを買いました。
 驚くべきことに、今回その機械を部屋で見つけて、電池を入れて、最近買ったヘッドホンをさしたら、何とカセットテープの音が鮮明に再生できました。
 このポータブルな機械は、ZEROと名前が付けられているだけで、どこのメーカーで作られたかわからないノン・ブランド商品でした。それを買った当時は"MADE IN CHINA"と銘打ってあったこともあり、価格もソニーウォークマンよりも安くて、それを真似た商品にしては、形がごっつい感じがして、この機械をあまり大切に扱っていませんでした。デザインも悪くて、インチキで怪しい商品を買ってしまったと思っていました。けれども、何年か使っているうちにその丈夫さ、つまり、その機械の安定性に気づくようになりました。事実、買ってから何年もたつのにちっとも壊れないで残っていました。機械が壊れる前に、私はこの機械にあきてしまい、音楽などを聴くのに使わなくなったようでした。つまり、この機械は、少なくとも私が昔使っていたソニーウォークマンよりは頑丈にできていました。
 その代わりに、この機械には不便な点もいくつかありました。カセットテープの出し入れは、完全手動式で、機械のふたを手で開け閉めしなければなりませんでした。また、再生専用で、再生と停止と早送りの3つのボタンしかなく、巻き戻しボタンは付いていませんでした。どうしても巻き戻しがしたい場合は、カセットテープを機械から取り出して、裏返して再び機械に入れて、早送りボタンを押さなければなりませんでした。
 そんなわけで、今回私は昔のカセットテープを古いポータブル・カセットプレーヤーですみやかに簡単に聴くことができました。ポーの『黒猫』(俳優の山本圭さんの朗読であることがこのたび確かめられました。)やレイ・ブラッドベリの『湖』のほかにも録音したものが今回見つかりました。中国の作家の魯迅(ろじん、もしくは、ルーシュンと読みます。)が書いた『薬』という小説や、中島敦の『名人伝』、野坂昭如さんの戦争童話集『凧になったお母さん』や、食道がんに苦しんだ高見順の詩とかの放送を録音したカセットテープを見つけました。
 『名作』とは言っても、これらは一般的に広く知られていない作品ばかりでした。そうしたものを、ある意味で名作であると考えて、ラジオドラマに仕立てて放送されたようでした。でも、私がそれらを一つ一つ聴いたかぎりでは、どれも真に迫っていて聴かずにおれない面白さや怖さや奇異さがありました。
 ここでは、それについての詳しい説明を割愛させていただきますが、過去にこのような番組があったことの記録がネット上にあまり残っていないのが残念です。私がネットで検索して見つけたところでは、NHK第二ラジオのこの『名作をたずねて』に声の出演をした人の何人かはわかりましたが、どんな内容の番組だったかなどの情報は今のところ見つかりません。私の手元に残っている物も、この番組を録音した3本のカセットテープだけです。でも、これらに収められラジオドラマが、当時高校生であった私の好奇心をかき立てずにはおれなかったことは事実だったと思います。