JーPOPのMVの英文字幕に一言

 あれは今年のバレンタインデーの次の日のことだったと思います。ネットのYouTubeで何かないかと検索していたら、あるJ−POPのMVに引っかかりました。おそらく、『バレンタインデー』と『デイト(date)』とが、関連する内容の言葉として繋(つな)がったためでしょう。そのおかげで、『真野恵里菜Song for the DATE」 (MV)』というタイトルのその動画を私は初めて見たのですが、面白いと思いました。
 真野恵里菜さんと言えば、ずっと以前に深夜のテレビで見た『フェイスメーカー』という奇想天外なドラマで女子高生役でゲスト出演されていたのを私は見たことがあります。しかし、私は真野恵里菜さんのファンではありません。アイドルのコンサートとかも、見に行ったことがありません。ずっと昔に、東武動物公園のステージで石川秀美さんが歌っているのをたまたま見かけたことがありました。それ以来、その手のステージを見たことがありません。
 そのMV(ミュージックビデオ)が映像的に面白かったのは、飯塚健さんというクリエーターの作品だったことによると思います。黒いワンピースの本人と、白いドレスの(おそらく)本人の虚像の関係を描いたショート・ストーリーでした。しかも、私はそのショート・ストーリーの主人公の真野恵里菜さんのことをよく知りません。かえってそのことが、その映像を面白く感じさせたのだと思います。
 また、そのMVは音楽的にも面白く思いました。その「Song for the DATE」という曲は、二人の男性ユニットのMIKOTOさんの作品でした。どこが良かったかと言うと、曲全体でメロディーラインが美しく、巧みな感じがしました。その曲のメロディーの美しさは、まさに"unbelievable"(アンビリーバブル)な、すなわち、信じられないものでした。
 英語訳の字幕付きのMVも、既にあったので、参考に見てみました。Red Freesiasさんの翻訳とJacquelyn and masaさんの翻訳とpinoymanofriendさんの翻訳によるもの、つまり、三通りの英文への翻訳を観ることができました。どれも、ほぼ完璧に翻訳されているように私には感じられました。ただし、もしも私がこの曲の歌詞を英文に訳すならば、ちょっと違う和文英訳になると思います。申しわけありませんが、ちょっとケチを付けさせていただきます。
 例えば、その曲の冒頭の「な・ん・と・な・く」というメロディとリズムが、力強くて、かつ快くて透明で、不思議な感じがしました。その言葉には、日本語本来の力があるように感じられました。田中康夫さんの小説のタイトルの『何となくクリスタル』のあの「なんとなく」と同じような意味だと私には思われました。私はその小説の中味を読んだことはありませんが、「なんとなく」という言葉の意味が「なんとなく」わかったりするのです。日本人は皆それを「なんとなく」わかるのだと思います。しかし、これを"somehow"という英単語一つで置き換えてしまうのは、ちょっと味気ないと思いました。
 この曲の翻訳に関わらず、外国人の方々のする和文英訳には、この"somehow"が多いように私には思えました。「何が何だかわからないけれど、何となく…」とか「よくわからないけど、とりあえず、その場では何とかして…」とかいうふうな場合に、その言葉は使われるようです。現代日本の文化や風習や日常的な習慣には「何が何だか」わからないことが、外国人の方々にとっては多いのかもしれません。従って、その"somehow"という言葉の出番も、多くなるというわけです。その場でわからないことを、とりあえずブランクにして、先に進みましょう、ということもできます。とても便利で、使い勝手の良い、都合の良い言葉だと思います。
 「他人の批判ばかりして、それじゃあ、あなただったらどう訳すのか。」と言われそうなので、私はそれに答えたいと思います。その曲の冒頭の「なんとなく見上げた空は」の「な・ん・と・な・く」は、何となく見上げた空の描写をすればよいと思います。情景描写と言っても、このような美しい日本語で5音節しかありませんから、単純なものしかできないとは思います。けれども、"somehow"のままでは、『のうてんき』で平和ボケした日本人がボーッと空を見上げて、思考停止しているように見られて、それでは良くないと思います。何となく見上げた空に、私たちが何かを見て感じたことを、英文の歌詞できちっと伝えたいと思います。私だったら「サン・シャイン・イン・ザ・スカイ」("Sunshine in the sky")と表現します。
 文句が過ぎる、こだわりすぎると言われるかもしれませんが、そんな考えや見方もあるのかなあ、くらいに見てもらえればいいと思います。