草刈機からじかに学んだこと

 最近私の本業では、借りている30アールの田んぼ周辺の畦(あぜ)に生える大量の雑草を刈るために、草刈機(通称ビーバー、刈払機とも言います。)が大活躍しています。稼働しすぎるために、予期しない故障をしたり、過熱でエンジンが焼き付きそうになり、それ自身が非常停止してしまうことが多くなります。そうなると、スターターのひもを何回引こうと、そのエンジンを動かすことはできません。
 そんな時は、よく農業機械組合や農業機械の修理屋さんに、動作不良のその機械を持って行って、検査や修理をしてもらっていました。今までは、そうでした。しかし、機械を持って行っても、その修理屋さんが忙しかったり、たとえ悪い箇所を診てもらったとしても、それの修理代が最低でも数千円は取られてしまいました。それで損した気分になることが、私にはよくありました。
 そこで最近では、そうした農業機械が動作不良を起こした場合は、まず私自身で機械の悪い箇所を探して、できるだけ修理もやってしまうことにしています。点火プラグのお掃除とか、回転する刈刃(チップソー)の付け替えは日常的な作業です。私の所持している草刈機は、贅沢にも単気筒4サイクルエンジンで、ガソリンとエンジンオイルを別個に機械に入れて使っています。ガソリンとエンジンオイルの混合燃料で済む2サイクルエンジンの草刈機を使っている人も多いのですが、私の場合は、雑草を刈る面積が余りに広いため、長時間作業できる4サイクルエンジンの草刈機を選ぶこととなりました。
 以前私は、ホンダの4サイクルエンジンが使われている草刈機を購入して持っていましたが、当時は珍しい品物であったため、誰かに盗まれてしまいました。けれども、草刈機が無いとあれこれ困るため、マキタの草刈機を私は買いました。マキタといっても、マキタスポーツさんとは関係ありません。また、草刈正雄さんが出演されて宣伝していますが、あれは電動式の草刈機のようです。私が買ったものは、ガソリンで動く4サイクルエンジン(単気筒なので点火プラグが一本しか付いていませんが…。)のものでした。
 先日、スターターのひもを引いた感じに違和感があって、何度やっても草刈機のエンジンが起動しませんでした。仕方なく、スターターを草刈機の本体に固定している四ヶ所のネジを外そうとしました。すると、そのうちの一ヶ所のネジが(おそらく機械の度重なる振動のために)外れて紛失していました。また、もう一ヶ所のネジが緩んで落ちそうになっていました。結局、スターターが草刈機の本体から取れそうになっていたため、スターターからの回転運動がちゃんと伝わっていなかったのが、不具合の原因だとわかりました。ホームセンターに行って、紛失したものと同型のネジいくつかを百円くらいで買ってきて、代わりに付けてみたらば修理できました。
 ほかにも、故障している箇所がありそうなので、機械の外から防護しているカバーを、エンジン部分から外してみようとしました。そして、その防護カバーを少し外してずらしてみました。が、その時、その隙間からプラスチックのカバーに防護されていた中身がチラッと見えました。何とそれは、秋葉原電気街で理科の実験教材などとして売っている、小型の交流発電機とそっくりでした。
 これまで私は、ガソリンで動く機械のひもを引く形式のスターターや、軽油で動くディーゼル機械の手で回す形式のクランクは、いずれもエンジンの回転軸を速く回して、その惰性でエンジンがかかるものと思っていました。しかし、それは私の勘違いでした。それはいずれも現象しか見ていないための誤解であって、私はそのメカニズムをよくわかっていませんでした。大部分の自動車やトラクター(農耕機)や田植え機などは蓄電池(バッテリー)が付いているため、キーなどをひねることによりエンジンの始動が簡単にできます。一方、草刈機や揚水ポンプなどの小さな農業機械には、電池や蓄電池(バッテリー)が付いていません。それらがどうやって、点火プラグにスパーク(火花)を周期的に飛ばさせるのか、私としてはよくわかっていなかったのです。
 私は、そのガソリン駆動の草刈機に内蔵されていた、小型の交流発電機をチラッと見て、どうやって点火プラグにスパーク(火花)を周期的に発生させているのかがわかりました。電池も蓄電池も使わず、交流の電流を継続的に供給するしくみがわかったのです。それも、身近にある草刈機という農業機械でじかに触れてわかったことが、すごいと思いました。私は、中学生の頃、技術の授業でエンジンの動く仕組みを学びました。また、技術の教科書や百科事典などで、エンジンの動く仕組みをイラストで何度も見た記憶がありました。にもかかわらず、電池や蓄電池の付いていない機械でどうやって点火プラグに周期的かつ継続的に電流を供給するのか、その仕組みを知らなかったのです。今更ながら、私はそれを実物で見て学びました。
 以前、テレビを見ていたら、エンジンに詳しい俳優さんがいらして、エンジンの動く仕組みを延々と話そうとして、それをするのを番組内で聞き手から止められていました。それを話し出すと、いろんなことが関連して、私たちが一般的に知らないことまで話が及んでしまうからです。一般的に、私たちは、身の回りにある機械について、案外、知らないことが多いのかもしれません。これまでの私が誤解していたように、草刈機や揚水ポンプなどは、(電池や蓄電池が付いていないはずなのに、そのことを忘れて)スターターのひもを引っ張って、エンジンの軸に速い回転運動を与えさえすれば、簡単にエンジンが始動するのだと思い込んでいるのかもしれません。