架空の人物たち(その2) めだか先生

「よくわからないんです。…自分のできることとできないことがまだわからないんです。…私、今まで何かをとことんやった経験がなくて…、それは教師としてって意味じゃなくて、……人として…。私、…情けないんですけど、自分の限界がどこまでなのか、さっぱり見当がつかないんです。だから、先生方のように正しい判断ができません。本当にすみません。」(学年主任の国見先生に怒られて、目黒先生が答えた言葉)
 フジテレビの連続ドラマで2004年の10月から12月にかけてやっていた『めだか』というドラマの中で、めだか先生(目黒先生)がこのように言うシーンがあります。『めだか』とは、主人公の目黒先生(目黒たか子さん)のあだ名で、学生時代にそう呼ばれるのを本人がすごく嫌っていた、という設定になっていました。ドラマのあらすじについては、すでにネットで語られていますので、あえてここでは繰り返しません。このドラマの脚本を書いた人は、『やまとなでしこ』(の中の数話)や『恋ノチカラ』でも脚本を書いていて、(おそらく偶然でしょうけど)寿退社とかヘッドハンティングの手違いとかリストラとかで、会社をやめた(もしくは、やめさせられた)若い女性の物語をそれぞれ描いています。OLとかの今までの会社勤めをやめたことで、主人公の女性が新しい環境に置かれて、初めて何か見えてくるという話の展開になります。いずれのドラマにも、このあたりに作品のリアリティ(現実にありそうな感じ)を私は感じていました。
 目黒先生は、たまたま大学で教員免許をとっていたとはいえ、実務経験ゼロの新米教師であり、しかも、今までの人生を無難に『ゆるく』生きてきた女性でした。それが、定時制高校という特殊な環境に遭遇して、老若男女入り乱れた人間関係の中で悪戦苦闘するという所が、このドラマのすごく面白い所でした。定時制高校生やその教室が舞台となる、いわゆる定時制高校もののドラマはほかにもいくつかあります。が、私はこの手のドラマをほかに見ていなかったので、かえって新鮮に思ったのかもしれません。見ていたとしても、『白線流し』くらいでした。
 目黒先生は、教師として未熟だから、その未熟さゆえにいろんな問題を引き起こすトラブル・メーカーになってしまいました。それぞれの問題をかかえている定時制の生徒たちに、個人的に関わりすぎて毎回失敗してしまいます。学年主任の国見先生に怒られるばかりか、最初のうちは誰にも理解されませんし、助けてもらえません。そこで、彼女は初めて、自分自身が一人の力でやれることがわかるようになります。
 私は、この目黒先生に勇気づけられて、目黒先生が本当に好きになりました。でも、主役のミムラさんのほかのドラマや映画を見ても、この『めだか』ほど好きにはなれませんでした。つまり、私は『めだか先生』(目黒先生)という架空の人物を好きになってしまったのです。レンタルビデオ屋さんに行っても、このドラマのDVDはよく見かけます。けれども、実は私はこのドラマのDVDを以前買っていて、今でも持っています。目黒先生見たさに、今でもこのドラマを見ることがあります。
 目黒先生のどこが面白いのか、というと、まず顔が面白いです。見る人によっては、目黒先生の顔がかなり変に思うかもしれませんが、私には表情とか見た目とかが親しみやすい感じがします。いかにも、生徒一人一人にちょっかい出しそうな風貌です。また、OL時代に対する反動でしょうか、それともその逆かよくわかりませんが、髪型と服装が毎日ちがいます。演出の上で、毎日ちがう髪型と服装を見せることでドラマの時間の経過を表現しているのかもしれませんが、目黒先生の髪型と服装は毎日みごとにちがうのです。そして、何よりも、そのおかしな顔と言動で、生徒のことを思い、生徒のために必死になっている姿が健気で心に残ります。私は、きっと、そんな『めだか先生』に共感し、好きに思うのです。