人の免疫機能について学ぶ

 mRNAワクチンは、どうして効果が高いのか。その問いから出発して考えてみることにしました。基本的な知識から申し上げますと、ワクチンは一般に、特定の病気にかかるのを予防するために使われます。したがって、病気になってから使われる治療薬(普段、私たちが『薬』と呼んでいる物)とは区別されるのが普通です。病気に対する抵抗性を獲得させるために、ほとんどの薬はその症状を緩和させます。その薬を服用して、逆に症状を悪化させる場合は、逆効果だとして、その薬の使用を中断したりします。しかし、ワクチンの場合は、感染症などの予防のために使われるために、ある程度の副反応がないものは、逆に効き目がなかったりします。それは、なぜでしょうか。さらにまた、ワクチン接種(あるいは、追加接種)の効果として、抗体量を増やすとか、感染を抑制するとか、一般に言われています。けれども、それらは、ワクチン接種(あるいは、追加接種)の個々の結果にすぎません。ワクチン接種の本当の目的は、各人の免疫機能を発達させることのはずですが、なぜそのようにアナウンスがされないのでしょうか。これらの疑問に答えるために、私はまず、免疫機能について学ぶことにしました。私は、大学受験で生物の試験を選択して、医学部に合格して、エリートのお医者さんとなることを目指すために利用される、定価『本体2500円+税』の学習参考書を参考にして独学で勉強することにしました。

 人の体内の免疫機能には、自然免疫と、獲得免疫(適応免疫)があります。胃酸や粘膜などの生体防御に対して、病原体(つまり、抗原)が体内に侵入した場合に働くのが、それらの免疫機能です。実際には、前者の自然免疫をかいくぐった病原体に対して働くのが、後者の獲得免疫(適応免疫)です。しかし、これらの免疫は個々に独立して働いているわけではありません。たとえば、後者の獲得免疫(適応免疫)でできる『抗体』が、単独で働いて、病原体(つまり、抗原)をやっつけることはできません。必ず、前者の自然免疫のマクロファージや樹状細胞に病原体(つまり、抗原)を食べてもらって、処理されます。つまり、自然免疫と獲得免疫(適応免疫)とはタッグを組んで働いてこそ、有効なのです。
 まず、自然免疫についてですが、『白血球』として一般には知られている好中球は、異物を取り込んで共に死にます。それが集積すると、膿(うみ)になることが知られています。これもまた、『アメーバ状の白血球』として一般に知られているマクロファージや、樹状細胞にも、異物の食作用があります。さらにまた、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)といって、病原体を直接殺す作用を持つものも自然免疫としてあります。しかし、それらはいずれも、免疫を記憶することはできず、行き当たりばったりで作用するため、病原体(抗原)に量的あるいは質的に対応できない場合も出てきます。
 そこで、『免疫』として一般に知られている獲得免疫(適応免疫)の出番です。既に書いたように、自然免疫をかいくぐった病原体(抗原)に対して働きます。特定の病原体(抗原)に対してのみ有効な『抗体』というものを作り出します。その『抗体』は、病原体(抗原)と結合して、その活性を抑える(不活性化する)ことによって(抗原抗体反応)、マクロファージなどに食処理させやすくします。
 そこにもっていくためのメカニズムをなるべく簡単に述べておきましょう。病原体(抗原)を食べたマクロファージや樹状細胞は、ヘルパーT細胞に抗原の断片を伝えます(抗原提示)。そのヘルパーT細胞の側は、T細胞レセプターという細胞膜のタンパク質で、その抗原提示を受けます。また、そのマクロファージや樹状細胞からはインターロイキンー1(IL-1)という物質が分泌されて、その抗原提示を受けたヘルパーT細胞の増殖を促し活性化させます。そのように増殖したヘルパーT細胞からは、インターロイキンー4(IL-4)という物質が分泌されてB細胞の増殖を促し、かつまた、インターロイキンー2(IL-2)という物質が分泌されてキラーT細胞を活性化させます。
 さらに、今度は、抗原をB細胞レセプターという細胞膜のタンパク質で取り込んだB細胞が、ヘルパーT細胞に抗原提示します。すると、そのヘルパーT細胞から、上述のIL-4という物質が分泌されて、その刺激を受けたB細胞が分裂・増殖して、さらにいわゆるプラズマ細胞に分化するものが出てきます。そして、その分化したB細胞が、抗体を産み出して、それを血しょう中に分泌します。これが、世間一般に知られている『抗体』というものです。その『抗体』は、可変部と定常部が結合して、そのアミノ酸配列からY字のさすまたのような形で描かれることが多いようです。これも、既に述べたように、その可変部が、特定の病原体(抗原)と結合しやすくなっていて、抗原抗体反応を起こして、その活性を抑えます。さらに、多数の抗原抗体の結合によって、大きな複合体が形成されて、がんじがらめとなることで、病原体(抗原)の活性が抑えられたりもするようです。
 以上が、獲得免疫(適応免疫)のうちの、体液性免疫のメカニズムのあらましです。確かに、抗体を産み出したB細胞は、寿命が短くて、すぐ死んでしまいます。ということは、抗体は消耗していって、時間が経つにつれて半減し、やがて激減してしまいます。これは、実際に、ワクチン接種後の抗体量の追跡調査で明らかになったとおりの事実です。
 しかし、それで終わりではありません。増殖したB細胞やヘルパーT細胞の一部は、抗体を産み出すことには参与せず、次の同じような病原体(抗原)の侵入に備えて待機しています。それを『記憶B細胞』や『記憶ヘルパーT細胞』と言います。つまり、時間の経過と共に抗体量が激減しても、『記憶B細胞』や『記憶ヘルパーT細胞』は残っているわけです。そして、2回目以降の同じ病原体(抗原)が体内に侵入すると、前回よりも非常に速く、しかも大量に抗体を産み出すことができます。このような現象を「免疫記憶が形成されている」と言うのだそうです。
 だから、ワクチンの追加接種が、擬似的な病原体(抗原)の再侵入であるとするならば、そのブースター効果は、ワクチンの薬物効果なんかではなくて、かくのごとく免疫機能を生かした『当たり前の現象』なのです。世間一般の人々が、ワクチンの追加接種に踏み切れないのは、そのような自然科学的な知識を全く知らないからだと思います。つまり、ワクチンに対する人々の不安や疑惑を真摯(しんし)に受け止めて、説明していく力がお偉いさんに無いから、こんなことになるのです。でも、これ以上は、愚痴になるから、やめておきます。
 さらに、それだけに終わりません。獲得免疫(適応免疫)には、上に述べた体液性免疫のほかに、『抗体』が関与しない細胞性免疫があります。上に述べたB細胞の代わりに、キラーT細胞を当てはめて、その働きのメカニズムをご想像ください。ただし、キラーT細胞は抗体を作りません。だから、抗体量の増減は全く関係がありません。また、キラーT細胞は、病原体(抗原)に感染した細胞をアポトーシス(プログラム細胞死)に誘導するための、たんぱく質酵素などの物質を持っています。それを使って、病原体(抗原)に感染した細胞を殺すわけです。既に述べたようにヘルパーT細胞から分泌された物質によって、キラーT細胞も増殖します。その一部は活性化せずに、『記憶キラーT細胞』として残ります。もちろん、増殖したヘルパーT細胞の一部も残りますから、次回の抗原の侵入では、より速やかな細胞性免疫が期待できます。すなわち、『抗体』とは関係なく、この細胞性免疫においても、免疫記憶は形成されるのです。

 私が今回の独習で利用した学習参考書には、炎症や発熱について、コラムが載っていました。それを簡潔に述べると、次の通りです。(私たちの体は)異物の侵入によって、局所の細胞から警報物質が分泌される。その警報物質によって血管が拡張して、血流が増加して、局部が赤くはれたり、熱をもつようになる。神経が刺激されて、痛みを生じる。そのような炎症反応により、水ぶくれができたり、好中球やマクロファージなどのいわゆる白血球が、毛細血管から炎症の箇所に移動してくる。また、マクロファージからインターロイキンという物質(サイトカインの一種)が分泌されて、白血球などの細胞を増殖させたり、脳の体温調節機能に働きかけて、全身の体温を上昇させる、等々の内容でした。
 つまり、私たちが日常的に『発熱症状』と呼んでいるのは、病気そのものではありません。かくのごとき体のメカニズムによって、病原体の侵入を警告していると考えるのが正しいわけです。それは、ワクチン接種後の発熱も同じです。私の手元の学習参考書には、そのコメント内容として次のようにも書かれています。「風邪をひいて発熱したときに安易に解熱剤を飲んで熱を下げると、せっかくの自然免疫が抑えられてしまう危険性がある。素人考えでむやみに薬に頼るよりも、暖かくして安静にして寝ているのが一番かも。」
 そうはいっても、熱があるとだるいし、風邪を治したい気分もなえてしまう。その辛いのを我慢できないから、いち早く解熱剤に頼ってしまうのも人情としてわからなくはありません。しかし、このコロナの流行時期に、私的に解熱剤を服用して熱が下がったからといって、PCR検査のために外出したら、その道なかばで容体が急変した人の例もありました。それは決して、新型コロナウィルスに飛び抜けた毒性なんかがあったからではなく、人の免疫機能の一つである発熱症状を誤解していた可能性が強いと思います。そうであると、ここまで読んで下さった皆様にはおわかりのことと思います。