『今年の漢字一文字』の楽しみ方

 先日、毎年恒例の、「今年の日本の世相を表す漢字一文字」についての発表が清水寺で行われました。私も興味があって、ついテレビでその模様を観てしまいました。いろんな人が、その発表前に予測をしていました。しかし、そうしたいくつかの予想を裏切って、その漢字一文字は『金』であると発表されました。
 実は、この漢字一文字の『金』は、一般からの応募で一番多かった漢字だったのです。つまり、これは多くの人々による多数決だったということを、私は改めて知りました。それと予想が違っていた人は、残念に思ったことでしょう。確かに、今年の漢字一文字を予想するのは、一つの楽しみ方かもしれません。けれども、予想が外れると、ちょっとがっがりしてしまったり、その結果を意外に思ったりするものです。
 そこで、今回私は、もう一つの楽しみ方を提案したいと思います。まず、「今年の自分自身にとって印象深かった漢字一文字」を思い浮かべます。そして、その漢字一文字が、「今年の日本の世相を表す漢字一文字」とどう関連付けられるかを、あれこれ考えるのです。
 例えば、私のこの一年は、農業機械の修理と農作物の調理とに、労力と時間を割(さ)いたことが印象深かった一年でした。つまり、修理と調理に共通の『理』という漢字一文字が、今年の私の活動を端的に表しています。そこで、その『理』と『金』との関連付けを行ってみるわけです。
 一見、この両者の漢字には、何の関連もないように見えます。実は、その通りなのです。そこで、私は考えました。ひらがなの『り』と『き』を関連付けるのが難しいのと、同じ理由であることがわかります。そこで、『り』の付く言葉と『き』の付く言葉をそれぞれ思い浮かべましょう。『りす』と『きつね』が思い浮かべば、どちらも動物の名前であることになります。簡単な『なぞかけ』みたいなことをすればよいのです。
 同様に考えてみれば、『機械の修理』や『食物の調理』を他人に任せないで自前でやることは、『お金(経費)の節約』につながりました。すなわち、修理・調理の『理』は、今年の日本の世相を表す漢字の『金』と見事(みごと)に関連付けられました。
 以上のことについて、簡単に種明かしを致しましょう。私たちがよく知っている『選挙』なんかもそうですが、この世に多数決と呼ばれるものは、イメージ的には、何か一つの真実を決定するもののように一般に考えられています。しかし、このような考え方には、疑いの目を向ける必要があると思います。
 理由は簡単です。それは、一人として全く同じ脳みそを持っていて、全く同じ思考をしている人間がいないからです。Aさんが「賛成。」と言うのと、Bさんが「賛成。」と言うのと、Cさんが「賛成。」と言うのとでは、表明した言葉は同じでも、その根拠となった考えは、AさんとBさんとCさんとではそれぞれ微妙に違うと思うのです。それぞれ根拠となった微妙に違う考えの最大公約数がAさん・Bさん・Cさんの同じ「賛成。」という言葉に集約されているというわけです。
 そのように考えてみると、『今年の日本の世相を表す漢字一文字』というのは、自明の真理というよりも、多くの人たちの思いの最大公約数であって、トレンド(つまり、動向や傾向という意味)とか世相とかが何らかの形で表されたものと言えます。結局、この場合の多数決というものも、漢字一文字という器の形を決めるだけのものであって、その中身(なかみ)となる、人それぞれの考えまでこと細かに決めてしまうものではないと思うのです。よって、各人が、それぞれ根拠とする考えや思いをその中身に入れていけばよいと思うのです。
 大雑把(おおざっぱ)な説明だったかもしれませんが、そのように考えるのが正しいのではないか、と私は思います。