野菜を買いに行く

 農業をしているのに、スーパーや直売所へ野菜を買いに行く、と言ったら変でしょうか。自給自足のイメージが農業にはあるので、おかしいと思われても仕方がありません。しかし、自分で作るより買った方が安くてすむとしたら、どうでしょうか。私は、自ら野菜を作るよりも、それを買った方がお金がかからないのであるならば、買う方が合理的だと思っています。
 一般的に見て、この仕事をしている人は、野菜のほとんどを自給しているイメージが強いと思います。それゆえに羨ましがれることが多いのですが、私の場合はこの仕事を仕事と割り切っているので、自給自足しなければならないとは必ずしも思っていません。野菜を自給するには、そのための前提条件が必要です。すなわち、お店で売っている野菜よりも安く栽培・収穫できなければなりません。もし、お店で売っている野菜よりも安くて質の良いものができるのであれば、野菜の栽培と自給は意味があると思います。
 私は時々いくつかのスーパーや直売所に行っては、野菜売場を必ずチェックします。そして、価格が安くて質がそこそこな野菜があれば、買うこともあります。その点は、普通の消費者とまったく同じです。つまり、自ら買うことによって、野菜を買う一般的な消費者の気持ちを学ぶことができるのです。この経験が、直売所などに自ら野菜を出荷して売る場合に役に立ちます。
 実は、一昨年までの私は、お米を作っていませんでした。スーパーで一番安いお米を買って、食べていました。家から近くのスーパーで安いお米が買えるのですから、自ら稲を栽培する必要はない、と思っていました。お米を作っても、仕事が増えるだけで、忙しくなるだけだと思っていました。それはそれで合理的な考えでしたし、その時は正しかったと思います。しかし一方、昨年と今年で稲を栽培し、お米を作り、ワラを集めて保管してみると、まったく違う観点からこの仕事を考えるようになりました。さらに、今までの私自身の生活そのものに対する考えにも変化が生れてきました。当然のことながら、スーパーの安いお米と、自分自身で作ったお米の違いにも気がつきました。
 いずれにしてもスーパーなどの食料品売場に行って、いろいろと確かめてみることが大事なのです。ある意味で、生きた勉強と言えます。物を買ってくれる消費者の気持ちや経験を知ってこそ、人に物を売れる生産者になれるのではないかと思っています。